要旨
瀬戸内海の閉鎖性水域では、富栄養化の影響を受けて、プランクトンの異常増殖による赤潮の発生による漁業被害や夏季を中心とした海水の上下混合阻害に伴う貧酸素水塊の発生と底質悪化による無生物域の出現などの現象がみられ、これらの改善は重要な課題となっている。
そこで、自然のシステムが有する浄化能を最大限発揮させることにより、自然にやさしい生態工学的手法による底質改善技術を確立することを目的とした研究を行い、2001年度は以下のことが明らかとなった。
[1] 閉鎖性水域として海田湾と松永湾を選定し、底質及び底生生物の現状調査を行ったところ、海田湾では底質汚濁が顕著であり、水生生物保護のための基準である「水産用水基準(2000年版)」(社団法人日本水産資源保護協会)と比較して、10月の硫化物はシルト分以下の含有率が最も低かった地点を除いて全て1mg/g以上の高値を示し、最高値は水産用水基準の7.95倍であった。
[2] 底生生物は、夏季の海田湾では砂泥地のような豊富な群集とまではいかないが、底生生物の生息が見られた。しかし、10月には底泥中の硫化物量の増加や底層水の溶存酸素量の低下など底層生息環境の悪化により、無生物域ないし生物貧困域を生じさせるなど底生生物群集が貧困になっていた。
一方松永湾では、海田湾のように底質生息環境の悪化が顕著でなく、底生生物群集の貧困化が見られない。
[3] 底生微細藻類の海域浄化能を実証試験する海域は、底質及び底生生物から判断すると、底質汚濁が顕著で底生生物群集の夏季相及び秋季相の違いが明瞭に表れる海田湾が好ましいと考える。
[4] 底生微細藻類としては、Melosira spp.、Achnanthes spp.、Diploneis spp.、Thalassiosira spp.及びNitzschia spp.などが見られた。
[5] 底生微細藻類としてAchnanthes sp.、navicula sp.、及びNitzschia sp.を単離して培養実験を行った結果、Nitzschia sp.の培養に成功した。
[6] Nitzschia sp.は、水温と塩分に対する増殖応答実験の結果、水温15℃、塩分25psuにおいて0.66±0.08day-1という高い比増殖速度を示した。
また光強度に対する増殖応答実験の結果、30μmolem-2sec-1において最大の比増殖速度0.26day-1を示し、それ以上の光強度では増殖速度は低下して強光阻害が起こっていることが示された。
なお本研究は、次のとおり研究体制を組織して行った。
| 氏名 |
所属 |
| 松田 治 |
広島大学大学院生物圏科学研究科 教授 |
| 山本 民次 |
広島大学大学院生物圏科学研究科 助教授 |
| 皆川 和明 |
財団法人 広島県環境保健協会 環境科学センター |
| 有吉 英治 |
財団法人 広島県環境保健協会 環境科学センター |
1.調査・研究目的
瀬戸内海の閉鎖性水域では、富栄養化の影響を受けて、プランクトンの異常増殖による赤潮の発生による漁業被害や夏季を中心とした海水の上下混合阻害に伴う貧酸素水塊の発生と底質悪化による無生物域の出現などの現象がみられ、これらの改善は重要な課題となっている。
これまで、ヘドロ化した底質の改善は、主として覆砂や浚渫などの土木的手法が行われてきたが、例えば覆砂事業を行うと、底生生物相として汚濁に強いゴカイ類等の環形動物から、汚濁に弱い節足動物の侵入による環境修復効果が見られるものの、時間経過とともに覆砂上に再びヘドロが堆積し、覆砂以前の状態に戻り、一時的に改善が見られても永続的でない場合が多い。
そこで、自然のシステムが有する浄化能を最大限発揮させることにより、自然にやさしい生態工学的手法による底質改善技術を確立することを目的とする。
2.調査・研究目標
海底の弱光下においても光合成能(酸素供給能)の高い底生微細藻を選別抽出し、大量培養する。これをヘドロ化した海域の底質に移入して、底質表層の環境を好気的に変えることにより、蓄積された有機物と新規に藻類によって生産された有機物を利用分解する様々な底生生物の生息が可能になることが期待できる。
すなわち、底質環境を好気的に変えることの目標数値として、水生生物保護のための基準である「水産用水基準(2000年版)」(社団法人 日本水産資源保護協会)があり、そのなかで海域底質の有機汚濁に関する基準として次の2項目が示されている。
COD:20mg/g以下
硫化物量:0.2mg/g以下
したがって、当面は有機汚濁の見られる底質環境を水産用水基準のレベルに近づけることを数値目標とする。
なお最終目標は、藻類や汚泥中の有機物を利用した生物が、生態系内の食物連鎖を通じて次第に高次生産に利用され、生物生産につながるようにすることとする。