もう1種類国際船舶があります。もっと日本籍船を増やしたいということで考えられた制度ですが、日本人船員は原則船長と機関長だけでいい。あとの職員は日本の海技免状は与えないが、国際条約に加盟している国が発行した免状は承認しましょうというものです。ただ手放しで承認するわけにはいかないので、航海士、機関士については確認のための試験を英語で行うとしたものです。要するに、限りなく便宜置籍船に近い混乗形態の日本籍船を認めるから日本籍に帰ってこいというものです。
前に申し上げたように、コストはパナマよりはるかに高く競争に勝てない。関係する省庁との煩雑な手続きがたまらないということで、外国の競争相手と同じ条件にしてほしいというのが、日本船主協会、日本海運の立場です。昔の大蔵省は、税制についてはいくら説明しても、海運だけ特別扱いはできないという一点張りです。当初承認制度適用の国際船舶はたった3隻でした。郵船と商船三井とKラインと1隻ずつの3隻だったのですが、いまは10隻に増えたそうです。理由はわかりません。どこからか圧力がかかったのではないかと思っています。
このようにして乗組員の構成もすっかり変わってしまったわけですが、よく考えてみると欧州の海運ではとうの昔からインド人や中国人との混乗は経験済みです。
それで国際的なところに目を向けますと、世界の大手海運会社の名前がずいぶんと消えていっています。皆さんご承知と思いますが、たとえばアメリカにシーランドという大きな船会社がありました。軍需物資を運んで成功した会社ですが、デンマークのメルスクに吸収されています。イギリスのP&Oは大変有名な会社ですが、ついにオランダのネドロイドに吸収されています。アメリカのAPL、客船がよく走っていましたが、これは何とシンガポールのNOLという会社にそれぞれ合併されて名前が消えています。
日本の場合、かつてたくさんの外航海運会社の名前がありましたが、集約合併によって国内で淘汰され、外国の企業に吸収された例はありませんでした。こうした大きな変化を追ってみますと、海運という企業はその性質上、国という枠を越えて生きていかなければならない運命にあるのではないかと思われます。
そこで50年先、日本海運、世界の海運産業の姿はどうなっているか考えてみました。予見しようというのではなく、私の場合はこうあってほしいという希望を述べさせていただこうというわけです。まず将来の海上輸送量を増加する人口との関係で押さえておきたいと思います。船主協会の資料によると、紀元2000年の世界の海上輸送量は54億トンです。最近の10年間の伸び率は、10年間で35%伸びています。少々乱暴ですが、この伸び率を2050年まで単純に引き延ばすと240億トン、現在の5倍近くの輸送量になると推定できます。
問題は人口増加ですが、現在約60億、2050年には100億とも110億とも言われています。いま世界の物資の輸送量は、人口1人につきほぼ1トンで済んでいますが、果てしない人間の消費欲が50年後1人2.4トンで済むと思うのは無理だろうと考えられます。ことに急激な勢いで中産階級化しています中国13億の人たちや、その他の発展途上国の人たちのことを考えると、240億トンの推定は甘いと思います。
そしてそのときの輸送力の主役は、やはり船しかないと考えられます。そしてその船が十分な輸送能力を発揮できないような事態がもしも起こると、地球人類をパニックに陥れる可能性を秘めています。余裕のある安定した輸送力の維持は、水や空気と同じように大事なウェートを持つものだと考えられます。こういうことを考えますと、海運産業の責任は非常に重いものだと思います。自由競争の元祖のように言われている海運ですが、理想を申せば安全を犠牲にしたコスト競争などもってのほかで、必要な物資を必要なときにきちんと運び届けることを目的とする聖なる業の実践者であるべきではないかと思います。
これは地球全体の問題ですから、海運業は必ずしも特定の国に所属する必要はありません。また船舶の運航に直接携わる乗組員の養成についても、各国が自国船員をそれぞれ教育するという形態は将来はなくなって、世界で何カ所かの船員教育場所が定められて、それを待っているという話を聞きましたので、嘘ではありません。8階建ての昔の丸ビルのような大きな波が押し寄せてくるわけです。
皆さん「パーフェクトストーム」という映画はご覧になりましたか。WOWOWでもやっていましたが、ものすごいですね。「嘘だろう」というセリフがあります。波を見て乗組員が「嘘だろう」と言ったのですが、あれです。生唾を飲みこむだけで声も出なくなります。波の急斜面を漁船が登っていくシーンもありましたが、あれはコンピュータグラフィックのつくりごとだろうと思います。
大きなうねり、波にうまく乗り切れないと、船は波の中に突っ込んでしまいます。船首が波の中に突っ込んで見えなくなります。船の前半分はしばらくは海の中です。やがて青い海水を持ち上げながら、ゆらゆらと出てくるわけです。そのときに前がなかったらどうしようと思うのですが、私の場合は無事に前はちぎれないで帰ってきました。
波にうまく乗れた場合、船首が空に向かって突き上げるような格好になります。おそらくそのときは船の前のほうは水には浸かっていないと思います。そのあとが大変です。波の谷間に向けて突っ込んでいくわけです。今度はプロペラが水面に出てしまう番です。エンジンは空回りするとものすごい音を出します。ブレーカーがききますから回転は抑えられますが、そういう状態になると船は危険です。下手をすれば折れてしまって沈んでしまいます。
いろいろなストレスが船体各所にかかりますので危険です。このようなとき船長がすることは二つあります。まずコースを変えてみます。うねりとの出会い角度を変えてやります。これでだいぶ楽になります。だめなときはエンジンの回転数を落とします。この二つをやってしまうと、あとは打つ手がありません。神様に祈るという手が残っていますが。
私のときも非常に状況が悪くなって、コースを変えてスピードを落としたけれどもものすごい揺れが続く。それではUターンしよう。ちょっと卑怯ですが、敵に後ろを見せてUターンしようと思いました。ただ、Uターンといっても危険です。真横になったときに、大きなうねりが来ると船は引っくり返るかもしれません。それで夜になる前に、ストップウォッチを持って大きな波の来る間隔を勘定します。何分おきに来るかというのをだいたい頭に入れて、「いまだ。エンジンをいっぱい回せ。ハードスターボ」ということで回頭します。
船の向きを180度変えるのに、鉱石船は鈍重ですから10分はかかります。10分間もじもじしながら、頭が風下に向くまでがまんするわけです。もちろん翌日、翌々日になればここで共通のマニュアルを使って教育する。学ぶべき内容と保有すべき資格が定められて、どこで学んでも基本的には同質の船員が必要数できてくるということになればいいのではないか。そしてその1つには、ぜひ日本がなってほしいと思っています。
いままで変化している状態を申し上げてきましたが、これから変化に潜む危機と安全運航ということで、変化だけではなく、そこでどのような危機が発生したかということに触れてみたいと思います。海難事故の統計を見る限り、外国人との混乗が原因の事故が増加しているという報告はいまのところないようです。事故はありますが、増加しているということではない。
その根拠としては、日本の大手海運会社や先ほど申し上げた船舶管理会社が現地に立派な教育施設をつくって教育し、できのよいのを選りすぐって採用しているという背景があります。できのよいのはそんなにたくさんいないそうで、一握りくらいしかいない。たまたまそのような投資もしていない海運会社のある営業担当マンが現地で航海士を採用し、コストの安さを社内で自慢して鼻高々だったのが、ほどなくかなりシビアな海難事故を起こされて大損害を被ったという話も伝わっています。安物買いの何とやらです。現地では500ドルくらい出すと海技免状が買えるそうです。
また首尾よく、日本船の乗組員になることが出きると、彼らにとっては大変高収入なので、ぜひ再雇用してもらいたいと期待して熱心に働くようです。ただし日本人と違うのは、契約に基づいてドライに仕事をするので、命令をきちんと出しさえすれば言われたことはやる。ただ、「一を聞いて十」を知るということはない。ツーカーではないんです。言わなければやらないという面がありますので、管理をする日本人側にかなりの高いロードがかかっていると言えます。
では何が危機かといいますと、簡単に言うと、例えば油を積むタンカーがときに危険な紛争海域に入るのを彼らが承知するかどうか。これは今のところ保証はないと思っていいのではないかと思います。契約でそういうことが書いてあれば別ですが、非常に心配です。日本の国益にとっては不安な要素です。かつてのイラン・イラク戦争のときはまだ日本人だけの乗組員でしたが、全員行ってくれました。1、2名の死傷者が出ましたが頑張りました。
もう1つは前に申し上げたとおり、私が新米だったころ、先輩たちが厳しくしつけてくれたのは海技の伝承の現場だったわけです。新人を仕込むには最初が肝心です。まさに鉄は熱いうちに打てということで、兄貴分の三等航海士、二等航海士が手取り足取り教えてくれて、3カ月で一応ものになりました。これを便宜置籍船ではどうでしょうか。肝心の兄貴分である上司は外国人です。彼らは後輩を育て上げるという気持ちはまず持ち合わせていません。なぜかというと、自分のライバルになるかもしれない人にわざわざ塩を送ることはないということです。船内にいる本人は誰かというと、自分のおやじさんのような年配の船長しかいません。私も経験がありますが、なかなか船長に心安くものを尋ねるという雰囲気ではありません。ですから船長のほうから手を差し伸べて、自ら教育係を買ってやらないとうまく行きません。どうしても仕上がりは遅くなります。海技の伝承がスムースに行かないという危機がここにあります。安全運航の維持の観点から大いに心配なことです。
次に、日本人船員後継者の減少の話をします。20年前、3万3,000人を擁していた外航海運の在籍船員数は、いまや3,000名を下回る寂しさです。日本船長協会所属の正会員船長も年々50名ずつ減少して、いまでは800名になりました。外航海運による採用数は、平成13年度は航海士、機関士を合わせて48名でした。ここ数年、50名前後であまり変わっていません。ただ不思議なのは、求人数は75名あります。さらに就職希望者総数は陸上産業を含め商船大学・商船高専合わせて204名いて、201名が就職を果たしています。この不景気に立派なものだと思います。この意味を考えてみたいと思います。
求人数のほうが多いということは、たぶん海運会社の人気が低いか、就職試験でふられたかだと思います。たぶんその両方だと思います。ほぼ全員が就職できている現状は、商船学校というのは団体生活を送っていますので、その経験者に対する人気が高いということだと思います。
それから外航海運が例年50名程度の採用を続けているということは、このへんに採用計画の企業ミニマムというものを設定していると考えればいいと思います。言い換えれば海運周辺産業にお裾分けする分は考えていないということではないかと思います。例年、パイロットに40名ほど流出しているほか、定年退職者もあることを考えますと、50名の採用では今後も当分日本人船員の減少は続くと見なければいけないと思います。
海運の人気が落ちてくると、商船学校に集まる応募者の質が下がってきます。採用担当者の話を聞きますと、がっかりするほど学力の低い学生がいることが就職試験の結果わかっていると言います。致命的なボディーブローを受けているのと同じということで、将来が大変心配で、私どもも危機感を募らせています。
ではどういう姿になれば人気が出てくるだろうということですが、日本人船員数が昔の数に戻るということはたぶんないと思いますが、船機長の経験を持つ日本人でなければ困る仕事、たとえばパイロット(水先案内人)、海難審判官、海技試験官、種々の検査官などは外国人に任せるわけにはいかないので、確保する手立てが必要です。
ある海運トップはこういうことを言っています。乗船経験があって、実務的な海技を身につけた人がある年数を経たら、次は陸上で監督業務に就いてほしい。また、海運の経営者はいまはほとんどが法学部ですが、それもいいけれども半分くらいは船長経験者がなってほしい。若いときから海技を身につけ、そのうえで経済学なり法律を学んだ人が経営者になってほしい。欧州ではキャプテンが社長という会社がずいぶんあるではないか。この人はいまの世の中、海技者の経営参加の必要を痛感しているようです。そして日本の海運トップがこういう仕組みを育ててこなかったことを悔いていると感じました。
考えればそのへんに魅力ある船員のライフサイクルが描けそうだと思います。たとえば入社して10年くらいで船機長になる。31〜2歳ですか。そうしたらあと6〜7年乗ったら、36〜7歳で原則船を降りて監督業務に就くか、2年ほど法律、経済の勉強をして経営者の道を選ぶか。もちろん海運会社や社会が積極的にそういう道を開いて用意してくれなければうまくいかないけれども、目標ができて関係者の心がそろえば実現しそうな話です。国としても一定数の自国民船員確保の必要性を危機感を持って認識して、効果的な助成先を組んでくれれば何よりと考えます。こういうことしか申し上げられませんが、大変寂しい話だと思います。
次に、海難事故の恐ろしさにちょっと触れてみたいと思います。歴代の船主協会会長は口をそろえて、船の安全運航は海運業の根幹であると述べていらっしゃいます。当然のことで、そのために海難を起こさないよう、われわれは手を尽くしているわけです。船長としては30万トン積みのVLCCと言っていますが、大きなタンカー、または6,000個積みのコンテナ船もほぼ同じですが、船価が約70億です。それから荷物の価格が80億です。合わせて150億円の責任をいつも背負っていると考えているわけですが、海難を起こしますと損害額はこの20倍近くに膨れ上がるという例がありました。
“エクソンバルデス”という大型タンカーの事故をご存じだと思います。原油を満載してアラスカのバルデスという港を出帆して、間もなく暗礁に乗り上げて4万トンの原油を流出しました。アラスカの湾岸の海岸線を170キロメートルにわたって汚染した事件がありました。これは1989年でした。清掃費用として25億ドル余り、PI保険の油濁補償が5億ドルありましたので、差し引いて20億ドル、日本円にして2,600億円余りの損害になりました。
事故の原因は針路を変針する地点を間違えたとされていますが、船長に酒が入っていたということで、以後、出帆前8時間は酒は飲めなくなりました。こういうおまけがついているということです。たった150億だけではないということで、大変恐ろしいことです。大きな会社の1つや2つ、すぐにつぶれてしまいます。
それからまさかとは思いますが、最近10年間に500総トン以上の船が1,379隻も全損、または沈没で消滅しています。毎年130隻以上です。麦とかとうもろこし、鉄鉱石などを運ぶ船をみんなバルカーと言いますが、バルカーは10年間で150隻、260万トン沈んでいます。タンカーは150隻、430万トンがこの中に含まれています。毎年15隻ずつのバルカー、タンカーが沈んでいるということです。乗り上げもありますが、時化で船が壊れて沈没という例がかなりの数に上っています。
こういうのはともすると船長の不適切な操船が原因だなどと決めつけられやすい一面がありますが、要は過去に経験のない大型化に船の強度が追いついていない、不十分であるという結果だと私は言わざるをえないと思います。しけで壊れるようなやわな船をつくるな。そして古くなった船の使用は許すなということです。皆さん“ナホトカ”の事件はご存じですよね。古くなって破損して沈没して日本の海岸を汚したという事故です。いま世界中には1万トンから3万5,000トンのバルカーが2,500隻あります。そのうち1,050隻が船齢20年以上の老朽船、沈没予備船と言われていますが、恐ろしいことです。
今回のテーマではないので多くはお話ししませんが、船員にとって沈没と同じくらい恐ろしいのが海賊です。これがボートに乗って本船に乗り組む前の姿です。これはやらせの写真だと思いますが、服装、武器はこういうものです。
それからこれは国際船長協会がパンフレットをつくってばらまいたものですが、ピストルを持って、船尾から進入するところです。かぎ爪錨をポンと投げて、手すりに引っかけてよじ登ってくるわけです。こういうのが実際にたくさんいます。貧困が最大の原因ですが、こそ泥の間はいいのですが、最近では大きな組織による犯罪に発展しつつあります。
いま国際的にだいぶ海賊対策が動いていますので、少しは好転するかと思いますが、武器を持つことが許されていないわれわれがすることは、見張りをしっかりして、怪しいと思ったら船の電気をこうこうとつけて、汽笛を鳴らしてという方法しかないと思います。いまはシップロックという船からの送信が途絶えると警報が日本で鳴るという装置が船に付いていますのですばやい反応が可能になりました。
さて、今日は本当はサブスタンダード船について、知らない方もいらっしゃると思うので申し上げたいと思います。われわれは日夜安全運航を念じて精進を重ねているわけですが、大変腹立たしい存在がサブスタンダード船です。安全や環境に関する条約などに定められた国際基準、いろいろあるのですが、そういうものに知らん顔の船のことで、われわれは海難予備軍と呼んでいます。これは大変危ないです。
海上では右側通行が原則なのに平気で左側通行をしたり、東京湾でも一方通行の場所がありますが、ルールを勉強していないのでわからないんです。それで一方通行の道を逆行したりという船がたくさん東京湾にも入ってきています。われわれ船長協会は、そういうやりくった船が多いという噂を聞いたので、全国のパイロットさんの協力を得て、調査を開始したのが1998年です。今年で5年目になりますが、いろいろなことがわかりました。
調査項目は、船の設備関係、航海計器、海図の整備、乗組員の能力、コミュニケーション、保険加入状況など12項目です。船長の国籍は52カ国に及びました。その結果、問題ありとされた船の数が最も多かったのは、パナマが306隻、中国が71隻、ロシアが70隻、リベリアが57隻、フィリピン54隻と続きます。約2,000隻の調査をしたのですが、そういうことです。
指摘割合が高かったのは、北朝鮮、ホンジュラスは100%で、全部問題ありということです。ロシアが96%、ベリーズが91%です。調査項目の中で一番ひどかったのが海図です。航海で最も頼りになる海図の整備状況が、22%に問題がある。中には港の海図を持たないで、日本に来航するのに大きなスケールの海図3枚くらいで済ませている船があったということです。
関門海峡での出来事ですが、あそこは日本一難しい難所であると言われているのに、チャートテーブル、海図台の上には小さな関門海峡の観光案内図1枚がポンと載っていたという報告もありました。このほかPI保険、車で言えば任意保険です。強制保険以外に皆さん任意保険に入っていると思いますが、PI保険に加入していない船がロシア船で33%、北朝鮮に至っては100%が入っていない。
数年前に関門海峡に初めてやってきて事故を起こした“チュウハイ号”は、夜に衝突して沈没したわけです。マストを海面に出して擱座したことがありました。PI保険に入っていないので、引き上げ費用が払えない。危険な水路脇で1年間放置されました。結局、海上保安庁が国の予算を取って始末しました。こういう船は本当に腹が立つ話です。
特に悪いのは、1,000トン以下の東南アジアからやってくると見られる船です。これがだいたい94%がアウトです。2万トン以上の大型船になると悪い例が少なくなってきます。約30%です。トータルして約50%が問題あり、サブスタンダード船であるということです。調査を始める前に10〜20%くらいがだめかなという予想をしていましたが、完全に裏切られました。
この結果は記者クラブを通じて毎年新聞発表していますが、残念ながら一般紙、マスコミの反応は非常に鈍くて、危機感を盛り上げるには至っていません。以上のことは雑誌『海運』というのがありますが、2度ほど寄稿の機会を得て掲載されていますが、行政に携わる人たちの目にも留まっていることは間違いないのです。このような船がのこのこと東京湾の奥座敷を土足で踏み荒らしているのを何とか食い止めなければいけない。方法はいくらでもあると思います。
たとえばアメリカがやっているのは、事前通報制度です。その中にはISMコードと言って、船の安全管理の国際規則ですが、会社、船ぐるみでこういうことをしなさいといったコードがあります。それに関する証書が2つ、3つあります。その番号は何番であるかとか、PI保険に加入している証拠などを事前通報に含めるだけでかなり効果があるはずです。こういうことをやりなさいということは提案しています。
そして怪しい船には必ずパイロットの乗船を義務付けてはどうか。当然、法律の整備が必要だと思いますが、国の安全を守るには必要なことだと思います。すぐにやってほしいのですが、当局はピクリとも動いていません。このへんが危機といえば最大の危機ではないかと思っています。
そろそろ終わりになりますが、「海は広いな大きいな」という歌があります。日夜海上輸送に励みます商船にとって、海は決して広くないんです。私たちは世界の三大輻輳海域ということを申しています。ドーバー海峡、マラッカ海峡、もう1つは日本沿岸です。ドーバー、マラッカ海峡には分離通行帯が敷かれています。一方通行で、行き帰り違うルートを通りなさいということで、厳しく通行規制が敷かれています。ただ、日本の沿岸は放置されたままです。くしの歯が交錯するように船は入り混じって走っていて、非常に危険です。そのうえ漁船の群れがその中で平然と漁をしています。無秩序な海域そのものです。
日本財団の曽野会長は、海を知ることは人間としてささやかな義務であるとおっしゃっています。政治家、海にかかわる行政官、日本のマスコミ関係者など、皆さんには海の日には1日でいいから、ぜひ商船に乗って日本の沿岸を航海してもらいたい。日本船長協会は海を知っていただくために、子供たちに海を語る。前は「船長、母校に帰る」という題でしたが、いまは母校ではなくてもいいことになっています。そういう活動を開始しまして、2年目に入っています。
今年からは日本財団のご理解ある助成もいただいて、毎年全国の北海道から沖縄までの小学校20校ほどを目標に、現役または先輩船長を推し立てて海の講演の出前をしています。この子達が大人になったときが楽しみだと思います。皆さんの中にも出前のご注文があれば、どうぞ早めに船長協会にお申し出いただきたいと思います。以上で終わります。ご清聴ありがとうございました。
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