日本財団 図書館


◆IAEA無視は北朝鮮だけではない
 第一は不平等性。NPTは一九六八年時点の「核兵器保有国」(米、ソ、英、仏、中)と「非核兵器保有国」を峻別し、前者にはIAEAの査察の義務を課していない。査察というのは、原子力平和利用を保障するものであるから、すでに軍事利用をしている国の施設を査察しても意味がないわけである。当然のことながら、五大国の特権を固定化したものである。
 これに対し、「非核保有国」は核物質を扱う全施設を申告し、IAEAの査察を受け、平和利用に徹していることを国際社会に証明しなければならない。
 北朝鮮は、同国に原子力技術を提供していたロシアの圧力で一九八五年にNPTに署名。批准後、一八ヵ月以内にIAEAとの間に「保障措置協定」を締結する義務を負う。北朝鮮は、一九九二年四月までこの義務を履行していなかったが、これは北朝鮮の責任ではない。米国もロシアもIAEAも、放ったらかしにしていたのだ。
 本論の目的は北朝鮮擁護ではないが、もうひとつ客観的事実をご紹介しよう。
 現在、NPT加盟国は一六四カ国に達しているが、このうち何と五五ヵ国が、IAEAとの間に「保障措置協定」を結んでおらず、国内の全施設を申告してはいないのだ。五五ヵ国全部に原子炉や再処理施設があるわけではないが、少なくとも九ヵ国は北朝鮮クラスの施設を有している。(以上の出典は一九九三年IAEA年次報告)
 「保障措置協定」を締結せず、全施設をIAEAの査察下におく義務を負っていないかぎり、使用済み燃料からいくらプルトニウムを分離、抽出、生産しようと自由なのである。プルトニウム生産イコール核開発ではない。
 協定を結んだ以上、北朝鮮は過去の全記録を正直に申告する義務があるが、義務履行のプロセスを対米交渉のかけひきに利用しているのだから、話は別である。法的、技術的問題ではなく、一〇〇パーセント政治問題なのだ。
 第二はNPTの不完全性、あるいは非普遍性。
 現在、インド、パキスタン、イスラエルは、NPTの枠の外にあって、れっきとした核兵器保有国である。自らが「保有国である」と公言していないだけの話だ。
 インドは公然とNPTの不平等性に挑戦、カナダ、ドイツなどの技術でプルトニウムを生産、一九七四年、核爆発装置の実験に成功した。これに対抗して、パキスタンもフランス、オランダの技術でウラン濃縮装置を開発、数個の核弾頭を保有すると見られている。
 米国は同盟国パキスタンに対しF16戦闘機供与など軍事援助と引き換えに核開発計画を断念させるべく躍起になっているが、同国はインドが方針を変えないかぎり、放棄する気配はない。そしてインドは、中国が核保有国であるかぎり放棄する気はなく、将来もNPTに加盟する意図はさらさらない。
 イスラエルは一九六〇年代から秘密核開発を続け、現在では数百発の核弾頭を生産、フランスにひけを取らない核保有国であるといわれている。米国公認である。
 南アフリカ共和国のように、一九八〇年代に密かに核開発に乗り出し、原爆六個を完成保有していたが、冷戦終了とともに不要と判断、密かに廃棄した国もある。すべてはIAEAのあずかり知らぬところで行われたのである。
 ブラジル、アルゼンチンの両国も、現在、核開発は行っておらず、トラテロルコ条約によって、ラテンアメリカ非核地帯を形成してはいるが、NPTには非加盟で、フリーハンドを保っている。
 明らかに二重基準(タブルスタンダード)が存在している。
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION