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解剖学実習
 ナット・タンピパット
 「来学期になると、解剖実習が始まるって?」と思わず声を出してしまいました。ホラー映画などで見た死体の姿の怖いイメージが強く、解剖実習という言葉だけを聞いて、気分が悪くなりました。ですが、それは自分の勝手な想像に過ぎないのだと今は気づきました。本物の解剖実習は違います。それから、たった二週間後、いよいよ解剖実習が始まりました。最初の日に、解剖実習室に入ると、何かすごくプレッシャーを感じて、先生方が本日の解剖実習について説明し始めてもなかなか緊張感がおさまりませんでした。そして、ご遺体との初対面です。今まで出会ったことのない息をしていない人間の体が私の目の前にいました。ですが、気分が悪くなるどころか不思議に気持ちが落ちつきました。講義で習った人体の仕組みを実際に一個一個明らかにして、自分の目で確かめることは私たちが解剖実習で実際にすることです。講義で聞いたことを思い出しながら、メスをご遺体に入れて、複雑な人間の体を実際に観察することができました。こういう作業を繰り返してするうちに、やはり人間の体を理解するためには講義を聞くだけでは不十分だと悟りました。頭で理論的に理解するのは簡単ですが、人間の体のすばらしさは実感できません。ご遺体は、私達の医学の勉強のため、生前に本人の強い意志で提供してくれました。ですから、ご遺体を尊重して、慎重に扱わなければならないことは言うまでもなくいつも心にとめておきます。
 今回の実習を通して、先生方を始め、ご遺族の方々の世話になりました。この場を借りて、感謝したいと思います。








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