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5. 最近のカナダの造船政策の動き
 大型艦艇工事が底をついた1997年、カナダの民間最大の労組であるCAW(Canadian Auto Workers Union)のMarine Workers' Federationが、「カナダ造船業復活のために:新たなビジョン――方針書」を発表し、その後毎年、造船業再興のための方針書を発表している。
 その後、1999年6月の会議でカナダ造船業界幹部及び、3労組が集まり、カナダ政府に造船政策の策定を求めるための連盟を結成した。
 
■ カナダ造船工業会(Shipbuilding Association of Canada)
■ Canadian Auto Workers Union
■ Federation de la Metallurgie Inc. CSN
■ Shipyard General Workers' Federation of British Columbia
 
 引き続き、CAWの海事労働者連盟(MWF)がカナダ造船工業会と合同で、連邦政府に対して、以下の4点を柱とする海事政策意見書を作成した。
 
■ カナダ造船所の競争力向上のための融資保証、償還期間の延長
■ 船主にカナダ建造船投資を奨励するためのリース融資に関する税制改革
■ 船主にカナダ建造を奨励する税額免除
■ NAFTAの不公平を廃止する公正な自由貿易政策
 
 1999年8月には、当時ニューファンドランド州知事であった、ブライアン・トービン現産業相は、ケベック市で開催された知事年次総会で、全国的な造船政策の必要性を強調するつもりであると、州民に約束している。
 翌2000年10月に、大西洋岸州知事がスポンサーとなり、セントジョンズで、「進路計画: カナダ海事産業政策へ向けて」と題する全国フォーラムを開催し、ブライアン・トービン産業大臣が司会役をつとめた。(彼はニューファンドランド州知事辞任前に同会議を企画していた)。
 造船関係者、労組関係者、ニューファンドランド州のBeaton Tulk知事、ニューブランズウィック州のBernard Lord知事、プリンス・エドワード州のPat Binns知事、ノバスコーシャ州のJohn Hamm知事等が参加した。各州知事は、このフォーラムの結果をもとに、連邦政府に働きかけることを約束した。
 この時、就任したばかりのトービン産業相は、造船業界代表及び労組代表4名からなる委員会を指名し、広く関係者から意見を募り、カナダ造船業・舶用産業活性化のための方策を提案するよう求めた。閉会の際に、トービン産業相は連邦造船政策を2001年に公表すると公約したのである。ただし、左寄りと見なされ、産業相への登用に実業界、政界から反対もあったトービン産業相は、繰り返し、助成は期待しないように、と関係者に釘をさしている。
 その結果が、「Breaking Through: Canadian Shipbuilding Industry(現状打開:カナダ造船産業)」と題する報告書にまとめられ、4月初めに発表された。すなわち、同報告書はカナダ産業省の要請により業界がとりまとめた提言という性質のものである。なお、報告書作成の大前提として、「直接助成は問題外」とされている。
 
 (同会議では、メリーズタウン造船所を買収した米国のフリード・ゴールドマン・ハルター社のオフショア部門社長であるSchnoor氏が出席し、タイトルXI等の米国の造船支援策について講演を行っている。)
 
 一方、カナダ産業省は、2000年5月から9月にかけて造船関係者から広く意見を求め、予備報告書を2000年10月に発表した。その内容は「現状打開:カナダ造船産業」とほぼ同じである。
 
5-1. カナダ連邦議会における造船産業政策立法活動の経緯
1999年の造船法(House Private Bill C-213)1999年10月14日提出者:MP Anton Dube,
 
概略:
本法案は、カナダにおける造船業を促進し、カナダ造船所の競争力強化を図ることを目的とする。
(a) カナダ内の造船所で建造される商船の購入のために融資機関から借り入れた金額の最大87.5%について
・融資返済の不履行が発生した場合、連邦政府がこれを保証する
・大型で経済体力のある企業に対して融資機関が提供する利率に匹敵する融資利率を提供する
・大型で経済体力のある企業に対して融資機関が認める償還期間に匹敵する条件を提供する
(b) 所得税法と所得税規則の条項を修正し、カナダ造船所で建造された船舶を購入するためのリース融資の税制上の扱いを改善する。
(c) 所得税法と所得税規則の条項を修正し、カナダ内の造船所における商船の建造、改造(refit)または当該造船所における改造に関連するコストの一部に税額免除還付を認める。対象は
・カナダ船を建造した船主
・外国船を建造した造船所オーナー
 
 同法案は2000年10月5日に、財政常任委員会に付託され、全員一致で可決され、House of Commonsに上程された。
下院産業委員会報告
 カナダ下院常任産業委員会(Standing Committee on Industry)が、1997年に開始したカナダ産業の革新性、生産性、競争力に関する長期的な調査の一環として、1999年11月から2000年3月にかけ、公聴会を開催し、生産性について各産業界の代表から意見を聴取した。その結果が、Fourth Report of the House of Commons Standing Committee on Industry、「生産性と革新性:競争力があり豊かなカナダ」と題する委員会報告書として2000年4月付け発表された。その中で、造船産業部門も取り上げられている。
 
同報告書では、造船産業について2項目の提言が行われた。
 
1. カナダ政府は、米国のジョーンズ・アクトの廃止を求めるか、カナダ建造、カナダ人配乗、カナダ修理の船舶に免除を与えるように修正することを求める。
2. カナダ政府は、造船産業関係者に相談し、カナダが得意とする市場を獲得するうえで造船業者を支援する産業政策を採用、改良する。
 
 これに対して、連邦政府(産業省)は次のような回答を行っている。
 
1. ジョーンズ・アクト問題については、状況は困難であるが、今後も米国に対し改正を要請する。
2. カナダ造船業の現状を把握するために、関係者と包括的な協議を行う準備をしている。
 
5-2. カナダ連邦政府造船支援策の現状
 カナダ連邦政府の主要な現行造船支援策としては以下のものが挙げられる。
 
■ 連邦政府船腹の国内調達要件(適用免除有り)。
■ NAFTA圏外からの輸入船に対する25%の関税(30.5mを超える漁船を除く)。
■ 資本コスト引当ての加速――4年間の減価償却、船主兼運航者にのみ適用。
■ 輸出融資、償還期間12年、コストの80%。
■ National Research Councilの海洋力学研究所へのアクセス。
 
5-3. カナダ造船業関係者の提言
 「現状打開:カナダ造船産業」報告書で、カナダ造船業が直面している問題点として指摘されたものの中には、次の項目が含まれている。
 
■ 諸外国による20−40%の助成:カナダ造船所は助成を受けていないために、輸出市場で太刀打ちできない。
■ ジョーンズ・アクト:NAFTAにより、米国建造船はカナダ市場に非課税で輸入されるのに対し、カナダ建造船は米国市場から締め出されている。
■ OECD、WTOを通じての助成、加害的廉売慣行の抑制努力の失敗。
■ 船舶融資についてのOECD協定は、現状に沿わない。特に、耐用年数25−40年の資産に対して償還期間12年の設定は短すぎる。
■ 既存のカナダ造船政策は、諸外国の助成、加害的廉売慣行に対抗するには不十分である。さらに、連邦船舶の国内調達政策では例外が認められるなど、政策が厳密に実施されていない。第二に、25%関税は20%以上の助成を受けた外国船舶に対抗するには不十分である。また、30.5mを超える漁船は、カナダ建造船に十分な競争力があるにもかかわらず、輸入船は非課税となっている。第三に、カナダ船主兼運航者は非常に有利な減価償却制度を利用できるが、これが有効に機能していない。
■ タイトルXI: カナダ建造船を購入する際に利用できる現行の融資メカニズムは、米国のタイトルXI融資保証に対抗するには不十分である。1994年に導入されて以来、18億USドルの輸出融資が行われた。カナダ造船所は質と価格の点で米国に引けを取らないため、匹敵する融資メカニズムがあれば、これらの契約はカナダ造船所が受注できた可能性がある。








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