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犯罪被害者と医療機関
中 川  洋
 
 犯罪被害者と医療機関の接点は、その大部分が身体的な被害による受診である。当院の救急センターに搬送される患者さんの中には、事件の被害者と思われるものも少数ではあるが含まれる。この被害者の多くは、傷害事件などによる身体的な被害であり、児童虐待による被害、DVによる被害などが含まれている。
 「児童虐待の防止等に関する法律」が平成十二年十一月、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」が平成十三年四月に公布され、診療時に別の主訴で来院したものについても、虐待及びDVによると思われる外傷を発見した場合には、通告しなければならないと定められた。子供や女性、老人への虐待に社会的な関心が高まり、犯罪被害者対策も進みつつある今日、医療機関等で被害者がどのような扱いを受けているか、注目されつつある。医療機関においては、身体的な治療に重きを置くあまり、被害者の精神的なサポートは、後回しになりがちであることは否めない。無神経な扱いにより二次被害を受ける場合、逆に、良い対応で被害後の良好な適応が促進される場合があると考えられる。
 児童虐待について、当院では平成十年度から十二年度までに一五例を経験しており、内三名が心肺停止、意識障害で来院し、いずれも頭蓋内出血で死亡している。平成十三年度はさらに増加の傾向があり、最近は三日連続して被虐待児が来院したこともあった。救急外来を直接受診したり、児童相談所や学校を介して紹介される等、受診の理由は様々であるが、医療機関においても児童虐待に接する機会は明らかに増加して来ている。医師が家庭が安全でないと信じるに足る理由がある場合、あるいは子どもの安全について少しでも疑問が残る場合には、入院させることで子どもの安全を確保するべきである。一般的に、病院は子どもの治療や検査をする場所であると考えられているため、親子分離の心理的抵抗が少なくて済むのではなかろうか。 児童虐待やDVの加害者は、来院時に被害者と同席していることも多く、自分の行っている行為に自覚がないことが多い。このような状況で、いま起こっていることが虐待やDVなのだと告知する(理解させる)ことは容易なことではない。現在の状況が危険な状態であることを説明することにより、察知してくれればよいが、直接的な説明では怒って被害者を連れ帰ってしまうことになりかねない。外部への通告をめぐっても、必ずしも当事者の同意が得られるわけではない。原因が軽減されないままに帰宅することにもなり、関係する外部の諸機関、児童相談所、福祉事務所、婦人相談所、警察、民間シェルター等との密接な連係プレーが必要になってくる。
 被害を受けられた方々が、身体的にも精神的にもできるだけ苦痛を感じずに快復されるよう、関係諸機関のネットワークが求められている。
(仙台市立病院院長)








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