1994年5月31日 『世界週報』
北朝鮮が硬い態度を取る真の狙いは
小此木政夫
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の追加核査察受け入れが難航している間に、問題の実験用原子炉の核燃料棒交換問題が浮上し、核査察をめぐる事態がますます複雑化している。北朝鮮が国際原子力機関(IAEA)の立ち会いなしに燃料棒交換を強行すれば、新たに生じる使用済みの核燃料から核爆弾四、五発分のプルトニウムを抽出できるというのである。これは、追加査察とは別の新しい査察問題である。
もちろん、北朝鮮はIAEAの立ち会いそのものを拒絶しているわけではない。それどころか、燃料棒交換にも「保障措置の継続性」の原則を適用し、交換された使用済みの核燃料棒を「徹底的にIAEAの封鎖と監視の下に置く」と明言している。しかし、そのサンプル調査を拒絶しているために、全面的な査察を要求するIAEAが査察団の派遣を控えているのである。この点で両者は一歩も譲らず、にらみ合い状態が継続している。
業を煮やしたペリー米国防長官は、五月六日のナショナル・プレスクラブでの演説で、問題の原子炉が既に運転を停止していると指摘し、「北朝鮮が燃料棒交換の際、全面的な査察に応じないなら、次に来るのは国連の制裁だろう」と強調した。翌日、韓国の李洪九統一院長官も、「北朝鮮が燃料棒交換を自分たちだけで強行するのであれば、対北朝鮮追加措置(経済制裁)が不可避である」と厳しく警告した。事態は再び緊迫しているかにみえる。
しかし、北朝鮮が追加査察を拒絶し続けたり、IAEAの立ち会いなしに燃料棒交換を強行する可能性はほとんどない。既に韓国が南北特使交換の要求を撤回し、米韓両国がチームスピリット(米韓合同軍事演習)を延期したのに、北朝鮮側がそのような強硬措置をとれば、今度こそ経済制裁が避けられないからである。恐らく、北朝鮮は燃料棒交換を一時凍結し、まず追加査察だけを受け入れ、第三回米朝高級会談の実現に漕ぎつけようとするだろう。
事実、四月一五日の金日成主席の八二歳の誕生日以後、北朝鮮は既に米朝会談に向けて動き出している。そもそも金日成が西側の報道機関の前に姿を現し、アメリカとの関係改善について語ったことほど、北朝鮮の対話意欲を示すものはない。かれはアメリカ訪問の希望まで表明したのである。しかも、金日成は驚くほど健康であり、核査察や米朝会談について、その内容を正確に把握していた。
興味深いのは、金日成が「外国に隠すものはない。しかし、軍事施設は別だ」と言明し、寧辺の未申告の二施設に対する特別査察を明確に拒否したことである。西側報道陣に同行したテーラーCSIS(米・戦略国際問題研究センター)副所長に対して、人民武力部(国防省)のスポークスマン的な役割を演じた金英哲少将は、それらの施設が「軍事施設である以上、IAEAではなく、南北相互査察の対象になる」と説明した。
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