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外来・在宅医療の立場からみたヘルスケアの向上とQOL
 Quality of Life研究会会長 国立循環器病センター 萬代 隆
 
 外来・在宅医療の立場からみたヘルスケアの向上とQOLに関する課題としては、[1]全人医療としてのQOL向上と評価方法の確立、[2]健康の自己管理・自己評価、[3]医療における自己決定、[4]高度専門医療への対応、[5]在宅医療への専門的医療、看護支援が課題として考えられる。
 次にQOLを基礎とする立場からは、[1]サイエンスとアート、[2]専門医療と全人医療、[3]グローバルスタンダードと個別化、[4]主観的QOLと客観的QOL、[5]インフォメーションとイマジネーション等の対比軸から、いかにしてQOLの高い医療・看護を止揚・創造するかが問われている。先端医療の進歩によりいかに技術設備その他の物質的要因が充足されたとしても、究極的には人間が人間として人間により癒されない限り、医療は未完成である。とりわけQOL評価が活躍できる場面としては、[1]比較したい治療方法の間に有効性において差異が少ない場合、[2]重篤な疾患に対する治療法としては高い効果があるが、毒性もかなり認められる場合、[3]治療が長期間にわたり、疾患の合併症の率も低く患者が無症状かごく軽度の症状である場合、[4]ターミナルな患者の治療及びケア、[5]健常者の健康増進及び一次予防、[6]障害者のノーマライゼーション、が考えられる。
 今回は、外来・在宅医療の例として、白内障の通院外来手術、高血圧症、人工透析、及び介護保険制度に関し、QOLの立場から各々の問題点を検討する。
I 白内障通院外来手術とQOL
 近年、高齢者の増加と入院せずに手術を受ける技術的な改良が進んだことにより、白内障通院外来手術が欧米の医療経済的な側面の後押しも受け、日本でも広がりつつある。医療者側からの評価ではなく、患者側からの本治療法の効果を検討する目的で、手術前、手術直後、手術半年〜1年後の3回すべての調査に回答を得た症例を対象とする調査結果を紹介したい。
 16領域60項目からなる自己記入式リニアアナログスケールによる質問表調査を実施したが、質問表に求められる信頼性に関しては、Cronbach α係数は0.8〜0.9であり、因子分析による検討では固有値1以上の主要11因子による累積寄与率0.82と妥当性に関する完成度にも期待できる可能性を有する結果であった。
 白内障通院外来手術によるQOLの変化に関しては、入院不要であり、さぞかしQOLが改善されるであろうとの予想に反し、約半数の症例においてQOLが悪化する結果となった。手術による期待に対して術後の感染に対する点眼の自己管理、両眼の手術が完了する間の片眼ごとの視力差の生ずる時期のわずらわしさ、術後経過に関する不安など入院せずにすむメリットが逆にデメリットとなる例が認められた。
 また、今回使用した質問表による術前QOL点数が300点以下の群ではほとんどの例においてQOL改善が得られ、手術実施に関して決断を決めかねている症例での治療方針の選択決断に関し、臨床現場でのQOL評価質問表の有用性が認められた。
 以上、外来手術によるメリットとデメリットに関し、QOLの立場からのヘルスケアの評価は新しい医療技術の開発及び今後の医療の質的向上に関し有用であると考えられる。
II 高血圧症とQOL
 外来・在宅医療の立場から、高血圧症はヘルスケアの向上を求められる最も一般的な疾患の代表であると考えられる。本症は私のQOL研究の出発点であり、今回は研究的な面とともに、高血圧QOL評価手帳の更なる活用をお願いしたいと考えている。私の印象では、家庭血圧値の自己測定はかなり広がっているが、高血圧症のQOL評価は日常の高血圧診療に具体的に取り入れられているとはまだまだ考えにくい。我々の研究結果と今後の課題についてコメントしたい。
III 人工透析
 人工透析治療をうけておられる患者さんは、1日おきに数時間かかる透析治療をうけるため通院の必要があり、一生続ける必要がある。その結果、仕事面の障害や泊まりがけの旅行、その他社会的な活動にも参加しにくいのみならず、経済的にも精神的にも多くの制約やデメリットのもとでの生活下にある。また、時間経過とともにQOLが低下する。他方、病気の受容ができればQOLの向上が得られる可能性も認められる。
 高度専門医療と在宅外来医療の代表例の1つとして、人工透析治療のQOLに関する我々の研究結果を紹介したい。
IV 介護保険
 昨年4月より、介護保険制度が導入された。本制度は高齢化社会を支える重要な在宅医療制度の1つであり、その介護サービスの評価にQOLは非常に重要な役割を有する。
 今回我々は、本制度導入前と導入後の比較研究により、現時点でのQOLの視点からの問題点を紹介したい。QOL評価質問表の検討、大都市と地方の比較、現時点での総合的有用性、種々の領域ごとの介護サービスのメリット、デメリット等、まだまだ未完成で今後の改善を必要とする問題点を多数含んだ本制度に関する現時点での結果を紹介したい。
 
 以上、早期退院との立場とは少し異なるが、外来手術や高度専門医療、慢性疾患や介護保険制度など、21世紀の医療の外来・在宅医療の中心課題をQOLの視点から分析することにより、今後の患者ケアに求められている質の高いサービスのあり方について触れてみたい。








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