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編集後記
 本書には、全国各地のモデル的な保育園が実施している延長保育・一時保育の実践が収録されています。
 統計によりますと、延長保育(開所が11時間を超えるもの)を実施している保育園は、全国で8,939施設で、近年増加を続けており、平成12年は7年の2.9倍となっています。
 延長保育を行っている保育園が全体の施設数に占める割合をみると、総数では8,939か所(40.3%)、公営は2,797か所(22.0%)、民営は6,142か所(64.7%)となっています。増大するニーズに、民間保育園が中心となって対応していることが分かります、
 また、一時保育を実施している保育園は、全国で1,700か所(7.7%)で、公営415か所(3.3%)、民営1,285か所(13.6%)であり、ここでも民間保育園の実施率が高くなっています。
 これらの統計によって、いわゆる特別保育のニーズに対して、私立園が積極的に応えている事実を知ることができます。特別保育に限らず、我が国の保育の歴史をみると、民間の保育園が地域のニーズに誠実に応えている様子が分かります。
 日本保育協会では、日本財団のご厚意により、保育園が行っている保育活動の実践を毎年この「特別保育実践講座」でとりあげ、すでに「地域の子育て支援」、「私たちの乳児保育」を発刊しておりますが、地域の子育て支援事業にしても乳児保育にしても、私立保育園が地域住民とその子どもたちのために懸命に努力している姿を紹介しています。
 
 このたびの「ニーズに応える延長・一時保育」では、先駆的にこれらの事業に携わってこられた保育園の実践記録を掲載しております。
 ここに収録されている良質な保育サービスの事例は、私たち保育関係者に感銘を与えるだけでなく、保育についての様々なヒントや思いがけない知識を提供してくれます。
 延長保育に関していえば、「際限のない保育時間の延長は、親たちの仕事と子育ての両立支援にはなっても、子どもの育ちにとっては良くないのではないか」という思いを持つことがあります。
 しかし、今回の原稿の中に、4時30分に帰っている子どもが、家でテレビを見たり、テレビゲームをして時間を過ごし、食事の時もおにぎりを食べながらそうしている事例、一方、夜8時にお迎えにくる家庭では、家に帰ってからのスケジュールが合理的に工夫されており、きちんとした生活をしているという例が記載されています。こうした記録を読むと、保育園における長時間保育の是非について改めて考えさせられます。
 また、延長保育を始めた動機として興味あるエピソードも掲載されています。
 大正15年に創立された新潟県の保育園では、その当時(昭和30年代)には保護者の職業は織物工場の工員が多く、早朝6時30分に幼い二人の女の子を連れてくる母親がいました。夫がいわゆるアルコール依存症で職がなく、自分が早朝から夜まで職工として働く女性でした。園長は、保育園が始まるまでの間、2歳と3歳の二人の子どもたちを自宅で預かり、毎日朝食を食べさせました。雪国の冬は寒く、園長宅ではこたつを暖めて子どもたちを待つようになり、これを「こたつ保育」と呼んでいました。この早朝の「こたつ保育」は、やがて、夜遅くお迎えが来る子どもたちのための延長保育へと発展していったのです。
 創設者の園長夫人が、早朝の雪道でこごえた子どもたちの足をご自分の手のひらでつつみ、体温で暖めてから「おこた」に入れたあげる(いきなりこたつで暖めると、かゆくなったりして子どもには苦痛になる)などの記述は、児童福祉の理念が自然体で表れた実例であり、「こたつ保育」のきっかけとなった母子が家族8人で今でも保育園を訪ねて来る場面には、保育者であれば誰でも感動(共感)を覚えることでしょう。
 
 一時保育についても、全国の実践記録を読んでいろいろなことを学ぶことができます。
 この保育サービスが、「一時的保育」といわれていた頃には、保護者の就労形態の多様化に対応するための「非定型的保育サービス」と、保護者の傷病・入院等により一時的に保育を必要とする子どものための「緊急保育サービス」が中心でしたが、今日では、育児疲れ解消等の私的な理由により一時的に保育を必要とする児童のためのサービスも、その範疇に入るようになりました。
 本書には、実に多様な実践例が掲載されています。すでに延長保育や一時保育を実施されている保育園にとっても、また、これから始めようとしておられる園にとっても参考となるに違いありません。お読みになった皆様の保育活動や保育園経営のお役に立てれば幸いです。








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