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訪問看護ステーション中井から[7]
在宅ホスピスケアって 何だろう?
所長 吉村 真由子
 これまでピースハウスホスピスからの往診や当訪問看護ステーションの24時間体制を話題としながら、ホスピスの理念に基づく在宅ケアの条件について考えてきました。在宅での症状コントロールや看取りのケアを含め、ピースハウスの外来患者さんへの訪問看護に関しては、私たちのステーションでも在宅ホスピスケアをある程度は実現しているという実感を持てるようになってきました。しかしながら、最近、癌の末期にあった患者さんをめぐる他の医療機関と連携を試みる中で、「これは在宅ホスピスケアといえるのだろうか?」と疑問に思うことがありました。在宅ホスピスケアとは何かということについて、まず在宅ホスピスケア協会における「在宅ホスピスケア実施基準」(1998年)を引用させていただきながら考えていきたいと思います。
在宅ホスピスケア実施基準
(1)医師の訪問診察、看護婦の訪問看護、必要に応じたその他の職種の訪問サービス
(2)患者の家を中心にした24時間、週7日間対応のケア
(3)主に患者の苦痛を対象とした緩和医療
(4)遺族を対象とした死別後の計画的なケア
(5)患者と家族をひとつの単位とみなしたケア
(6)インフォームド・コンセントに基づいたケア
(7)病院や施設ホスピスと連携したケア
現状を顧みると
 これらの基準と私たちの現状とを照らし合わせると、当然のことなのですが、すべての基準を十分に満たしているとはいえないでしょう。例えば緩和医療を実践している病院であっても(1)の往診や(2)の24時間対応は難しかったり、逆に往診はされているけれども、(3)の十分な緩和医療がされていなかったりという状況にたびたび遭遇します。体制の問題に関していえば、病院の医師と往診医との連携で24時間体制が可能になる場合もあれば、往診体制もなければ痛みや苦痛もとっていただけないという場合もあります。(4)の遺族へのケアは計画的に行うというのは、私たちにとってもまだまだ今後の課題です。
 在宅においては、ご家族が中心となって患者さんのケアにあたるのですから、(5)のご家族へのケアが、間接的に患者さんへのケアヘとつながっていると考え、ご家族へのケアにも力を入れています。(6)のインフォームド・コンセントは、病状が変化するたびに、主治医から現在の状態について説明を受けながら、どのような選択肢が残されているのかということについて情報提供を受ける必要がありますが、実際には主治医によっても、その内容に大きな幅があるのが現状です。(7)の連携については、同じ看護職であっても、施設の看護婦と訪問看護婦では視点も考え方も違ってくるので、コミュニケーションを図ることが重要になります。しかしながら実際には、申し送りはできても、定期的なカンファレンスや必要時に話し合いをもつ時間をお互いなかなかもてないのです。
 これらの状況と基準とを照らし合わせてみますと、ピースハウスとの連携でさえも、すべての基準を満たすことは難しく、往診の体制をもたない医療機関との連携や、症状コントロールを十分にしていただけない医療機関であれば、なおさら困難なことが多いのが現状です。
私たちの目指すもの
 このような中で私たちは、利用者のお気持ちを第一に尊重するケアを提供したいという思いで、また「家にいたい」というお気持ちを可能にする体制づくりと多職種間との連携により、「在宅ホスピスケア」を行うことが重要かつ可能であると考えています。在宅ホスピスケアの基準に近づくには、体制の問題だけでなく、質的にも検討すべき課題が多いのですが、その点についてはまたあらたな機会を設けてとりあげてみたいと思っています。








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