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はしがき
1.貿易手続簡易化特別委員会は、平成13年度における事業活動の課題として「電子貿易取引における国際情報システムの構築に関する調査研究」を取り上げました。
 
2.わが国では、Sea−NACCSの更改、港湾EDIシステムの導入、外為法の輸出入手続に関するシステム(JETRAS)などがすでに導入されていますが、本年1月には港湾EDIシステムのNACCS接続・連携が実施され、また、インボイス等の申告関係書類の電子提出計画、JETRASとNACCSの接続計画等が予定されています。さらに、関税等を含めた電子的納付システム(マルチペイントネットワーク)、貿易関係の行政システムのワンストップ化、シングルウインドウ化、標準化計画が進行しています。
 
3.他方、民間レベルでも、インターネットの利用の急増に伴って、受発注から代金決済までの業務処理方式を、従来の書類中心のものから電子データ交換(EDI)に切り替えることを検討し、貿易手続に係わる事務処理の簡素化・合理化を図ろうとする企業が増加しています。
改めて申し上げるまでもありませんが、現行の貿易取引メカニズムの発展を一口で述べると、19世紀後半に一組の船積書類と為替手形によって基盤が確立し、20世紀の第一次世界大戦後に銀行信用状とトラストレシート制度の発達に支えられて完成したのであって、これにより貿易取引は安定した発展を遂げたのです。すなわち、紙の書類を媒体とする一連の貿易情報システムの上に貿易取引が履行されてきたのです。1987年にEDIの国際シンタックスルールとしてのUN/EDIFACTが採択され、貿易データエレメントの標準化、国連標準メッセージの開発が精力的に進められてきました。モデルEDI交換協定書やモデルEC協定書も開発されました。また、船荷証券の機能を電子的等価物に置き換える研究も行われました。これらの結果として、新しい貿易取引の仕組みを提供するBoleroやTEDIが設立されたのです。TEDIやBoleroのシステムを利用して、一部の大手企業による電子商取引が行われましたが、まだ実験的な規模に過ぎません。多数の企業が容易に参加できるような電子商取引を実現するためには、技術的側面はもちろんのこと、法的側面からの環境整備を行い、安心して利用できる電子取引ルールの確立が急務です。しかし、なぜBoleroやTEDIにもっと多くの貿易関連企業が参加しないのかという理由を解明することも大切です。貿易関連業界における電子化の現状、電子貿易取引に対する考え方、貿易取引の電子化を阻害する要因などを把握した上で、現行の貿易取引メカニズムに代わる国際電子商取引メカニズムを構築することが必要であると考えます。
 
4.本年度の報告書は「電子貿易取引における国際情報システムの構築に関する調査研究」という表題の下に、次の10編を収録しました。「I.国際電子商取引のメカニズム」は、電子商取引のための国際ルール構築への取組みの現状と展望を取り上げています。「II.電子商取引の国際標準化動向」では、昨年5月に完成し、採択されたebXML標準について、技術的側面からebXMLの概念および構成要素を説明しています。「III.電子商取引のための行動規範」は、昨年3月に開催されたCEFACT第7回総会で採択された「勧告第32号:電子商取引のための自己規制文書(行動規範)」の紹介です。「IV.貿易取引電子化の最新動向」では、商社の立場から、主としてTEDIの事例を中心に、貿易取引電子化の目的、貿易取引電子化の仕組み、業務効率化を果たす仕組みのポイント、海外ネットワークとの連携の意義等を説明し、さらに、ユーザー側要因とサービス提供者側要因に分けて普及への課題を論じています。「V.船会社から見た電子商取引の現状と促進のための今後の課題」は、船会社の立場から、主として、電子商取引に伴う主要な法的課題、特に、電子船荷証券に関連してBoleroの取った課題の解決法を論じています。「VI.貿易取引電子化に係る動向と銀行から見た現状の課題」では、貿易取引電子化促進と銀行の役割と意義の説明に続いて、銀行業務に係る課題、制度的課題、荷主等の導入インセンティブに係る課題等を論じています。「VII.損害保険における電子商取引市場」では、損害保険会社における電子商取引の現状、損害保険会社の電子取引市場に対する取組み、損害保険会社の立場からBolero、TEDI及び貿易手続き簡素化を論じています。「VIII.港湾物流分野におけるEDIの現状と課題」では、国際港湾物流分野における官民EDIネットワークの相関関係、港湾物流EDIの普及状況、民間業務EDI低迷の要因と問題点、EDI促進のための方策、これからの港湾物流情報ネットワークについて論じています。「IX.NACCSにおけるIT化の動向」では、物流施策の経緯および税関等関係当局の取組みと課題について現状と今後の展望を論じています。「X.オンライン裁判外紛争処理(ODR)に関する勧告案」は、現在CEFACT/LWGが取組んでいるODRの問題点の指摘と勧告案の紹介です。
 
5.電子貿易取引の環境整備が急速に展開する中で、本報告書が、電子商取引の実施を検討されている貿易関連業界の参考に些かでも寄与することができれば幸甚であると考えます。終わりになりましたが、日常業務に忙殺されているにも拘らず、貿易手続簡易化特別委員会の委員、オブザーバーおよび事務局の皆さんが、委員会の運営、資料作成、論文執筆等に献身的にご協力下さいましたことに対して心から感謝申し上げます。
平成14年3月
(財)日本貿易関係手続簡易化協会
貿易手続簡易化特別委員会
委員長 朝岡良平








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