4.新産業育成施策の具体例
本市では、これまで情報関連産業を中心とした研究開発型産業、デザイン産業、ファッション産業等の市内への集積に着目し、新産業分野として以下の通り具体的な施策を展開してきた。
(1)情報関連産業の振興
昭和63年4月に策定した福岡市基本計画において「活力あるアジアの拠点都市づくり」を目標としているが、福岡ソフトリサーチパークは、その一環として、新しい都市型産業の育成と研究開発機能の強化を図るために、本市ではまだITという言葉がなかった昭和60年頃より、次代を担うリーディング産業として情報関連産業の振興を市の重点施策と位置付け、福岡ドームの隣接地である「福岡ソフトリサーチパーク」地区(6.3ha)を情報関連企業の集積エリアと定め整備を進めてきた。
平成8年より地場情報関連企業の集合化ビルである福岡ソフトリサーチパークセンタービルと6つの大手メーカー・企業グループのビルが竣工し、現在では110社、6,000人超の従業員を抱える日本屈指の情報関連企業の集積地となっている。
(拡大画面: 241 KB)
ソフトリサーチパーク(SRP)位置図
◆福岡ソフトリサーチパークの整備
福岡ソフトリサーチーパーク整備事業は、新しい都市型産業(情報関連産業)の育成と、研究開発機能の強化を図るため、シーサイドももち情報業務施設用地内(約6.3ha)に、
[1]情報関連企業の研究開発部門等の立地
[2]第3セクター「(株)福岡ソフトリサーチパーク」による地場情報関連企業の集合化と研究開発支援機能の整備
[3]産学官の連携による情報技術に関する中核的研究所(財)九州システム情報技術研究所の設立・運営を中心として事業展開。
《事業の概要》
[1]コンピューターメーカー等のビル建設
立地企業: | 日本電気、日立製作所、富士通、松下電器産業、大宇・福岡シティ銀行グループ、麻生・IBMグループ |
[2]福岡ソフトリサーチパークセンタービル
竣工: | 平成8年2月14日 |
施設の概要: | 地場情報関連企業等の事業場、開放型試験研究施設、人材育成施設、交流施設、インキュベータ施設、利便施設 |
事業主体: | (株)福岡ソフトリサーチパーク |
事業内容: | 研究開発支援事業、人材育成事業、インキュベート事業等を実施 |
◆(財)九州システム情報技術研究所の設立
平成7年12月に(財)九州システム情報技術研究所を設立。福岡ソフトリサーチパーク地区の中核的研究機関として大学、地場情報関連企業、コンピューターメーカーとの研究開発活動等の連携とともに、地場情報関連企業の研究開発力・技術力の向上等、情報関連産業の振興を図っている。
事業内容: | 研究開発事業、交流事業、コンサルティング事業、情報収集・提供事業、人材育成事業等 |
平成13年11月には科学技術振興事業団の研究成果活用プラザ福岡が当地区に隣接してオープンし、産学官連携による研究開発に弾みがつくとともに、システムLSI設計開発分野においては、福岡ソフトリサーチパーク地区の企業集積・成果が大いに評価され平成13年12月に福岡県が産学官で推進するシステムLSIカレッジが福岡ソフトリサーチパークセンタービルに開校するなど、ますます研究開発拠点としての機能が充実しつつある。
(2)研究開発型産業の振興
市内には12の大学、10の短期大学、12の工業系専門学校がある等、政令市の中でも屈指の教育機関の集積地となっている。このため、人材確保がしやすく研究開発機能に優れている本市の都市特性を踏まえ、知識の源泉である大学・研究機関等を活かした産学連携による研究開発型産業を振興するため、次の事業を行っている。
◆産学交流事業
大学の優れた研究開発シーズを広く地域の中小企業等に紹介することにより、大学と企業の連携・交流を促進し、新たな産業の創出に結びつけていくため「福岡産学ジョイントプラザ」(セミナー)などを開催。
事業主体 | 福岡産学ジョイントプラザ実行委員会
(福岡商工会議所、福岡市、九州芸術工科大学、九州産業大学、福岡工業大学、福岡大学、福岡商工会議所工業部会、福岡市機械金属工業会、福岡エレコン交流会) |
◆産学研究発掘事業
新製品開発に向けた大学等との共同研究のテーマの発掘等を行う中小企業者に対して支援を行うことにより、産学の具体的連携を促進し、研究開発型企業の振興を図る。
[1]助成対象 | 新製品開発に向けて大学等と連携して共同研究テーマの発掘を行う福岡市内の中小企業者 |
[2]助成額 | 1テーマあたり30万円以内 |
[3]助成件数 | 4件程度 |
◆産学研究開発サポート事業
情報関連分野において、大学等と連携して新技術または新製品の研究開発を行う中小企業者に対し、「助成金の交付」及び「事業化の支援」を行うことでサクセスモデル創出を目指す。
《助成金の交付》
[1]助成対象 | 新技術または新製品開発に向けて大学等と連携して研究開発を行う福岡市内の中小企業者 |
[2]助成額 | 1テーマあたり500万円を限度に、助成対象経費の3分の2に相当する額内 |
[3]助成件数 | 2件 |
《事業化の支援》
助成金を交付した研究開発事業については、翌会計年度に民間・公的支援機関等と連携し、「事業化の支援」を行います。
◆研究所等立地交付金制度
本市の研究開発機能の強化を図るため、市内に試験研究施設を設置または賃借する民間の事業所に対して補助を行う。
《研究所等立地交付金制度の概要》
  |
中小企業者 |
中小企業者以外 |
対象者 |
平成8年4月1日以降、市内において、新製品の製造、技術の改良考案、若しくは発明に係る試験研究の用に供する施設を設置又は賃借した民間の事業者 |
対象要件 |
研究開発に常時従事する者が3人以上 |
研究開発のため新たに常用として雇用した人員の合計が10人以上 |
交付額 |
設置型 12,000円/m2 |
設置型 3,000円/m2 |
賃借型 年間賃借額の1/3 |
賃借型 年間賃借額の1/12 |
◆研究成果活用プラザ整備支援
大学等の研究成果を活用して新技術を創出し、新規事業化やベンチャーの起業化を促進するため、科学技術振興財団が開設した「研究成果活用プラザ福岡」(早良区百道浜二丁目)を支援している。
[1]目的
大学等をはじめ研究開発ポテンシャルの高い機関において、独創的な研究者を中心とする産学官交流を軸に、事業団が実施する諸事業との連携を通じて地域における技術革新による経済活性化を図るため、実証試験・試作等を含めての広範なコーディネート活動が展開できる施設を整備。
[2]機能
・産学官の交流推進(情報の収集と活用、研究会等の開催)
・研究成果の育成・活用(研究開発実施候補課題の収集、研究開発課題の選定、研究開発の実施)
・事業団諸事業との連携
◆システムLSIに関する取り組み
現在のITの世界的な進展により、半導体産業の主力製品であるシステムLSIは、情報機器のみならず家電、自動車、医療機器など幅広い分野で活用され、その重要性はますます高まってきており、その成長が期待される分野である。
本市には、大手半導体メーカーのシステムLSI設計開発部門の立地や設計開発ベンチャー企業の台頭があるとともに、大学等の研究機関等の頭脳資源の集積が見られる。これらを活かし、さらに集積度を高めるため、(財)九州システム情報技術研究所を活用した施策展開を進めるとともに、福岡県と連携して、システムLSI設計開発拠点化事業を推進する。
[1](財)九州システム情報技術研究所における事業
・第1研究室において、「システムLSIの要素技術開発と社会への普及」をテーマに、財団発足当初より定常研究を実施。
・平成10年からは、システムLSIに関する問題意識を共有する場として「システムLSIワーキンググループ」を設置。
[2]福岡県と連携して実施している事業(システムLSI設計開発拠点化事業)
a)システムLSI設計開発拠点推進会議
(顧問)文部科学省研究振興局長、九州経済産業局長、福岡県知事、福岡市長、北九州市長
(会長)九州電力(株)鎌田社長
b)システムLSIフロンティア創出事業
システムLSIに係る新しい製品開発等を行う企業を支援することにより、次世代のフロンティアを担うLSI関連研究開発型企業群を創出する。
《概要》
・対象者 |
新しいシステムLSIに関連する新製品開発等を行う県内に事業所を有する企業、大学及びそれらの研究共同体 |
・対象分野 |
・新たなシステムLSI(IPを含む)の開発
・新たなシステムLSIの設計開発ツール、製造装置、検査装置の開発 |
・補助金額 |
2,000万円以内/年 |
・補助率 |
10/10 |
・研究期間 |
2年以内 |
・補助対象 |
システムLSI開発に係る経費 (人件費、研究機器購入費、原材料費、特許取得費) |
・採択件数 |
年5、6件程度 |
c)福岡システムLSIカレッジ
システムLSI設計人材を育成することにより、企業、人材の集積を図り、アジアにおけるシステムLSI設計開発、供給の拠点化を形成する(13年12月開校)。
《概要》
・校長等 | (顧問)福岡県知事、福岡市長、北九州市長
(校長)九州大学大学院システム情報科学研究院 安浦教授 |
・教室 | 福岡ソフトリサーチパークセンタービル6F |
(3)デザイン産業の振興
デザインは、メーカー、流通等、あらゆる企業活動に不可欠であり、また、観光コンベンション都市を目指す、本市の都市づくりにとっても、非常に重要である。九州のデザイン需要も東京等に流出しており、本市のデザイン関連の教育機関の集積やデザイン関連産業の発展を活かしてデザイン関連産業の振興に努めている。具体的には、下記の施策を行っている。
◆FUKUOKAデザインリーグ
[1]目的 |
本市のデザインに関わる情報発信機能の一層の強化、幅広いデザイン関係者のネットワークの形成、企業や市民、行政のデザインマインドの醸成を図る。 |
[2]主催 |
FUKUOKAデザインリーグ実行委員会
平成12年度は本市と19のデザイン関連団体及び個人で結成
※参加デザイン関連団体の会員数 1,495名、339社、賛助会員70社 |
[3]内容 |
展示、街角探検、コンペなどの多彩な共同事業と、デザイン関連団体の自主事業を実施。
12年度は
a.作品展示(ソラリア「ゼファ」等)
b.デザイン相談会
c.デザイン教育(福岡市立南当仁小学校)
d.ホームページの開設 |
[4]時期 |
毎年9〜11月 |
◆デザインビジネスのコーディネート
福岡ライフーDプロジェクトについて(大川家具プロジェクト)
全国の家具販売額の12%を占める日本一の産地大川の家具工業会と、「FUKUOKAデザインリーグ」をきっかけに結成し、無料デザイン相談会などの事業を実施している「デザイン都市FUKUOKAを創る会」のメンバーとが連携し、全国に向けヒット家具を開発するプロジェクト。
・メンバー
大川側11企業、福岡側6デザイナー
※本市はコーディネーター役
・特徴
[1]メーカー、デザイナーそれぞれにグループであり、大川側も様々な家具を製作可能で、福岡側も様々な種類のデザインが可能となっている。従来は単独のメーカーが単独のデザイナーと契約し家具を製作していたので、提案の幅が限られざるを得なかった。
[2]従来行われていた単なる「家具の提案」だけではなく、流通ルートの確保を検討し、さらに新しいライフスタイルや空間を提案していく。
◆民間団体の活動支援
[1]デザイン都市FUKUOKAを創る会
デザインリーグを契機に、分野毎の垣根を越えたデザイン関連業界の交流がはじまり、その中から新しい事業に取り組む熱意のあるデザイン関係者が集まり結成された会である。
a.目的 |
福岡発のデザイン活動を展開することによって、よりよい市民社会形成の一助となること |
b.活動 |
・デザイン相談会 ・デザインセンターの検討 ・デザイン教育 ・アジアとの交流 ・イベント ・交流会 |
c.設立日 |
平成10年4月16日 |
d.会長 |
長峰秀鷹((株)ファーム 取締役副社長) |
e.会員数 |
41名(平成12年9月1日現在) |
f.事業 |
|
I.デザイン九州場所(ユニバーサルデザインの啓発事業)
タウンモビリティ事業(モビリティ:移動環境)
・概要 |
高齢者や障害者などの街中での移動が困難な方に電動スクーターや車いすを貸し出し、自由に近隣の商店街でのショッピングやレジャーを楽しんでもらう事業。イギリス発祥。 |
・効果 |
福祉的な側面だけでなく、経済効果と商店街等の商業集積の活性化をもたらす地域振興策として注目され始めた。 |
II.ナイトフォーラム
・目的 |
恒常的な交流スペース、情報交換の設定 |
・日時 |
毎第3月曜日18:30〜、 |
・会場 |
ホテルイルパラッツォ |
III.無料デザイン相談会
・目的 |
企業や市民に対し、無料でデザインの相談を受け、不安や偏見を解消する。 |
IV.シンポジウム
広くデザイン関係者及び市民を集め、デザインに関する知識、意識の向上を図るとともに交流を通じてネットワークの拡大、促進を図る。
|
[2]各デザイン関連団体の事業の支援
各デザイン関連団体が実施するデザイン相談会、展覧会等の事業を支援
(4)創業支援
景気の低迷が長期化し失業率が上昇している中、本市経済の活性化を図り、雇用の拡大を図るためには、創業の活発化による新規産業の創出が強く求められている。このため、福岡市では、12年度から「福岡市創業支援センター」を設置し、総合的な創業支援施策の情報提供、事業を実施するとともに、併せて、本市創業者育成施設においてインキュベート事業を展開している。
◆創業支援センターの運営
平成12年度より本市における創業支援体制の中心的拠点として各種支援事業を実施するための事務所を福岡ソフトリサーチパークセンタービル内に設置
《内容》
・創業に関する各種相談(中小企業相談における創業相談<中小企業診断士>を含む)
・各種創業・ベンチャー支援に関する資料・情報の収集、提供
・制度融資に関する相談(創業支援資金:経営支援課)
・創業支援関係機関との連携
・起業家支援セミナーの開催
・創業者育成施設(インキュベート)施設運営
◆創業支援機関連絡協議会の開催
インキュベート事業者、ベンチャー支援NPO、コンサルタント、学識経験者、ベンチャーキャピタル、国・県等の公的支援機関で構成する連絡協議会を開催
◆起業化支援セミナー
新たな市場を創出・開拓していく起業家の育成等を推進するため、経営に関する専門的知識習得のために実施する。 平成12年度からは資金計画・マーケティングに特化したセミナーを開催
◆インキュベート事業(平成12年11月開所)
独創的なアイデア又は技術を基に新しい製品やサービスを生み出そうとしている創業者を対象として、事業の開始から自立化までの非常に資金的に厳しいアーリーステージにおいて低廉な賃料で事務所を提供。
併せて、専門家による経営指導・相談の実施
◎入居資格(※原則として下記の条件をすべて満たすことが必要)
[1]これから製造業、サービス業等の事業を始められる方、又は入居時に創業して5年未満の方。
[2]独創的なアイデア又は技術を基に新しい製品やサービスを生み出す事業計画をお持ちの方。
[3]使用許可から3年以内に一般の事業所等に独立移転して事業を行うことができる方。
[4]騒音、臭気、振動等環境保全上問題がなく、他の入居者等及び近隣者と協調して事業を行うことができる方。
◎施設概要
[1]インキュベートプラザ御供所(福岡市博多区御供所8番)
・旧御供所小学校の教室をそのまま提供。(1教室1企業。全23教室)
・利用期間は平成15年3月まで
・月額使用料が約1万円という安さと、天神地区・博多駅に近い立地が魅力※インキュベートプラザ御供所については、利用時間に制限が有。
基本利用時間 平日:午前7時〜午後6時
(ただし事前届出により、平日は午後10時まで、土曜日、日曜日、祝日は午後7時まで可)
[2]インキュベートプラザ百道浜(福岡市早良区百道浜二丁目1番22号)
・1部屋をパーテーションで区分。1区画20m2。全8区画。
・利用期間は3年間。
(選考は応募者の中から、専門家等で構成する審査会で事業計画の審査により決定)
区分 |
提供数 |
賃料 |
部屋 |
インキュベートプラザ御供所(旧御供所小学校活用) |
23室 |
180円/m2 |
21〜32m23室、
63m212室、
90〜129m28室 |
インキュベートプラザ百道浜(福岡SRPセンタービル内) |
8室 |
1,200円/m2 |
20m28室 |
◎応募者数
御供所23室の提供に対し86件(3.7倍)、百道浜6室の提供に対し35件(5.8倍)の計121件の申し込みがあり、この結果を受け、百道浜については2ブースを増設。内訳は、情報通信関連が39%、環境関連が12%、福祉関連が10%とIT需要を反映して、情報関連企業の申し込みが多い。
また、申し込みの約64%は個人であり、市内からの申し込みが69%、県内が24%、県外が7%であった。
◎選考の方法
利用申請時に提出の事業計画書内容の審査を新規性・企業性・財務計画・販売計画・将来性の5つの視点から、専門家等(経営コンサルタント・創業支援機関等)で構成する審査会において選考審査を行い、その結果を踏まえて市長が決定した。
◎入居企業への関わり
創業スペースであるインキュベートルームの提供に加え、各企業のステージに応じた各種創業支援施策等情報の提供、創業支援機関等への紹介、創業支援資金融資の斡旋等を実施。このほか、利用者の経営指導や経営状況の把握のため、専門家(中小企業診断士:月1回程度)を派遣
◆企業家に対する専門スタッフによるコンサルティング
(中小企業相談窓口における創業相談<中小企業診断士>)
◆創業者に対する融資(創業支援資金)
[1]新規性事業育成資金
・対象者: |
特許法等に基づく事業又は新規性を有する事業を新たに開業する者(開業後6ヵ月未満の者含む) |
・限度額: |
20,000千円(新規開業の場合は、資金の2/3以内) |
・融資期間: |
設備10年以内、運転7年以内 |
・融資利率: |
年1.5%(平成13年4月1日現在) |
・保証人: |
1人以上 |
・担保: |
原則として不要 |
[2]独立開業資金
・対象者: |
中小企業勤務が継続して3年以上で通算5年以上の従業員・役員及び法律に基づく資格を有する者 |
・限度額: |
10,000千円(資金の2/3以内) |
・融資期間: |
5年以内 |
・融資利率: |
年1.5%(平成13年4月1日現在) |
・保証人: |
1人以上 |
・担保: |
原則として不要 |