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毎日新聞朝刊 1995年3月9日
探眼複眼 KEDO、きょう発足 前途に不安を抱え「船出」(その1) 北朝鮮
 
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の軽水炉建設などを担う国際事業体「朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)」の設立調印式が九日午後(日本時間十日未明)、ニューヨークの米国連代表部で開かれ、正式に発足する。北朝鮮の核開発放棄をめざした昨年十月のジュネーブ米朝合意に基づき、最終解決へ向けた初の具体的事業と位置づけられ、その歴史的な一歩を踏み出す。しかし、軽水炉型式をめぐる北朝鮮の抵抗が続くなど、KEDOの前途には難関も少なくない。
 ◇北朝鮮、「韓国型」に抵抗強く――5年以内の供与は不可能?
 KEDOは、北朝鮮に「韓国標準型」軽水炉を供与することを協定案に明記した。韓国は今後、原子炉の設計、製作、設置で「中心的役割を果たす」(崔東鎮・韓国軽水炉企画団長)ことを目指すが、北朝鮮側の韓国型導入への抵抗は強く、現状では、ジュネーブ合意で示された五年以内の軽水炉供与は危ぶまれる。
 韓国標準型軽水炉は、米国のコンバースチョン・エンジニアリング(CE)社と、韓国原子力研究所が技術提携し、CE社の原子炉を韓国の現状に合うように改良したもの。すでに霊光原発(全羅南道)の3、4号機に導入し、試運転もほぼ終了。韓国政府当局によれば、これをさらに改良した現在建設中の蔚珍原発(慶尚北道)3、4号機が、北朝鮮に導入される韓国標準型軽水炉のモデルになる。
 北朝鮮が強く反発するのは、韓国で実用段階に近い原子炉が直接、導入される点だ。韓国型が建設されれば建設期間中をはじめ、原子炉運転要員の養成から、稼働まで、延べ千人といわれる韓国の技術者が長期間、北朝鮮に入ることになる。北朝鮮市民への影響だけでなく、韓国は当然、原子炉建設・運転のための協議を韓国主導の南北対話に結び付けようとするはずだからだ。
 一昨年以来、北朝鮮は核疑惑を利用して、米国との直接対話、包括合意を実現。国際社会からの制裁と、深刻といわれるエネルギー危機の二つを同時に回避する外交上の離れ業を演じた。
 先月十五日の北朝鮮外務省スポークスマン声明は「米朝合意履行の決心を変える」としながらも、「南朝鮮(韓国)が借款の一部を受け持ち、一般建設を受け持つことまでは許容できる」と述べ、軽水炉提供そのものを拒否する強い姿勢は示さなかった。
 北朝鮮は今後、米国に対して朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に変えることを要求、日本に国交正常化交渉の有利な条件での再開を迫るなど、新たな外交戦略を駆使してくる可能性がある。
 しかし、そうした姿勢が長引けば、韓国政府内部には「北側が秘密裏に核兵器を完成させる、との危惧(きぐ)の念が国際社会に再び広がる」との懸念も生じる。
 昨年六月、国連で対北朝鮮制裁が論議され、北朝鮮外務省が「制裁は宣戦布告とみなす」との声明を発表した緊張が、再び国際社会に充満するかどうかは、北朝鮮側がどの程度の強硬姿勢を示すかにかかっている。(外信部・大沢文護)
 ◇米朝合意破棄の可能性にも言及――北朝鮮
 北朝鮮外務省スポークスマンは七日、米国が「韓国型」に固執することによって、米朝合意に示された期限(四月二十一日)までに軽水炉供給契約が締結されない場合、「相応の決心を下す」と警告した。米朝合意破棄の可能性にも言及した。北朝鮮の「警告」は交渉を有利に運ぶための戦術的側面が強いが、実行に移されることもある。
 ただ北朝鮮側の態度は、米国が韓国型に「固執」することが「相応の決心」の前提になっている。KEDOの設立協定に「韓国型」を明記できたことで、韓国政府の譲歩の条件が整った側面もあり、軽水炉供給協定では「韓国型」との名称にこだわらないことをはじめ、北朝鮮が受け入れやすい状況を作ることは可能だ。
 米朝合意は四月二十一日までの供給契約締結に「米国が最善を尽くす」との表現になっており、タイムリミットは弾力的といえる。
 しかし、北朝鮮が韓国の介在を警戒し、できる限り忌避しようとしていることも確かだ。軽水炉の「韓国型」問題だけでなく、米朝合意に北朝鮮の実施項目として記された(1)「朝鮮半島の非核化に関する南北共同宣言」履行のための措置(2)南北対話の進行――は、手つかずのままだ。南北関係が難航要因となるのは避けられないようだ。(ソウル・中島哲夫)
 
 
 
 
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