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老年病の外来診療
 12/13(木)の午後2時よりBeth Israel Deaconess Medical Centerの老年病外来を見学した。Dr.Lewis Lipsitzが責任者で,当日はDr.Lipsitzを含め4人の医師が外来担当であった。ほとんどが紹介患者で,診断や治療に関するコンサルテーションであるが,なかにはセカンドオピニオンを求めて受診するものも見られた。老年病の医療では,老人に特有の生物学的加齢,多くの併存病,そして,frailでありvulnerableであるといった状況を背景に身体,心理,精神,社会的問題を抱えた患者を対象にすることから,特殊な知識や技術が必要であり,内科医が片手間に老人の診療をすることは小児科医が成人の診療をする以上に不都合である。特に米国においては,言語上の問題,貧困,低い教育レベルといったわが国とは別の診療を阻害する要因があって,老人医療を複雑に困難化している面があるように思われた。
 わが国での外来診療とは異なって,1患者に30分以上はかけて診察するので診療の質は格段に高いが,Dr. Lipsitzを中心に4人の医師が相談しながら診察を進めており,教育的にも魅力のある外来診療であった。若い医師が,英語を話せない83歳の老女の新患を診るのに陪席させてもらったが,英語が話せる娘と孫が取り次ぎながら問診,診察を進め,そして,検査のプランを立て,インフルエンザのワクチンの注射をするまでつき合ったが,診察に看護婦が付くということはなく,注射の準備から注射をするまで,すべて医師が一人で行っていた。主訴は労作性呼吸困難,夜間のせき,下肢の浮腫で高血圧,糖尿病,慢性気管支炎のcomorbidityはあるが身の回りのことは自身で行え,ADLには問題がない。しかし,IADLの評価は中程度障害と思われた。今回の受診は患者が高齢化したため,これまでのバハマでの独居の生活からボストンに住む娘の元に引き取られてきたため,今後の医療をどのようにするかということであった。診断について意見を求められたので,心不全の鑑別に内頚静脈の怒脹とギャロップリズムの記載がないことを指摘すると素直に受け入れ,それらがないことを確認して後で伝えてくれた。また,Dr.Lipsitzがもう一人の医師と対診していた78歳の男性について,脊椎管狭窄と閉塞性動脈硬化症の鑑別のため上肢/下肢の血圧比を診ることになったが,実際の測定法には両医とも経験がないらしく,私が実施の仕方を教え,カットオフ値が0.9であることを告げると率直に感謝され,たいへんすがすがしい思いをした。複数の医師で複数の患者を診ることは色々な意味で有用であり,わが国の外来診療もこのように余裕のあるものであれば,医師への負担も軽くなるばかりでなく,よい経験を積むという意味でも教育的に好ましい思われた。
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図5 ケースマネジメントの症例管理サービスモデル(説明は文中参照)








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