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2 建築年代を測る物差
 調査対象地区は、島原城の東側を南北に通っている旧島原街道筋を中心とした町なみである。南北の長さは約1.5キロメートルほどある。この街道筋とその周辺には、江戸時代末期から明治・大正・昭和初期に建てられた伝統的な町家が多く建っている。また、町家とともにその西側には寺院が多くある地域もある。
 今回の調査は上に記した「キリシタン弾圧の痕跡を残す町家と町なみ」のテーマのもとに、基礎調査として建物の実測をおこない、まず町家建築の編年研究をすることとした。ここでいう編年研究とは、民家の「建築年代を測る物差」を作ることである。民家の史的な変遷を知るためには、個々の民家の建築年代がわかっている必要がある。建築年代を知る手段として編年研究をおこなう。
 編年研究のために、調査は建物を観察し、概略の復原考察をくわえ、お互いに建物を比較しながら、時間とともに変化していく指標がなにか探しだすことから始めた。つまり、なにが古い要素であり形式であるか、またどれが新しい要素であり形式であるか、を見極めていった。指標を探しながらの編年研究、つまり、物差づくりは、未知数の数だけ方程式が揃わない数式を解くことに似ている。したがって、方程式が足りない分だけ仮定を設定しなければならない。現在のところ調査対象の町家は、長屋など小規模なものを除き規模が比較的大きなものに限定している。この理由は、調査地域を限定したことと同様に、家々の規模をある範囲に限り、物差づくりにあたって未知数をできるだけ少なくするためである。
 編年の指標は、時代によって変わっていく建物の材料、構造、細部形式、技法、部材の仕上げなど時代によって変わっていくさまざまな要素が取りあげられる。これらのうちには、[1]その地域に特有なもの、[2]その地域の周辺さらに広い範囲にも及ぶもの、[3]全国的に通じるものなどがある。これらの指標はそれぞれの地域の歴史や風土、建築文化、技術を反映している。一定の物差ができた暁には、地域を周辺に拡げ、また、小規模な建物にまで範囲を拡げて、比較対象を増やしていくことになる。
 なぜ編年研究をするか。前に建築年代を知る手段として編年研究をおこなう、と書いた。民家や町なみの研究はそれぞれの人によってさまざまなテーマや方法が設定されるが、われわれは研究方法として建物そのものや町なみそのもの、つまり遺構(遺物)を基本資料として、まず建築史の基礎的研究をすすめている。そのためには基本資料である建物の年代を知ることがまず第一に必要になる。民家では一般的に、棟札や普請帳など文献によって建築年代がはっきりしている場合は少ない。今回の島原の場合は比較的多くの棟札があったが、半数は建築年代を確実にする文献等が見つからなかった。そこでそれらの建築年代は編年研究によって大枠を決めることになる。
 われわれは編年研究をもとにして町家の変遷を知り、さらに町なみ、町の歴史を読み取ろうとしている。民家を保存し町なみを保存する場合には、その町の歴史が建物そのものから読み取れるように系統的な保存が考えられなければならない。








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