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I.まとめ
 本年度の調査では、2002年4月23日から5月11日までの期間、松田肇・大前比呂思・松本淳の3名が派遣された。調査地は、いずれもメコン川本流域および支流域に位置する8地区(スタントレン省の2地区、クラチェ省の4地区、およびカンポンチャム省の2地区)とした。各調査地では、小学校児童から血液と糞便の検体を採取すると同時に、本年度調査の新たな試みとして、メコン住血吸虫虫卵抗原に対する、全血を検体とする迅速ELISA法による検査を現地で実施した。本検査法の特徴は、極めて微量(20μL程度)の血液で検査が可能であるため、被検者への負担が小さいことである。また、すべての検査反応が短時間内(60分間程度)で終了するので、検査結果を被検者本人や調査地住民にその場で示すことが可能である、という利点も備える。本法による検査の結果、各調査地における抗メコン住血吸虫抗体陽性率は、次の通りとなった。Sdau: 79.5% (31/39); Koh Sneng: 34.8% (24/69)(以上2地区はスタントレン省); Achen: 47.7% (42/88); Sambo: 85.2% (75/88); Kanh Chor: 22.7% (20/88); Chhlong: 21.6% (19/88)(以上4地区はクラチェ省); Kok Kokh; 25.0% (22/88); Kok Prah: 30.7% (27/88)(以上2地区はカンポンチャム省)。カンボジアにおけるメコン川の最下流域にあたるカンポンチャム省では、これまでメコン住血吸虫症の流行は確認されていなかったが、今回の調査では未確認の流行地の存在が示唆された。今後、慎重に調査をおこなう必要がある。なお、迅速ELISA法による検査は、血清を検体とする従来の検査法と比べても遜色のない検出感度・特異性を有することが、帰国後の追試験で確認された。本法は、今後の疫学調査の進展に大きく寄与することと期待される。一方、スタントレン省およびクラチェ省の5地区において、合計406人の児童を対象に糞便検査を実施した結果、陽性者はわずかに3例であった。現在、カンボジア国保健省が中心となって、全国的な集団駆虫を毎年定期的に実施している。その成果が糞便検査の結果に現われているものと考えられる。このように、住民のメコン住血吸虫感染率低下にともない、検出感度が低い従来の糞便検査のみでは、本症の流行状況を把握することが困難な状況になりつつあるのを再確認する結果となった。一方、一般住民を対象とする腹部超音波検査は、Sdau・Koh Sneng・Achen・Samboの4地区で実施した。合計150例余りの超音波画像所見について解析した結果、最も重症化した病態を示す所見である、いわゆるネットワークパターンを呈する被検者は、これまでの調査結果と同様に皆無であった。メコン住血吸虫症では、他の住血吸虫症ではみられない特徴的な超音波画像所見が得られており、超音波画像による本症の診断には、独自の評価基準を新たに確立する必要がある。
 カンボジア王国保健省・国立寄生虫・昆虫学・マラリア対策センターの住血吸虫症プログラムマネージャーであるDr. Muth Sinuonが、住血吸虫症対策の研修のため、2002年9月21日に来日した。獨協医科大学・熱帯病寄生虫学教室においてメコン住血吸虫の実験室内維持法・血清診断法・腹部超音波診断法などについて研修を受けた。滞在期間中に第8回目・韓寄生虫学者シンポジウム(前橋)、日本寄生虫学会東日本大会(新潟)、自治医科大学等において多くの寄生虫学者と親交を深め、寄生虫学全般についても研修した。また、千葉県木更津市・小櫃川流域、山梨県甲府盆地の日本住血吸虫症旧流行地を視察し、中間宿主貝を採集した。山梨県公害衛生研究所では本症の撲滅対策の経緯について講義を受けた。研修終了直前の11月6日に笹川記念保健協力財団に表敬訪問後、11月8日に離日・帰国した。







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