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私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


◆一 二つの悪夢の間で――日本の北朝鮮外交
 日本にとって、北朝鮮との関係正常化には三つの大きな視点がある。その第一は、戦後処理の視点である。サンフランシスコ講和以後、日本は東南アジア諸国との間で賠償問題を解決し、旧ソ連、韓国、中国とも関係を正常化してきたが、旧植民地の一部である北朝鮮との関係は正常化されていない。それを何とか達成することは、日本政府、とりわけ外務省にとって歴史的な責務である。冷戦終結後の一九九〇年九月に、そのための重要な機会が訪れた。自民党の金丸信元副総理と社会党の田辺誠副委員長に率いられた政党代表団が北朝鮮を訪問し、朝鮮労働党の金容淳書記との間で関係正常化交渉の開始を主張する三党共同宣言を発表したからである。昨年九月の小泉純一郎首相の平壌訪問も、少なくとも形式的には、二度にわたって中断されている交渉を再開させるためのものであった。
 第二は、地域紛争の視点である。東アジアにおいては、台湾海峡とともに、朝鮮半島こそが軍事紛争の発火点である。北朝鮮が核兵器や弾道ミサイルの開発に着手したために、過去の歴史の清算だけでなく、日本政府は安全保障上の懸案をも解決せざるをえなくなった。一九九〇年代初めの日朝交渉が失敗に終わったのも、北朝鮮が核査察を受け入れず、かえって核拡散防止条約(NPT)を脱退したからである。しかし、日朝交渉を通じて、もし北朝鮮の大量破壊兵器の開発を阻止することができれば、そのことが北東アジアの平和と安定を大きく促進するだろう。それによって、日本の外交的な立場が強化されることも確実である。
 第三は、紛争予防外交の視点である。朝鮮半島でイラク型の軍事紛争を発生させないためには、北朝鮮問題のグローバル化を阻止し、それをできる限りリージョナルなレベルで解決することが望ましい。したがって、朝鮮戦争以来の危機が予想されるときに、日本政府がそのために最大限の外交的努力を払うのは当然のことである。その意味で、さまざまな批判にもかかわらず、小泉首相の平壌訪問と日朝関係正常化交渉の再開は日米同盟の基盤のうえで「対米協調」と「対米自主」を巧みにブレンドしようとするイニシアチブであったと言える。米国政府との核問題に関する事前協議の不足と拉致問題に対する過小評価が、そのようなイニシアチブを途中で挫折させてしまった。
 しかし、そのような視点の存在にもかかわらず、日本の北朝鮮外交がこれまで米国の北朝鮮政策に強く拘束されてきたことは否定できない。米国の影響力があまりに甚大であったために、より根本的には北朝鮮の対外政策があまりにも硬直していたために、冷戦期において、日本は独自の北朝鮮外交を展開することができなかった。しかし、そのような状況は冷戦終結後も変化していない。それどころか、米国の北朝鮮政策の振幅に応じて、日本の北朝鮮政策は「二つの悪夢」の間を振り子のように往復してきた。一般的な印象とは異なり、昨年九月の小泉首相の平壌訪問も、そのような往復運動の一部であったと解釈することができるのである。
 それでは「二つの悪夢」とは何であろうか。その第一は、ニクソン米大統領の中国訪問と同じく、米国政府が突然日本の頭越しに北朝鮮との関係を改善することである。歴史的な南北首脳会談の四ヵ月後、すなわち二〇〇〇年一〇月、金正日総書記の側近である趙明禄次帥がワシントンを訪問し、「敵対的意思」を放棄して、「新しい関係」の樹立に向けて努力することを誓約する共同声明を発表した。それに続いて、オルブライト米国務長官が平壌を訪問したとき、日本政府は米国大統領の北朝鮮訪問の実現を真剣に懸念した。もしクリントン大統領がその任期の最後の外国訪問地として平壌を選んでいれば、例え北朝鮮の弾道ミサイルの規制に成功したとしても、「ニクソン訪中」にも匹敵する外交的衝撃が日本を襲ったことだろう。そのような機会を外交的に利用するために、オルブライト訪朝直後に、北朝鮮はあえて再開されていた日朝交渉を打ち切ったのである。
 第二の悪夢は、その逆のシナリオ、すなわち米国が北朝鮮に対する軍事制裁に踏み切ることである。一九九三―九四年には、北朝鮮がIAEAの核査察要求を拒否してNPTからの脱退を宣言し、国際連合安全保障理事会で経済制裁の可能性が検討された。北朝鮮政府は「経済制裁が行なわれれば、それを宣戦布告と見なす」と声明し、「ソウルが火の海になる」と警告した。もし米国が寧辺の核施設に外科手術的な先制打撃を加えれば、それが第二次朝鮮戦争に拡大するかもしれなかったのである。(※1)日本にとっては、それもまた回避しなければならないシナリオである。

(※1) 北朝鮮の核施設への攻撃はペリー米国防長官の下で検討されていた。作戦的にも技術的にも大きな困難は存在しないが、国防長官も在韓米軍司令官も、それが北朝鮮による南侵、すなわち第二次朝鮮戦争を引き起こす可能性が非常に高いとの結論に到達していた。Ashton B. Carter and William J.Perry, Preventive Defense: A New Security Strategy for America. Brookings Institution Press, 1999, pp. 128-129.
 
 
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