2. アンケート調査の概要
2-1. アンケート調査を実施して
2-2. 21世紀におけるわが国の海洋政策に関する提案
2-3. アンケート調査の実施概要
2-4. アンケート別結果と分析
2-5. 回答者一覧
2-1. アンケート調査を実施して
(1) 目的
日本財団は、近年、私たち人類の生存基盤である海洋問題、特にその資源・環境問題の重要性に着目して、それに対するわが国および国際社会の取り組みについて調査研究してきた。その結果明らかになったのは、近年、国連海洋法条約の発効やリオの地球サミットを契機として、世界各国が海洋の総合的管理を国家の重要政策として取り上げて熱心に取り組んでいること、それと対照的にわが国は、世界で6番目に広い排他的経済水域を持つにもかかわらずそのような国際的動きに無関心で、行政も教育・研究も縦割りのままで国際社会の動きに背を向けていること、国内的にも海洋と沿岸域の問題を総合的に取扱う仕組みがないため様々な問題が起こっていることなどである。そこで日本財団では、海洋関係の有識者からなる「海洋管理研究会」(以下「研究会」という)を設置して、このような「海洋管理」問題について国際的な動きをフォローしつつ、わが国の問題点を検討し、今後の海洋管理のあり方を研究・政策提言することを目的として活動を続けてきた。
今般、2年にわたる研究会での調査研究や討論を通じてわが国の海洋政策のあり方について研究会の意見がほぼ固まってきたので、これを研究会提案として提示し、海洋に関する各界の有識者の意見を広く収集し、最終的な政策提言を取り纏める参考にすることを目的としてアンケート調査を実施することとしたものである。
本アンケートは、当初一般的な設問で回答者が自由に何でも書き込めるような提案発掘型のアンケートとする案からスタートした。しかし、これまでの研究会の活動成果を踏まえて、アンケート実施者の考え方をできるだけ具体的に提示して、それに対する回答と意見を求める方が議論を深めることができるのではないかということになり、5つの研究会提案を提示し、回答者の便宜を考慮してできるだけ選択式設問を多くする方式で設問設計をすることとした。したがって、記入用紙の前に「21世紀におけるわが国の海洋政策に関する提案」(2-2.)を挿入し、アンケートとしては異例の18ページ、提案5項目、設問延べ20問、選択式+自由記入方式、といういささか重たいものとなった。回答率の低下を危惧しながらも、提案の考え方の浸透を図ることにも重点を置いた。さらに、回答いただく上での関連情報として参考資料も10点、添付した。これらは、提案内容の理解を深めていただくことを第一義的目的としているが、副次的には海洋政策に関する関連情報を提供し、アンケート回答作業における思考を一過性に終わらせることなく、継続的な海洋政策論議の土壌作りの一助となるように考えたものである。
(2) 結果
アンケート調査は、大学有識者、海洋関係団体役員、中央官庁関係者、試験研究機関研究者、地方自治体、産業界・民間企業、国会議員、報道・シンクタンク・その他の合計434人を対象に昨年12月から本年1月にかけて実施した。ボリュームのある調査票となったため回収率の低下が心配されたが、結果は4割を上回る178人の方々からご回答をいただいた。ご多忙の中、相当の時間と労力を費やしてアンケートに協力して下さった方々に心から御礼を申し上げたい。アンケート結果については、2-4.で詳述する。
特筆したいのは、各選択式設問の後に設けた意見、コメントの自由記入欄には実に多くの方々から質量ともに充実した貴重な意見、コメントをいただいたことである。深い洞察力、豊富な知識・経験、鋭い観察、率直な感想など、そこから海洋に関する問題点と対処すべき方向が浮かび上がってくる。これだけ多くの方々が海洋に強い関心を持ち、熱意をもって海洋問題に取り組んでいるのは壮観であり、正直にいって予想を超えていた。多くの方々がわが国の海洋政策の現状を憂慮し、21世紀の展望を開くことを希求しているのを知り、何としてもこれらの力を結集しなければならないと決意した次第である。わが国の海洋に関する各界の有識者のほとんど全てを網羅したこれらの意見、コメントは、選択式設問の結果とともに本アンケート意義を高める貴重な成果である。国政に携わる方々、海洋政策の立案者をはじめとして海洋に関心を持つ人々および海洋関係者にぜひとも熟読をお勧めしたい。
(3) 21世紀におけるわが国海洋政策の提言
研究会では、本アンケート結果を参考にしながら、さらに政策提言内容について一層の検討を行ない、最終的に提言6項目、提言細目延べ23項目からなる「21世紀におけるわが国の海洋政策に関する提言」(以下「提言」という)を取りまとめた。(4-1.および別冊)なお、アンケート結果を提言作成の参考としたが、提言は、必ずしもアンケート結果の最大公約数の意見と一致するものではないことをあらかじめお断りしておきたい。
日本財団では、去る3月15日提言を記者発表し、同時にアンケート対象者全員に対してもアンケート結果(速報)ととも提言を送付し、提言の実現に向けて関係各方面に説明と働き掛けを行っているところである。なお、現在、文部科学大臣の諮問を受けて、21世紀初頭における日本の海洋政策のあり方を検討中の科学技術・学術審議会海洋開発分科会の委員は全員がアンケート対象者に含まれている。本アンケート結果および提言が、海洋開発分科会の審議の参考として活用されることを願うとともに、21世紀におけるわが国の海洋政策の検討を加速させ、海洋政策が国家政策の重要課題として位置付けられることに大いに貢献することを期待してやまない。
(4) 海洋政策をめぐる最近の動き
わが国の海洋政策をめぐる最近の動きとしては、次のようなものがある。第一は、平成12年6月の経団連による意見書「21世紀の海洋のグランドデザイン」である。これは、国土総合開発計画の第5次計画、いわゆる五全総が「21世紀の国土のグランドデザイン」として策定されたのになぞらえて、海洋についても同様の国家的政策が必要不可欠であり、海洋関連産業の活性化のためにも国家プロジェクトが求められている、との認識にもとづいて提案されたものである。内容的には、日本の200海里水域の各海域に拠点構造物を順次配備して水産資源の持続的開発を筆頭に、各種資源エネルギーを有効利用しよう、そして未解明の海域に関する科学研究も同時に推進しようというものである。
この意見書の出る前に、主要15分野の「国家産業技術戦略」策定という政府の取り組みがあったが、海洋関係は、この技術戦略では水産分野、資源分野、造船分野等のそれぞれの戦略でばらばらに取り扱われていて国家的戦略とは言い難い状況であった。
第二は、政府の審議会における海洋政策の審議である。これまで総理大臣の諮問機関であった海洋開発審議会が中央省庁再編に伴い平成13年(2001年)に文部科学大臣の諮問機関の科学技術・学術審議会海洋開発分科会(平啓介会長、委員24名)へと再編され、平成13年4月に文部科学大臣から「長期的展望に立つ海洋開発の基本構想と推進方策について」が諮問された。これを受けて現在同分科会で「21世紀初頭における日本の海洋政策のあり方」について審議が行われている。平成14年5月頃までに、その答申案がまとめられ、パブリックコメントを求めた上で、6月を目処に最終答申が出される予定である。
この答申が果たして向こう10年の日本の海洋政策のあり方をどのように描いて提示するのか、大いに注目される。