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シンポジウム 子育て相談における保育者の役割
 
 司 会 者  高野  陽 (東洋英和女学院大学教授)
 シンポジスト  網野 武博 (上智大学教授)
   露木 省子 (開成町・酒田保育園長)
   羽室 俊子 (豊島区・元星の子保育園保健婦)
 
提案要旨
子育て相談における保育者の役割
網野 武博 (上智大学教授)
I 保育所と子育て相談
 
1 保育所における子育て相談のさきがけ:昭和59(1984)年度から開始された保育所における乳幼児健全育成相談
2 児童福祉法改正と保育所の子育て支援:第48条の2「乳幼児等の保育に関する相談、助言の努力義務」
3 保育所保育指針の改訂:地域子育て支援と乳幼児等の保育に関する相談・助言
II 保育所における子育て相談
 
1 保育所における相談の意義
2 相談者、来談者の範囲
3 相談の内容と範囲
4 相談の基本原理:傾聴、ラポール(相互信頼関係)、受容・共感、個別性、自己決定
5 他機関との連携
III 保育所における相談者の資質
1 WHO? & HOW?
6 守秘義務と正当な理由による情報交換・守秘義務の免責
7 保育所相談の限界:業務上の限界と相談の専門性の限界
 
提案要旨
子育て相談における保育者の役割
―小さな町の子育ての輪・和・話―
露木 省子 (開成町・酒田保育園長)
1. はじめに(相談の話)
 
・ 母親より電話
 小学校に入学した長男が、朝になると学校へ行きたがりません。下の2歳の子どもを朝30分だけでも保育園に預けられませんか?
・ 祖母が来園
 嫁が育児ノイローゼになり安定剤を飲んでいますが、しばらく長男を預けられませんか?
・ 母親が来園
 2人目が産まれ、長女を育てる自信や余裕がないので、長女を保育園に預かってもらえませんか?
・ 聴覚障害の祖母と母親が来園
 仕事が決まらないが、保育園に入園させたいがどうしたらよいか?
・ ブラジル人母親と通訳者が来園
 不規則な勤務で、代理の送迎だが入園できないか?
 
 子育てに不安を持ち、安心して子育てをサポートしてもらえる人や場所が欲しいと願っている地域の家庭は、年々増えています。そのすべてを受け入れることはできませんが、ひとつひとつ丁寧に話を聴きながら、子育ての仲間づくりをしています。
 
2. 地域の子育て家庭の実態 (参考 地域子育てアンケート報告書 足柄上保健福祉事務所)
 
(1) 家族人数   3.17人    
(2) 同居人 97.3%  夫の母 23.5%
  夫の父 20.0%  (祖父母同居 30%)
(3) 居住期間 平均 1.62年    
(4) 住宅の形態 一戸建て 57%  集合住宅 36%
(5) 身近な肉親が近隣にいる   82%    
(6) 母親の状況 専業主婦 75%    
(7) 育児知識や情報の入手先 (図1)
図1 育児知識の情報入手先
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(8) 近所や友人とのつきあい
  ・ 積極的ではない 50%    ・ 子育てサークルを知らない 38%
  ・ つきあいがない 25%    ・ サークルに加入してない 72%
(9) ストレス解消法 (図2)
 
図2 母親のストレス解消法
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 このような地域の子育て状況を理解しながら、個別の相談事業を展開していく必要があります。小地域とのネットワークつくりや、身近な近所づきあいを復活させることが子育てにも必要となっています。当町では「おしゃべり会」という小地域子育て支援事業を展開しています。
 
3. 「とーく&トーク」から見えてくる子育ての輪
 
 当園の子育て相談事業は、子育てサロンを中心に、地域のお母さんである保育ボランティア(民生委員・児童委員、母子保健推進員、元保育士)の方々が、ごく日常的な会話の中から子育てや家族の相談、地域の情報等を受け入れるよう心がけています。また、連絡ノートを使って、子育て支援担当保育士や看護婦に相談してくる利用者(母親)もいます。
 地域毎のグループで実施する「とーく&トーク」ではリラックスしたムードで共通のテーマやフリートークが行われます。グループの中に保育ボランティアがはいり、できるだけ聞き役にまわってもらっています。また、今年度より始めた、0・1歳児の子育てサロンでは、通常保育の中に2〜3組の親子が入り、保育園の集団保育の体験をすることで子育ての不安を取り除き、自信を持つよう促しています。子育ては仲間づくりが大切であるが、その仲間に入れず一時保育を希望する人も多くなっています。
一時保育の利用者数
   非 定 型   私的理由    緊 急     合 計  
  4 月   86  24  116 
5 月 92  22  21  135 
6 月 131  13  153 
7 月 132  21  11  164 
8 月 118  18  20  156 
合 計 559  98  67  724 
 
4. チーム保育と支援会議の和
 
 当園は今年度より「地域子育て支援センター」指定施設となり、子育て支援(相談事業)の組織化を図っています。保育ボランティアやチームによる職員態勢を整え複数で対応しながら、利用者が相談しやすいような雰囲気を作っています。複雑で深刻な子育て相談については、相談カードに記録し「支援会議」にかけ、他の機関とも相談しながら方向性を話し合います。
 相談の窓口を大きく開き、チームで対応しながら場合によっては地域の支援、専門機関の支援というネットワークを図りながら、利用者のサポートをしていく必要があります。
 
5. おわりに ―地域の子育て家庭に期待されている一時保育の役割―
 
 子育てアンケートや地域の子育て相談から望まれることは、自由に使える「一時保育室」の充実であります。深刻で複雑な相談もあるが、ほとんどは利用者(母親)に小休止を与えてあげることで子育てに余裕ができ、解決の糸口が開けてきます。
 そして、保育園の相談窓口に、勇気を出して訪れる利用者(母親)達の声や表情が、自信と安心に変わるよう相談に耳を傾けることが必要です。
 子育てサロンを充実し同じ悩みを持つ母親同士の子育ての輪を広げ、小地域や関係機関との連携を図りながら、孤立している子育て家庭への働きかけも忘れず、保育園から育児情報を発信していくことが、今望まれる子育て支援のように考えます。
 
育児相談カード
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提案要旨
子育て相談における保育者の役割
―子育て相談と看護職―
羽室 俊子 (豊島区・元星の子保育園保健婦)
 
 保育園は、子育て支援の拠点施設として、従来の保育活動とともに子育て相談事業など地域の子育て家族も支援する中核的存在の一つとして期待されている。
 保育者には、保護者とともに考え、保護者のセルフコントロール、セルフケアの力をひき出すような相談支援活動を求められている。
 保育園以外の子育て相談にもかかわった看護職として、保育園での子育て相談の充実のために何が必要かを考えたい。
 
1.相談の場としての保育園のメリット
 
・ 子どもの育ちの多様な姿がみられる
・ 世話のしかたのヒントが豊富にある
・ 子どもの遊びや生活の実際に触れられる
・ 保育士、栄養士、看護職など子育てにかかわる専門職がいる
 子どもの生活の場にいると、保護者自身がこうすればいいのだと気づいて解決できることが無数にある。
 何かの時にはまた行こうと思われる場でありたい。通常業務の保育の中でも、日常的に気軽に相談される保育者でありたい。時に介入しなければならないこともある保護者への支援は日頃の信頼関係が基本である。
1) カウンセリングマインド
2) 専門家、専門機関との連携
3) 職員間の合意と協力
4) 記録
5) スーパーバイザー








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