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エッセイ 「精神障害者」のイメージについて思うこと
小比類巻 恵美子
 
 精神病院で仕事をしていて出会う人といえば、患者さんと呼ばれる人たちと、その家族あるいは関係者ということになります。患者さんの中には、自分の病気を自覚していて自分が辛くて病院にくる人たちと、自分の病気のことが自覚できないまま周囲の人達(主に家族)によって病院に連れてこられる人たちがいます。また、家族といっても、患者さんである本人の病気を理解しようと治療に協力しようという家族もいれば、患者さんたちの言動によって傷つき、消耗し病院から遠のいてしまう家族もいます。
 病気になる経過も当然のことながら、さまざまで、いろいろな症状や状態の患者さんが病院という場所で治療をうけているにもかかわらず、「精神科」「精神病院」「精神障害者」という言葉から受けるイメージは、「恐い」「何を考えているのかわからない」「衝動的に何をするかわからない人」「危険な人間」というものがまだまだ多いのではないかと思います。それは、精神医療関係者がいろいろな場面で、精神科患者さんについてまわるマイナスのイメージを変える努力をしても、なかなか、そう簡単に変わるものではないようです。
 精神科や患者さんに対してマイナスイメージをもっているのは、世間一般の人たちだけではありません。患者さん本人、家族、医療従事者であっても当然例外ではありません。とはいえ、マイナスイメージによって辛くて、孤独で、悲しい思いをしているのは、やはり、患者さんとその家族です。最近、テレビや新聞で報道されている「触法精神障害」「措置入院患者」の問題でも、「患者さんの人権に充分配慮しながら対応について議論していく必要がある」という言葉で大抵、締めくくられていますが、果たして今までの報道の仕方が本当にそのような人権に配慮した姿勢で行われていたのか、というと、はなはだ疑問、といわざるをえません。
 テレビや新聞で、精神障害者が犯罪の加害者になる可能性があるかのような報道をみる機会はあっても、患者さんや家族がそのマイナスイメージのために、孤独で辛い生活をしなければならなくなっていることについて、読んだり、聞いたりすることは少ないのではないかと思います。現在では、病気の症状についてはかなりの程度まで、治療によってコントロールできるようになってきていますが、その患者さんが社会にもどる時の大変さは今も変わらないように思います。社会が、患者さんたちに対してもっているイメージを短期間で変えていくのは困難かもしれませんが、今より少しでも患者さんや家族が楽に暮らせるようになるために、今まであまり関心をもっていなかった人たちに、今より少しでも興味や関心をもってほしいと思います。 
(臨床心理士)








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