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パネルディスカッション
長時間の保育と乳幼児の健康管理
司会者 猪股 祥(平塚市・平塚保育園長)
パネラー 杉浦 宏政(川崎市医師会保育園医部会副会長・杉浦医院長)
  土屋しげ子(横須賀市・長岡保育園主任保育士)
  藤井 祐子(中野区立住吉保育園看護婦)
提案要旨
長時間の保育と乳幼児の健康管理 ―嘱託医の立場より―
杉浦 宏政(川崎市医師会保育園医部会副会長・杉浦医院長)
 
 早出・延長の時間帯における園児の健康管理は、基本的には通常時間帯における管理の延長であり、一線上においてその課題に対処して行かなければなりません。しかし、保育条件の変化、特に、ゆとりのない人員配置の下で、担任でない児童を保育することを考えると、時間外の保育ゆえの留意すべき問題点も多く、保育担当者全員と保護者が協力してこれらを解決して行かなければなりません。
(1)急性疾患について
 
 疾病を早期に発見し適切な処置を行うことは重要で、保育関係の学会でも「微症状」をテーマとするものが多くみられます。子どもの場合は、食欲がない元気がないといった、いつもと違っている状態に気付くことが大切で、異常に対して(通常時間帯の)担任保育士よりの申し送りが、家族への連絡・医療機関への受診などを含め非常に大事なポイントになると考えます。
(2)慢性疾患について
 
 心腎疾患、喘息、食物アレルギー、てんかんなど、特別の管理を必要とする児童に対しては、その個人情報(病名、禁止事項、緊急時の対策など)を整理・常備しておくことが必要である。
(3)緊急事態発生に備えて
 
 病気の急変、誤飲食、怪我、不測の事件などに遭遇した場合に備えて、緊急対策を再検討し整備しておく必要がある。
(4)児童の精神面への配慮
 
 家庭的な雰囲気の中で、自由に楽しく児童が過ごせるような環境づくりの工夫が必要と思われる。
(5)家庭(保護者)との連携
 
 個々の児童についての連絡・相談のほかに、家族全体の健康を考えた日常生活全般についての相談・教育が必要と考えます。子どもの健康を第一に考えて、大人は自分のやりたいことも我慢して頑張ってもらいたい訳ですが、全くゆとりのない時間の中で、沢山の家事をかかえる保護者(母親)の負担は大変で、精神面での相談・支援が必要な場合も多いと思われます。
 予防接種・定期健診を受けていない場合も多いと考えられるので、実施のすすめと具体的な指導も大切です。
提案要旨
長時間の保育と乳幼児の健康管理 ―保育士の立場より―
土屋しげ子(横須賀市・長岡保育園主任保育士)
〈園の概要〉(平成13年4月1日現在)
 
施設名    長岡保育園        
設立年月日  昭和29年12月1日   
定員     185人        現員 212人
職員数    47人         (常勤35人 非常勤12人)
保育時間は、原則として8時間とし、開園時間及び閉園時間は次のとおりである。
平日   開園時間  7時  閉園時間  20時
土曜日  開園時間  7時  閉園時間  14時
〈早朝・延長保育について〉
 
利用人数
早朝7時から8時まで 97人
延長18時から19時まで 21人
延長18時から20時まで 54人
学童保育後の預かり保育18時から20時まで 28人
〈はじめに〉
 
 長時間保育における、乳幼児の身体的健康に及ぼす影響はないと思う。
 園での発病または病欠の子どもたちをみると、長時間保育児は少なく、基準内に帰る子どもたちに多く見られる。
 その理由として、常勤または仕事が休めない親の子どもは、早目早目の対応と病気をされると困るという意識から、健康管理が行き届いているからだと思う。
 園の対応としては、入園前に一時保育を利用して、2週間位の慣らし保育をさせ、親子共に保育園生活に慣れてからスタートしている。
〈健康管理〉
 
健康診断内科   年2回
歯科検診     年1回
耳鼻咽喉検診   年1回
尿の検査      
寄生虫卵の有無   
(1)検診の大切さ
 親が気がつかなかった病気や、公的機関の検診でも気づかなかったものが、園の内科検診で見つかることが多い。
 まれであるが、心臓病等、重大な病気が、園の内科検診で見つかったことがある。
 尿とぎょう虫においても同じである。
(2)耳鼻科検診について
 次の学会報告誌を読んで、大切であると専門の耳鼻科検診を始めた。
 鼻炎と急性中耳炎は、集団保育の問題である。
 親に感染することの説明をしても、理解されないことが多く困っている。当園では集団発生はない。ただ耳垢の問題で、子どもが泣く等で耳垢がたまっている子が、検診と治療を間違えて、検診時に治療をのぞむ人が多い。
 
集団保育の問題(学会報告誌より)
 多くの小児が乳児期から集団保育を受ける昨今、保育園が反復する急性中耳炎の病体に与える影響は大きい。中耳炎反復例の70〜80%が保育園児であり、集団保育を離れるとほとんどが、中耳炎、肺炎などの呼吸器感染を繰り返さなくなる。頻回感染例ほど、入園直後から感染を反復する傾向がある。また、保育園児の鼻咽喉細菌検査を繰り返し行った結果、同室で保育されている乳幼児の鼻微空から同一の菌株が分離され、これらの菌は、数週間のサイクルで他の菌に変化していた。このことから、園児間での細菌の拡散と流行が存在することがわかった。また保育園児では薬剤耐性菌の分離頻度がきわめて高い。以上より、今後さらに増加すると思われる保育園児に対する感染対策が、反復する中耳炎を予防する上で重要である。
〈心の健康〉
 
生活を通しての成長について(情緒面も含む)
 子どもは生まれた時から周囲の大人のすることを目で追い、また、親と一緒に日常生活を体験する。
 家庭の日常生活では、数多い基本的運動(歩く、座る、立つ、持つ、運ぶ、置く、しぼる、注ぐ、折る、切る、貼る)の他に、生活するために必要なマナー、ルールなどの社交的ふるまいや、掃除、洗濯、食事の準備、動植物の世話などを、親と一緒に行い、体験することが多いが、保育園では主に遊びが中心であるため、特に乳児は寝ている間に行ってしまうため、体験することが少ない。
 遊びは大切であるが、生活経験も大切である。
 1歳のできること、2歳にできること、3歳にできることが、延長保育に限らず、園生活の中の問題点ではないか。
 当園で、0歳時に入園し、5歳時に教育研究所において検査した結果、全員が情緒面においては「どういう教育をしたらこんなよい子ができるのか」と言われた。数学的知能においても、5歳児にして小学校4・5年生の知能があると言われたが、言語面では、5歳児の能力しかないと言われた。
 数の表し方、数え方で、たとえば本を1冊とは言わず1ケ、魚が1匹でも1ケ、靴1足を1ケなどの数え語や、甘い、しょっぱい、からい、酸っぱいなどの形容詞を使うことが苦手である。
 これは、集団の中での遅れではないかと思う。
 また、さらに当園の経験だが、交通公園に連れていき自転車の指導をしたところ、自転車に乗れる子が非常に少なかった。夜7時、8時に帰るのでは、家庭で乗る時間がないのはあたりまえである。園で自転車を購入し、自由に遊ばせたところ、翌年はほとんどの子どもが乗れるようになった。
 延長保育の子どもほど本来家庭でしなければならない生活指導を園生活にとり入れなければいけないと痛感した。
 
〈4月に行った健康と生活習慣についての家庭調査〉
 
1.食事について
(1)家庭生活の授乳・離乳食・朝食について
 家庭生活では、授乳・離乳食・朝食共に与えられている。
 授乳・離乳食は時間が様々だが、3回食の朝食は、家族揃って食べる、準備のできた順に食べる(食べさせる)が半々で、全員が朝食を食べて登園している。
☆朝食の時間
 7時登園         6時10分〜6時40分
 7時30分〜8時登園   6時30分〜7時10分
 8時00分〜9時登園   7時00分〜7時30分
☆朝食の内容(概ね)
 授乳・離乳食  0.5%
 和食(米飯)  45.5%
 洋食(パン)  55.0%
(2)園生活の食事とおやつについて
☆10時のおやつ(乳児) スナック菓子
 朝食と昼食の間をとって、9時45分〜10時にかけて与えるようにしている。
☆昼食
 横須賀市の献立を参考にして、郷土食、行事食を取り入れている。
 時間 12時
☆3時のおやつ
 横須賀市の献立を参考に、当然のことであるがすべて手作りである。
☆延長保育の軽食
 おむすび・サンドイッチ・うどん等、園では主食に代わるものを出し、家庭では副食を主に食べることの話し合いができている。
 月〜金までのメニューが同じになることはない、また、月の始めに献立内容を園だよりで知らせている。
(3)夕食について
時間
 各々帰宅してから20分位して与えているのがほとんどである。園で軽食を食べてきているが、家でも主食・副食共に与えているのがほとんどである。運動量によって、そのまま寝てしまうこともある。
―感想―
 母親の起床時間は、5時代が多く、両親または母子、父子共に、子育てに努力していることに敬服している。長岡保育園では、月1回、お弁当日を持っているが、内容も手作りで愛情が伝わってくるものが多い。お弁当を通して、親子の愛情を深め、情緒面で非常に良いことが感じられる。
 
2.清潔について
 
(1)入浴
 全員が毎日入浴している。入浴時間は、夕食前が30%、夕食後は70%で、母親または父親と入浴している。
 乳児においては、ほとんど身体を洗ってもらっているが、幼児については、身体の洗い方まで忙しい家庭の中で指導している。
 お風呂の時間をスキンシップの時間として大切にしている人がほとんどだ。また、小さいうちから、お風呂場に子どものおもちゃが置いてあり、科学遊びもしている。(手の水でっぽう、タオルのきのこ、湯船の中で手が長く細く見えたり、短く太く見えたりする。浮かし)
(2)爪・下着の清潔
 園の衛生検査の中では、髪の毛が臭いということはないが、爪が伸びていたり、シャツが汚かったりする。家庭調査の中では、毎晩お風呂に入り、下着も取り替えているとのことだが、実態と多少異なる。
 延長保育に関係なく、親の子育てへの姿勢、家庭の問題であると思う。
(3)歯みがき
 就寝前または夕食後みがく人  100%
 (乳児はガーゼでふく等含む)  
 朝・晩共にみがく人      65%
 昼食後、園で1歳児から歯みがきをしてほしいという要望はあるが、ぶくぶく(口をすすぐ)はしているが、歯みがきはしていない。できない。
 歯みがきを始めた年齢は6か月〜1歳位が多い。
 
3.睡眠について
 
(1)睡眠時間
 家庭での睡眠時間
 8時間   48%
 9時間   33%
 10時間  19%
 園での午睡
  乳児は、随時眠い時に寝かせる。
 2歳〜3歳は、 1時間30分
 3歳児     1時間
 4歳以上児   なし(夏期は全員)
 ・園で午睡をするため、夜寝つきが悪いという人が10%位いる。
(2)就寝について
 畳に布団を敷いて寝る  約80%
 ベッドで寝る      約20%
  *小さい子ほど親の横で寝ている。幼児になるにつれ、ベッドで一人で寝かせるようにしているようだ。
 家族みんなで一緒に寝る     85%
 兄弟や一人で寝る        15%
 就寝時、子守歌を歌ったり、寓話または本を読み聞かせながら寝かせる家庭が多い。 60%
 寝る時、紙パンツをはいている子は
 3歳児  15%
 4歳児  10%
 5歳児  5%
*5歳児は7月に行ったお泊まり保育の体験により治る。
 
4.病気時について
 
(1)病気時見る人について
 家族または親 80%
 親戚 15%
 ベビーシッターまたは知り合い 5%
(2)病院または医者へすぐ連れていく 70%
 様子をみる    25%
 連れていかない  5%
(3)月曜日と金曜日の発病について
  *長時間保育による健康阻害はないが、土・日の親の過ごし方により、週の初め、週の終りに健康を害する子がある。 3%(発病)
 
提案要旨
長時間の保育と乳幼児の健康管理 ―看護婦の立場より―
藤井 祐子(中野区立住吉保育園看護婦)
1.はじめに
 
 中野区では、1993年度から延長保育が開始され、現在では20名の定員で7園で実施されている。また、昨年度から11時間開所が実施され、延長保育園では12時間開かれている。そのため子どもの保育時間は長くなる傾向が見られている。
 中野区保健衛生研究会のグループ研究の中で、1999年度から2年間延長保育を利用している子どもの健康について、調査研究を行ってきた。また、日常に看護職として延長保育を利用している子どもへの配慮してきたことなどから、長時間保育と乳幼児の健康管理について考えていきたい。
2.調査研究の内容と結果
 
[1]1999年度、2000年度の病欠調査
 1歳児を対象とした4月から8月までの病欠状況と早退の状況、保育時間について調査した。
 2年間の調査研究によって、延長保育を利用する場合それまでの集団経験の有無が大きく影響し、児童定数の多少が影響していることが伺えた。
[2]2000年度のアンケート調査
 中野区公・私立の保育園で延長保育を利用している保護者へ、「延長保育と子どもの健康について」アンケートを実施した。
 延長保育を利用する上で、工夫している姿や、不安や心配な点は就寝時間が遅くなる、夕食が遅くなる、朝起きられないという回答が見られた。また、延長保育など長時間保育は子どもに負担がかかる。延長保育の時間・延長保育をする園をもっと増やしてほしい。延長保育を利用して良かった。夕食が出るとよい。夜型になってしまう ことは問題だが、保育園にいる時間が長いことは特に問題はない、といった意見が出された。
3.看護職として日常留意していること
 
・延長保育開始のとき
・日々の生活の中で
・保育園から連絡をするとき
4.おわりに
 
 延長保育の充実や拡大は、これだけ女性の社会進出が進み、さまざまな就労形態が見られる現状では、今後も需要が高くなると考えられる。利用している保護者からは、延長保育があるから仕事が続けられるといった声も聞かれた。そうした声に耳を傾けながらも、子どもが健康に過ごせるよう、年度当初や初めて集団生活を経験する新入園児、入園と同時に延長保育を利用する子どもに対してより細やかな配慮をしていきたいと思う。
 また、病欠率などでは現れてはこないが、就寝時間が遅かったり、朝起きられないといった子どもの姿に対して、日々の個別配慮が必要となっている。また、情緒的に不安定な子どもに対して、あたたかく包み込んであげられる保育者の気持ちのゆとりが必要なことも知り、日々の保育の中で生かされ、健康に育つことにつながるよう援助していきたいと思う。
図1 延長園病欠率 1999年度
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図2 延長園病欠率 2000年度
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図3 1歳児病欠率 2000年度
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図4 一日の保育時間
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