1.5.1 調査趣旨
有害物質は重金属やダイオキシン類などで、そのほとんどが自然界に存在しない“体内の異物”であり、存在自体が不健康と言える。さらに、斃死や奇形など生物に悪影響を及ぼすことから、生態系の安定性を崩すものであるため、指標となりうる。
1.5.2 使用データ
有害物質に関しては、人体への直接的な影響も問題となるため、公共用水域水質測定調査(健康項目)、化学物質環境安全性総点検調査(水質・底質、生物モニタリング)を中心に各地方自治体主体の調査結果が比較的速やかに公表されている。特にダイオキシン、環境ホルモン等について、各自治体が積極的に情報公開しているだけではなく、一般的な新聞等でも情報を得ることができる。
(1) 公共用水域水質測定結果
作成機関:国立環境研究所環境情報センター
入手方法:水質の年間値については、環境情報センターのホームページの「オンライン・データベース−環境数値データベース」において全都道府県の値が公開されている。財団法人環境情報普及センターに申し込めば年間値もしくは元データが実費頒布で磁気情報として入手可能である。また、各都道府県の刊行物として各年度の調査結果が販売されているが、発行部数はあまり多くはないようである。
(2) 化学物質環境安全性総点検調査
作成機関:環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課
入手方法:「化学物質と環境」という年次報告書が市販されており、その中に調査結果が掲載されている。また、環境省のホームページにおいても「化学物質と環境」の概要が掲載されている。
1.5.3 調査手法
一次診断では、既存の情報を整理し、直近5年間の実測値と生物の奇形個体の報告例について調査する。二次診断への判定については以下に示すとおりとする;
・基準値が設定されている項目については、その値と直近5年間の実測値を比較し、上回っていれば二次診断において、より詳細な調査を行う。基準値がない項目(例えば環境ホルモンや底泥中のダイオキシン濃度)については、一般的に判断に用いられている値を目安とする。
・海湾および流入河川に生息する生物種について、過去5年以内に奇形個体の報告例が確認された場合は、二次診断において、より詳細な調査を行う。また、オスのメス化(またはその逆)等により個体数が減少もしくは姿を消した生物種についての報告例も調査対象とする。
調査範囲は、河川水、海水、底泥、生物とする。
1.5.4 調査結果の評価手法
「海の健康度」の評価基準は以下のよう設定する。
・最近5年間で(環境)基準値もしくは評価値を上回っていないこと。
・最近5年間で奇形等異常個体の報告例がないこと。
・最近5年間で有害物質が原因で個体数が減少もしくは姿を消した種の報告例がないこと。
1.5.5 調査結果の事例
基準値による判断の例として、図III-8に各健康項目別の不適合率の推移を示す。これによると、昭和60年以降、不適合率はほぼ横這いであり、平成9年については、全項目の達成率は99.5%であった。不適合項目としては、鉛、砒素、ジクロロメタン、トリクロロエチレンがあげられる。健康項目の調査結果において不適合項目がみられた海域については、二次診断の対象とする。環境ホルモンについては、東京都内分泌かく乱化学物質専門化会議の発表によると、東京都では平成10、11年の調査において、水・底質中で19物質(調査項目66物質)検出され、魚介類でPCB等6項目(調査項目13物質)検出された。また、有明海では環境省の平成11年度調査で河川からPCB等5種類の環境ホルモン物質が検出され、タイラギ、アサリの個体からもTBTが検出されている。このような公表結果から一次診断の評価を判定する。
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図III-8 各健康項目別不適合率の推移
1.5.6 注意点
公共用水域水質測定項目については、基準値が定められているため判断が容易であり、トレンドの調査も行うことができる。しかし、環境ホルモンやダイオキシン類については、基準値が定められていないものも多く、各自治体の結果公表時のコメントも「環境省が公表している既存の調査結果の範囲内であった」というものが多い。したがって、公表された結果の値の判定について、なんらかのルールを定めておく必要がある。