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4.仙台ITアベニュー構想について
●IT関連企業の集積
 仙台市において、どうやらJR仙台駅東口に新しい動きがあるようだということが分かってきたのは、平成12年のことであった。この地区は従来から大手家電量販店の他パソコンショップが集中しており、パソコンの街としては以前から知られていたが、実はIT関連企業も多数立地していることが分かってきた。
 そこで、NTTのタウンページを基に電話調査を行ったところ、仙台駅北側にあるアエルビルのIT企業を中心としたベンチャー支援拠点(「仙台市情報産業プラザ(ネ!ットU)」(財)仙台市産業振興事業団運営)と、JR仙石線榴ケ岡駅に隣接する地域情報化推進機関(「仙台ソフトウェアセンター(NAViS)」)との間の約1kmには、「宮城野大通り」を中心におよそ140社のIT関連企業に約5,000人の従業員が働いているということが分かった。
 この地域は第2次世界大戦の空襲の被害を受けた駅西側の中心市街地と対照的に、戦災を免れたことにより古い家屋や寺社が残っており、地元では「駅裏」と呼ばれ戦後の発展からも取り残された感があった。しかしながら、80年代からの土地区画整理事業が活発に行われ、現在では宮城野大通りを核に大型家電量販店、パソコンショップ、ライブハウスやホテルなどが立ち並ぶ近代的な街並みを形成している。予備校や各種専門学校なども立地しており、若者の街でもある。最近では駅前広場の整備も始まり、ITアベニュー地区北側の区画整理事業が完成すれば、かつての面影も払拭された新たな街区に生まれ変わることとなっている。
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JR仙台駅東口地区(宮城野大通り)
 その中でもIT関連企業の集積が急速に進展したのは、ここ2、3年のことと見られ、特に1999年4月に完成した中央資本のインテリジェントビルの完成が、IT関連企業の移転の契機となったものと思われる。これにより、IT関連大企業のグループ会社をはじめ、地域系の情報処理企業や情報サービス企業が新たに集積した。
 IT関連企業が集積する理由は、[1]他の企業への業務委託や業務提携がしやすいこと、[2]小さな事業者同士が連携すれば大きな仕事を受注できること、[3]技術者同士が交流を深めることによってお互いの刺激となること、[4]競合しあうことによってお互いの技術交流が図れることなどと言われているが、なんといっても仙台駅東口は、東京まで新幹線で最短で1時間36分と大変便利な立地条件であり、急な打ち合わせが必要な場合などでもすぐに東京に行くことができる。この利便性が集積の最大の要因の一つということができる。
 また、バブル期以降にIT関連産業の事業所の立地が進んだことから、仙台駅西側の市中心部と比較しても賃料は比較的安い状態にあることや、新しいビルが多く、インテリジェント化されているため、IT関連企業には好都合ということもあるようである。このことは、前掲の国土交通省の調査におけるソフト系IT産業の立地要因である「賃料の安さ」や「交通アクセスの良さ」とも符合するものである。
 さらに、東口地域にはオフィスビル以外にもマンションが数多く、創業間もないネット系ベンチャー企業やコンテンツ系企業を中心に、マンションの一室に事務所を構えるSOHO的な企業も多い。事務所の近くのマンション居住する経営者もあり、職住近接型のライフスタイルが実現されている。こうした恵まれた住環境を活かす形態は他の地域のIT関連産業集積地ではあまり見られない特色である。
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ITアベニュー東口から仙台駅方面を臨む
●「仙台ITアベニュー」の誕生
 マイケル・ポーターが提唱した概念に産業クラスターというものがある。競争力のある産業を中心として関連産業が実際の取引、人的ネットワーク、ナレッジの共有などにより強く関係付けられている産業群のことをクラスター(房・群れ)と言い、地域産業の活性化の原動力となると考えられている。単にどれだけ大きな企業がその地域にあるのかということだけで地域の産業の競争力を測るのではなく、地域の産業間の関係がどれだけ強く、その関係がどれだけ創造的かということが大事だということである。地域の産業と強い結びつきのない誘致企業は、外的環境に影響されやすく、結局はフットルースで、撤退する可能性を高くはらんでいるからである。
 産業を支援する側にとっては、その産業クラスターをどのように育てていくかが問題となるが、産業クラスターは砂漠にゼロから育てるものではなく、既に地域に存在する各種の資源やそのネットワークに着目して育てられるべきものである。言ってみれば、地域のクラスターの芽を「発見」するところから始まるものであり、既にあるクラスターの可能性を分かりやすく示すことで初めてクラスターとして認識され、クラスターを意識して産業界・大学・行政が支援のための活動を始めることになる。
 仙台市では、この東口のIT関連企業の集積を仙台経済に活かしていくためにも、まずこの「集積」を認知してもらうことが必要であると考え、これを「ITアベニュー」と命名した。ITアベニューとは、その名の通りこの地区のメインストリートである「宮城野大通り」のことであり、仙台駅東口に点在するIT企業群に光を当て、ビットバレーやサッポロバレーにも匹敵するようなITの中心地にしたいという願いと期待を込めて命名したものである。
 最近では「ITアベニュー」という言葉自体も、いろいろな機会・場所で使われ始めており、少しづつ認知度が高まっている。また、様々な活動、支援もこの名前のもとに集まりつつあり、ようやく一体感が出てきたと言える。仙台ITアベニュー140社、5千人のIT関連企業の集積
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●ITアベニューの特色
 地方都市におけるIT関連産業の集積としては、サッポロバレーが有名であるが、サッポロバレーには、北海道大学の青木教授という、いわば教祖的な指導者の存在と、地元発の元気で実力のあるベンチャー企業群、そして産学官の幅広い人材が集い、さらに市民起業家の発掘や人的な交流などを行う寄り合いの場としてのBizCafeの創設が相乗効果を上げている例である。
 一方、仙台ITアベニューでは、前述の国土交通省の調査にあるように交通利便性や賃料の安さといった立地環境的な要因から、IT関連企業が自然集積しているに過ぎず、IT関連企業同士のネットワークの形成にまではまだ至っていない。集積している企業の大部分は、中央の大手企業の東北支店をはじめ、大手メーカー系列の受託開発を主とする企業、独自の中央とのパイプを生かして業務を行う企業など、従来型のメーカーとの下請で成り立つ「受託開発型企業」である。
 このほかに、特化した技術と確固たる理念に基づいたマネジメントで注目され、地域との関わりもかなり大きな「地域リーダー型のハイテクベンチャー企業」や、地域との関わりはほとんどなく、世界的な技術やノウハウを有し、独自路線に基づき海外市場も含めたグローバル展開を行う企業(「独自路線のハイテク企業」)、インターネットの普及やIT産業の発展と共に創業した比較的新しい小規模企業群で、ネット関連の新しいサービスやビジネスモデルの創造を目指し、独自路線を歩んでいるもの(「スーパーニッチ&特化型企業」)などが立地しているが、全体としてはその数は少ない。
 現在のところ、これらの企業の間では、業務や技術等に関する横の連携はほとんどなされておらず、個別企業の連携を除くと、交流や情報交換も希薄である。さらに、IT関連企業をバックアップする支援人材のネットワークやキーパーソンが存在するわけではなく、交流の拠点となる施設も現在のところ存在しない。その意味では、今後の展開次第では、仙台市の産業の将来を担う存在に進化していく大きな可能性を秘めているとも言える。 

●仙台ITアベニュー構想
 仙台ITアベニュー構想は、このような仙台地域の実情を踏まえて、商都仙台の商業とこれらIT産業とのつながりを深め地域内の需要を確保しつつ、東北大学工学部を始めとした大学などの工学系技術を活かしたソフトウェアの開発をコア・コンビタンスとしたクラスター形成の可能性を、IT企業の方々と一緒に検討していくというものである。
 また、現在仙台地域では稀有な技術レベルの高いIT企業の誘致や、そして仙台駅東口地域に散在しているIT関連企業の連携を戦略的に生み出そうという政策型のモデルである。民間事業者の意欲的な活動によってもたらされた他地域の同種の集積に比べ、仙台ITアベニューは後発の政策型の集積モデルであり、他地域の集積モデルの模倣に終わることなく、後を追いかける者として、独自のモデルを創り上げていくことがその発展には不可欠である。そのためにはBiz Cafeのような交流の場としてサロンの設置や、キーパーソンとなる支援人材の確保はもちろんのこと、他地域のIT産業集積地には見られない行政による基盤整備事業なども行っていくことが必要である。








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