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毎日新聞朝刊 2003年4月18日
社説 米中朝協議 多国間の枠組みへつなげよ
 
 北朝鮮の核開発をめぐる北朝鮮と米国、中国による3カ国高官協議が、23日から北京で始まることになった。
 米国との直接交渉を主張してきた北朝鮮が、多国間協議に応じたのは、核開発に危機感を抱く関係国の強い説得と、米国がイラク問題で示した強い姿勢が圧力になったと推測される。日韓露を加えた6カ国協議ではないが、北朝鮮をともかく対話の席に着かせることになったのは、成果である。
 北朝鮮は昨年10月、ひそかに進めていたウラン濃縮計画を、米国から証拠書類を突き付けられて認めた。以後、国際原子力機関(IAEA)査察官の追放、核拡散防止条約(NPT)からの脱退表明と、核開発の構えを強め、今年2月には、核兵器材料のプルトニウムが得やすい黒鉛減速炉を再び稼働させた。
 一連の動きはNPTのほか、92年の朝鮮半島非核化宣言、94年の米朝枠組み合意、昨年の日朝平壌宣言に反する。米政府には、北朝鮮が既に原爆数個分のプルトニウムを抽出したとする見方もある。国際社会は、北朝鮮をNPT体制に戻し、核兵器開発を今後行わせないための措置を求めている。
 北朝鮮外務省は6日、イラク戦争に関して「国際世論も国連憲章も、米国の攻撃を防げなかった。強力な軍事的抑止力を保有してのみ、戦争を防ぎ国と民族の安全を守るということが教訓だ」と述べた。核兵器の保持が金正日(キムジョンイル)体制を守る究極の手段と考えているのなら誤っており、孤立を深めるだけだ。大量破壊兵器を放棄しない限り、国際社会は支援しない。
 多国間協議には、日韓露も早期に加わる必要がある。今は北朝鮮が応じていない。米国は18日、日韓と局長級協議を開くなど、緊密な連携を取りつつ北朝鮮との交渉に臨むが、協議の枠組みとしては好ましくない。北朝鮮の核やミサイル、100万人の兵員など軍事的な脅威に最もさらされるのは、日韓だからである。
 日本を協議の席から排除し続ければ、北朝鮮にとっても利益にならない。北朝鮮の核問題が解決すれば、日朝国交正常化交渉を前進させる環境の一つが、大きく整うことになる。平壌宣言には、正常化後に日本が経済協力を行うことが明記されている。軍事優先を捨て、国民生活を豊かにするための国づくりに変えるには、日本や韓国との協力関係が欠かせない。
 日本にとっては核問題に加え、拉致問題がある。北朝鮮は帰国した5人の家族を半年も引き裂いたまま、日本の照会した疑問や消息に誠意ある回答をしていない。
 国連人権委は16日、北朝鮮の人権状況を非難した決議の中で「外国人の拉致に関するすべての未解決問題を明確かつ透明な形で解決」するよう求めた。拉致問題の解決を迫る声は、国際的な世論でもある。
 北朝鮮問題の打開には、米中朝の3カ国協議を、6カ国による本格的な多国間協議に移すことが不可欠である。米中には、そのための努力を求めたい。
 
 
 
 
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