(3) 藻場・干潟面積の推移(項目番号:生態−3)
(A) 調査趣旨
藻場や干潟は水生生物の重要な生息場であり、藻場・干潟の消長は海湾の生態系に大きな影響を与える。藻場や干潟などの生物の生息場が海湾内に安定して存在しているかどうかを簡易的に判断するために面積に着目する。
(B) 使用データ
環境省では、自然環境保全基礎調査において日本全国の藻場・干潟面積の集計を実施している。自然環境保全基礎調査は全国的な観点から我が国における自然環境の現況及び改変状況を把握し、自然環境保全の施策を推進するための基礎資料を整備するために、環境省が昭和48年度より自然環境保全法第4条の規定に基づきおおむね5年ごとに実施している調査である。
(i) 干潟
第2回基礎調査においては、現存するか、昭和20年までに存在していた面積1ha以上の干潟を、主として地形図、空中写真の読み取りその他既存資料の収集により、また必要に応じて現地確認等を行って、その位置、面積、タイプ、環境の現況等を調査した。
第4回基礎調査においては、最新の分布状況と前回調査時以降の消滅状況を把握した。
(ii) 藻場
第2回基礎調査においては、おおむね20m以浅の沿岸において、現存するか、昭和48年までに存在していた面積1ha以上の藻場について、干潟と同様の調査を実施した。
第4回基礎調査においては、最新の分布状況と前回調査時以降の消滅状況を把握した。
(C) 調査手法
この調査では干潟に関しては最も古いデータが1945年という古いデータであり、過去のデータは高度成長に伴う激しい開発以前の海湾が本来「あるべき姿」を検討する際の有効なデータとなる。干潟に関しては1945年時点でのデータと比較し、藻場に関しては1978年時点のデータと比較し、現状(最新データとして1993年)の藻場および干潟面積の減少率を算定する。
(D) 調査結果の評価手法
「海の健康度」の評価基準は以下のよう設定する。
藻場・干潟のそれぞれの面積が20%以上減少していないこと。
(E) 調査結果の事例
図II-8には海湾ごとの藻場・干潟面積の推移を示した。いずれの海湾でも、藻場・干潟面積とも減少傾向にあることがわかる。干潟に関しては、かつての東京湾などは、単位海面積で評価すると、有明海などにも匹敵するような非常に干潟の多い海湾であったと推定できる。一方、大阪湾はもともと干潟面積の少ない海湾であると考えられる。
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図II-8 藻場・干潟面積の変遷
(4) 海岸線延長の推移(項目番号:生態−4)
(A) 調査趣旨
自然海岸線延長が減少している場合には、埋立てや護岸整備があり、自然海岸線特有の生態系が失われていることを意味している。これは生物の生息場所の増減を評価する指標となると考える。また同時に自然海岸線の延長を把握することにより海湾の持つ自然度を評価することができると考えて導入する。
(B) 使用データ
環境省では、自然環境保全基礎調査において日本全国の海岸線の延長をその形態別に集計を行っている。自然環境保全基礎調査は全国的な観点から我が国における自然環境の現況及び改変状況を把握し、自然環境保全の施策を推進するための基礎資料を整備するために、環境省が昭和48年度より自然環境保全法第4条の規定に基づきおおむね5年ごとに実施している調査である。
調査対象となった海岸線は、「全国海岸域現況調査」(建設省、昭和50年度)の「海岸区分計測図」に表示されている海岸線で、短径100m以上の島を含む全国の海岸線を対象としたものである(ただし、いわゆる北方領土を含まない)。該当する都道府県は全国で39都道府県であった。
(C) 調査手法
環境省においては海岸線形態を自然海岸、半自然海岸、人工海岸および河口部の4つに整理しておりそれぞれの海岸線は表II-6に示すように定義されている。
表II-6海岸線の形態別の定義
1)自然海岸 |
海岸(汀線)が人工によって改変されないで自然の状態を保持している海岸(海岸(汀線)に人工構築物のない海岸) |
2)半自然海岸 |
道路、護岸、テトラポット等の人工構築物で海岸(汀線)の一部に人工が加えられているが、潮間帯においては自然の状態を保持している海岸(海岸(汀線)に人工構築物がない場合でも海域に離岸堤等の構築物がある場合は、半自然海岸とする。) |
3)人工海岸 |
港湾・埋立・浚渫・干拓等により人工的につくられた海岸等、潮間帯に人工構築物がある海岸 |
4)河口部 |
河川法の規定(河川法適用外の河川にも準用)による「河川区域」の最下流端を陸海の境とする。 |
ここでは、上記のデータを用いて全海岸線に対する自然海岸、半自然海岸、人工海岸 の占める割合を算定する。
(D) 調査結果の評価手法
人工海岸は人間社会の活動が始まる以前には、本来存在しないものである。そこで人工海岸の存在自体を重要視して、「海の健康度」の評価基準は以下のよう設定する。
人工海岸が20%以上存在しないこと。
(E) 調査結果の事例
図II-9には、全海岸線に対する自然海岸、半自然海岸、人工海岸の占める割合の海湾ごとの比較図を示す。ここで、各海岸の定義は以下に示すとおりであり全海岸線は自然海岸、半自然海岸、人工海岸および河川部の4つに整理されており、その中の3つを図示したものである。
海湾ごとに比較すると、周防灘では自然海岸が最も多く、人工海岸が最も少ない結果となっている。逆に大阪湾では自然海岸が最も少なく、人工海岸が最も多い結果となっている。また、1973年に比べて1993年では、三河湾において自然海岸線が激減しており、自然度の急速な減少が懸念される。一方で東京湾や大阪湾は、古くから非常に自然海岸線が少なく自然度が低い海岸であることがわかる。
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図II-9 全海岸線に対する自然海岸、半自然海岸、人工海岸の占める割合の海湾ごとの比較
(5) 有害物質(項目番号:生態−5)
(A) 調査趣旨
有害物質は重金属やダイオキシン類などで、そのほとんどが自然界に存在しない“体内の異物”であり、存在自体が不健康と言える。さらに、斃死や奇形など生物に悪影響を及ぼすことから、生態系の安定性を崩すものであるため、指標となりうる。
(B) 使用データ
有害物質に関しては、人体への直接的な影響も問題となるため、公共用水域水質測定調査(健康項目)、化学物質環境安全性総点検調査(水質・底質、生物モニタリング)を中心に各地方自治体主体の調査結果が比較的速やかに公表されている。特にダイオキシン、環境ホルモン等について、各自治体が積極的に情報公開しているだけではなく、一般的な新聞等でも情報を得ることができる。
(i) 公共用水域水質測定結果
作成機関: |
国立環境研究所環境情報センター |
入手方法: |
水質の年間値については、環境情報センターのホームページの「オンライン・データベース一環境数値データベース」において全都道府県の値が公開されている。財団法人環境情報普及センターに申し込めば年間値もしくは元データが実費頒布で磁気情報として入手可能である。また、各都道府県の刊行物として各年度の調査結果が販売されているが、発行部数はあまり多くはないようである。 |
(ii)化学物質環境安全性総点検調査
作成機関: |
環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課 |
入手方法: |
「化学物質と環境」という年次報告書が市販されており、その中に調査結果が掲載されている。また、環境省のホームページにおいても「化学物質と環境」の概要が掲載されている。 |
(C) 調査手法
一次診断では、既存の情報を整理し、直近5年間の実測値と生物の奇形個体の報告例について調査する。二次診断への判定については以下に示すとおりとする;
・基準値が設定されている項目については、その値と直近5年間の実測値を比較し、上回っていれば二次診断において、より詳細な調査を行う。基準値がない項目(例えば環境ホルモンや底泥中のダイオキシン濃度)については、一般的に判断に用いられている値を目安とする。
・海湾および流入河川に生息する生物種について、過去5年以内に奇形個体の報告例が確認された場合は、二次診断において、より詳細な調査を行う。また、オスのメス化(またはその逆)等により個体数が減少もしくは姿を消した生物種についての報告例も調査対象とする。
調査範囲は、河川水、海水、底泥、生物とする。
(D) 調査結果の評価手法
「海の健康度」の評価基準は以下のよう設定する。
・最近5年間で(環境)基準値もしくは評価値を上回っていないこと。
・最近5年間で奇形等異常個体の報告例がないこと。
・最近5年間で有害物質が原因で個体数が減少もしくは姿を消した種の報告例がないこと。
(E) 調査結果の事例
基準値による判断の例として、図II-10に各健康項目別の不適合率の推移を示す。これによると、昭和60年以降、不適合率はほぼ横這いであり、平成9年については、全項目の達成率は99.5%であった。不適合項目としては、鉛、砒素、ジクロロメタン、トリクロロエチレンがあげられる。健康項目の調査結果において不適合項目がみられた海域については、二次診断の対象とする。環境ホルモンについては、東京都内分泌かく乱化学物質専門化会議の発表によると、東京都では平成10、11年の調査において、水・底質中で19物質(調査項目66物質)検出され、魚介類でPCB等6項目(調査項目13物質)検出された。また、有明海では環境省の平成11年度調査で河川からPCB等5種類の環境ホルモン物質が検出され、タイラギ、アサリの個体からもTBTが検出されている。このような公表結果から一次診断の評価を判定する。
図II-10 各健康項目別不適合率の推移
(F) 注意点
公共用水域水質測定項目については、基準値が定められているため判断が容易であり、トレンドの調査も行うことができる。しかし、環境ホルモンやダイオキシン類については、基準値が定められていないものも多く、各自治体の結果公表時のコメントも「環境省が公表している既存の調査結果の範囲内であった」というものが多い。したがって、公表された結果の値の判定について、なんらかのルールを定めておく必要がある。