4. バージ・曳船産業の社会環境
4-1 汚染に対する措置
1992〜96年の5年間、水上輸送業関連でEPAが取り上げた環境汚染事件は86件に過ぎない。そのうち50件は法律違反の事件として罰金を支払わされている。
これら50件のうち16件は、連邦政府の施設からの排出であり、うち14件は刑事事件となった。また、3件については補償環境プロジェクト(Supplemental Environmental Project: SEP)を実施することにより罰金を減額する措置がとられた。SEPは、法規で定められた排出基準より厳しい排出基準を達成する補償プロジェクトである。
最初の例では、1988年12月31日の米国籍船によるプラスチック類の廃棄に対して、15万ドルの罰金刑が課せられている。また、1994年、クルーズ船「バイキング・プリンセス号」の廃油投棄に関連して、FBIと司法省は5年間の観察処分及び50万ドルの罰金を課している。
上記50件の中には内陸水運に関する事件も幾つか含まれている。M/G Transport Service社の元役員、及び2隻の曳船の船長が、20年にわたりミシシッピ川及びオハイオ川を汚染した罪で、1995年に有罪を宣告された。申し立てられた罪状によれば、M/G社の船は1971〜92年の間、油性ビルジ、焼却灰、プラスチックを含むゴミ、台所ゴミ、金属、ガラス、ペンキチップ等を投棄していたことが立証され、油汚染に対する重共謀罪から曳船のゴミ投棄に対する軽犯罪まで、幅広い刑事罰が課された。
M/G社と同じように何年間かオハイオ川に廃棄物を投棄していたBruce D. McGinnisにも、2年間の観察処分と25,000ドルの罰金が課せられている。また、社長個人と共に、McGinnis社にも2年間の観察処分と12万ドルの罰金が課された。McGinnisはオハイオ川に硝酸アンモニウム、糞尿処理水、石灰、鉄鉱石、燃料、その他の汚染物質を常時流していたことを認めている。
1994年、ノースカロライナ州当局は、ノースカロライナ州フェリー交通局の数々の違反について処置を下した例がある。違反はペイントシンナー缶の閉め忘れ、週1回の検査不実施、危険廃棄物処理に携わる作業員の教育不実施、年間教育の不完全、教育記録不備及び施設からの排出を最小とする努力の欠如といったものである。このためフェリー交通局は1万ドルの罰金とともに、下記2つの特別プログラム(“SEP”と称される)の実施に合意しなければならなかった。
* 廃棄物減少SEP ― 燃料濾器のフィルターを再利用可能なシステムと交換し、濾器が冷却可能なように工夫する。溶剤の入れ替え量を減らすクリーニング装置付濾器システムを用い、かつ溶剤蒸留システムを用いる。
* リサイクルSEP ― フェリー乗客に配るニュースレターをリサイクル紙とする。アルミニウム、ボール紙とプラスチックのリサイクル場所をフェリー乗り場に4ヵ所増設。プラスチックの浚渫パイプを、くい材のずれ止め用として再利用。 リサイクル・プログラムをポスターやチラシで乗客に広知。
SEPはEPAの環境基準を満たすための強制プログラムであるが、環境基準を満たすために、多くの助成プログラムが官側及び民間で用意されている。これには、以下のような事例がある。
*環境リーダーシッププログラム
このプログラムは、環境改善、自主的基準適合、利用者との協力体制構築等をテーマにしたEPAの国家プロジェクトで、1995年に12の施設を選んでパイロット・プロジェクトが、1997年にはフルスケールのプロジェクトが発足した。具体的には、環境管理システム、複数のソースを用いた適合保証法、第三者機関による適合確認、公共の責任度合い、汚染防止、コミュニティーの参加、指導者プログラム等が含まれている。
*プロジェクトXL
本プロジェクトは、1995年にクリントン大統領の環境法規見直しイニシアティブの一環として始まったものである。見直しの要点は環境法規のコスト有効性で、このプログラムへの参加会社は、EPAと協議して基準の一部をフレキシブルに解釈し、より大きな環境利得を得ることができる。ただし成果が今までの解釈以上にクリーンであることが必要である。
* Climate Wiseプログラム
1995年に始まった、商業用及び産業用建造物のエネルギー効率を高めるプロジェクト。EPAはこのプロジェクトにより全米で250億ドルのエネルギー費用が節約され、CO2の排出量を35%削減させることができたとしている。このプロジェクトの参加会社はEPAから無料で技術支援が得られる。
4-2 税制
1995年度に連邦政府、州政府及び地域(郡、市、町)が全ての運輸システムから得た収入(Tax及びFee)は937億ドルであった。1994年度は835億ドルであったので、大幅な伸びと言えるが、運輸システムからの収入は毎年大きなばらつきがある。図II-2は1986年から1995年までの収入の変動を示したものであるが2〜8%の幅で上下している。
図II-2 運輸関連収入の変動
(1986-95)
図II-3 運輸関連収入内訳(1995)
上記収入の約半分は州政府が徴収した。1995年度の比率は州政府48%、連邦政府32%、地域20%で、1980年以来この比率は概ね一定である。ちなみに1985年の比率は、州政府48%、連邦政府32%、地域18%であった。図II-3は、上記1995年度の937億ドルのシステム別内訳である。最大の収入源は高速道路の71%でパイプラインが最小となっている。水運は、航空の15%、鉄道の10%に続きわずか4%である。
州政府、連邦政府、地域のそれぞれの収入をシステム別に分けてみると、会計年度でかなりばらつきがある。1996会計年度には、州政府は高速道路、連邦政府はパイプラインと水運、地域は航空と鉄道が最大の収入源であった。また、1985〜89年の期間についてみると、地域の収入の半分は水運であり、1993年までは連邦政府の航空からの収入は州政府や地域の航空収入よりも多かった。
内陸及び沿岸内水路運航船に課される、いわゆる免許税(Exercise Tax)には、旅客船に対する乗客1人あたり3ドルの税と、営利目的で物品を輸送する船舶の燃料に課される燃料税がある。燃料税は高速道路を走る車輌にも課されるので、連邦政府や州政府の重要な財源となっている。
航空や水運の分野からの燃料税が、連邦政府の収入に占める割合は小さい。1995年度、連邦飛行場及び航空路信託基金の収入の3.4%が燃料税によるものであった。また、同じ年に内陸水路からの燃料税は、上記総収入937億ドルのうち、水運部分(図II-3: 4%)の連邦政府の取り分の6.1%に過ぎなかった。これらの燃料税からの収入は、第I部で述べたように、内陸水運信託基金の一部として組み込まれ、水路の浚渫、ロックやダムの近代化に使用される。これらの費用は巨額であるので、バージ・曳船業界は燃料税とは別に、1ガロン4.3セントの税金を支払わされている。
4-3 航行サービス料等
航行サービス料は、維持に特別な費用がかかる航路に対する利用料である。1998年度にUSCGの砕氷作業費を賄うための利用料の制定案は破棄されたが、次第に受け入れられる方向となっている。USCGとNOAA(National Oceanic and Atomospheric Administration)の航行補助システム料も、1998年度は認められなかったが、2000年度途中から認められ、年間USCG分として1億6,500万ドル、NOAA分として1,400万ドルが徴収されている。
4-4 労使関係
表II-7は水運の現状をSIC(Standard Industrial Classification)コードごとにまとめたものである。本コードの最初の2桁は水運を示し、次の2桁で内訳を示している。内陸水運はSIC4449で、本節の主題である労(Employees)では、コード44全体の11%、使(Establishment)では4%、また、年間売上げでは8%を占めている。使用者側1社当たりの労働者は33人、労働者1人当たりの売上げは20万ドルである。これらの数字は内陸水運の実体を物語っている。
ちなみに他の4412(外国貨物貿易)、4432(五大湖貨物)、4481(国内海上旅客、除フェリー)、4482(フェリー)、4489(その他旅客、観光船等)、4491(港湾荷役、含陸上支援設備)、4492(港湾タグ)、4493(マリーナ)、4499(サービス、船舶チャーター等)で、1社当たりの労働者が33人を超えているのは4481の国内海上旅客(フェリーを除く)のみであり、内陸水運が労働集約産業であることを物語っている。
4481の労働者が多いのは、国内海上旅客輸送という業務の性質上やむをえないことと考えられるが、労働者1人当たりの売上げは49万ドルと、内陸水運の2.5倍であり、生産性は内陸水運に比べれば格段と高い。つまり内陸水運の実体は労働集約と低生産性で、改善の余地の多い産業であるということができる。
表II-7 SICコード別内航水運の現状 |
SICコード |
事業所数 |
雇用総数 |
年間売上総額(100万ドル) |
4412(外国貨物貿易) |
618 |
17,641 |
19,106 |
4424(航洋内航海運) |
367 |
7,429 |
4,917 |
4432(五大湖貨物) |
46 |
878 |
416 |
4449(内陸水運) |
531 |
17,548 |
3,598 |
4481(国内海上旅客、除フェリー) |
107 |
11,485 |
5,679 |
4482(フェリー) |
130 |
2,855 |
149 |
4489(その他旅客、観光船等) |
639 |
9,720 |
1,154 |
4491(港湾荷役、含陸上支援設備) |
1,198 |
23,767 |
3,627 |
4492(港湾タグ) |
1,056 |
16,137 |
2,470 |
4493(マリーナ) |
6,334 |
29,931 |
1,858 |
4499(サービス、船舶チャーター等) |
2,303 |
18,850 |
1,293 |
合計 |
13,329 |
156,241 |
44,267 |
一般に労働組合は1997年の前5年間、メンバーが減り力が弱っている。1950年代には総支払賃金ベースで35%の労働者を抑えていた労働組合も、1996年には14.5%に減っている。また、労働組合員は1979年の2,100万人から1996年には1,630万人に減っている。このように労働組合の影響力や組合員が減ったのは、組合が抱えている問題の一部に過ぎない。労働者の組合に対する不信感が次第に大きくなっているのが一番の問題である。労働者の中で組合に入ることが経済的に良い方向になるかどうかについて意見が分かれており、組合を通すよりも自分達で直接会社と交渉したがっている労働者が増えている。
1997年4月、米国労働総同盟産別会議(American Federation of Labor and Congress of Insustrial Organization: AFL-CIO)のジョン・スウィーニー会長は、ニューヨークにおける講演で、組合がこのように信用されなくなった原因として「ある人は取り決めた契約に固執しすぎた結果の失敗であるとし、また、別の人は労働組合の政治的主張に定見がないのが原因であるといっている。カルチャーや経済が変革する時は、人々の心は内に向いて孤立化し、外のことよりも身の回りの危険に注意が向くが、このような時期、労働組合の動きは鈍くなり、それが原因であると自分は考える」と述べている
内陸水運、沿岸海運、港湾サービス船舶の乗組員は、東岸、西岸及び五大湖では組合化されている率が多いが、メキシコ湾岸や内陸水運ではほとんど組合化されていない。メキシコ湾岸と内陸水運の企業を組合化するのがAFL-CIOの今後の課題である。西岸や東岸のバージ・曳船労働組合の組合委員長は、口を揃えて「メキシコ湾岸には7,500人のバージ・曳船乗組員が悪い条件で働いており一日も早く組合化する必要がある」と言っている。
しかし、これは組合サイドからの意見であり、メキシコ湾岸の組合化はそれほど容易ではない。確かにメキシコ湾岸は組合の勢力を伸ばすには良い地域であるが、今まで組合化されていないのにはそれなりの理由がある。
それは南部のプランテーションの心理で「私の父は組合に所属しなかった。従って自分もそうしたい」というものである。しかしながら、内陸水運が組合化されなかったのは、むしろ組合側に原因がある。伝統的にAFL-CIOは内陸水運を組合化することに興味を示さなかった。ある人はその理由として組合の幹部が、内陸水運の乗組員をプロとはみなさず一段低く考えていたこと、及び組合が個々の乗組員の組織化よりも会社全体の組織化を望んでいたからだといっている。家族経営会社の多い内陸水運と組合活動が相容れないことは容易に理解できる。
しかしAFL-CIOでは、内陸水運と港湾サービス船舶の分野の組合化に乗り出すことを決定し、その手始めとしてカジノ船の組合化を進め、何隻かのカジノ船をAFL-CIOの組織に取込んでいる。
また、AFL-CIOはガルフポートで稼動している何社かの港湾タグ・オペレーター、GIWWで稼動するバージ・オペレーター、テキサス州のブラウンズビル港以外の港湾タグ・オペレーター、アラバマ州モービル港に2社ある港湾タグ・オペレーターのうちの1社等、着実に組合化を進めている。ニューオリンズ港には4社の大きな港湾タグ会社があるが、AFL-CIOはこのうち2社の組合化に成功している。
また、GIWWのタンクバージ・オペレーター、Higman Barge社、及びSabine Towing社の内陸バージ部門の組合化にも成功しているが、AFL-CIOではOPA90を始めとし、液体貨物を取扱うバージの法規が厳しくなり、油流出に対する乗組員の責任がますます重くなっているので、タンクバージの組合化が容易となっていると見ている。OPA90は、前述のように乗組員の刑事処罰も有り得る法規であることから、乗組員は組織化して輸送契約を結んでくれる当事者を求めていた。AFL-CIOでは、タンクバージに関係する人々の給与がその責任の重さに見合っていないことを問題にしている。