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相談員雑感
 風に乗りテイカカズラの甘い香りが部屋の中に漂ってくる。昨日までの雨も止み、太陽の光に庭の花々も眩しそうにしている。
 そんな穏やかな日、突然惨劇がおきた。
 大阪の小学校で八人もの幼い命が奪われ、多くの人達が恐怖にさらされた。次々と飛び込んでくるニュースに戦慄を覚えるとともに、児童や家族そして先生方の深い悲しみを思った。
 現実を現実として受け取れるようになるまでの長い時間、被害者の人達はどのような援助を望むのだろう。
 先日、息子さんを病で亡くされたお母さんから「なかなか心の整理がつかなくて…」という電話を受けた。「グチですが話を聞いて下さい。誰かに話を聞いてもらうことで、混沌とした気持ちが軽くなっていくような気がするのです。」と語っておられた。時には寂しそうに時には怒りを込め、一本の電話の線にやりきれない思いをぶつけてくるお母さんの様子が私にも伝わってきた。
 「話す」ということは、悩みを「離す」作業でもあると、以前聞いた時がある。
 交通事故、その他いろいろな被害にあわれた方は、負った心の傷の深さに初めは動けないのかもしれない。しかし、少しずつ心の傷を「手離そう」と思い、繰り返し「離す(話す)」作業をしょうとした時には、私達も被害者の側にそっと付き添わせてもらえるのだろう。
 犯罪被害者支援センターみやぎも、関係者の方々の熱い情熱と努力で設立一周年を迎えた。
 電話相談室、各種機器の整備、多方面へのネットワーク作り等と、社会の要請に対応できるべく徐々に体制を整えてきた。その中にあって、私も電話相談員の一人として一層資質の向上をはかっていかなければ、と思っている。
 未だに電話のベルに緊張し未熟な対応に終始している状態にあるが、事務局、相談員の方々に助けてもらいながら、これからも犯罪被害者支援に取り組んでいきたいと思っている。
(M・S)
 
 「犯罪被害者支援センターです」と受話器をとって早一年が過ぎました。かけ手の気持にどれだけ寄り添うことが出来たか、記憶をたどってふりかえっております。
 虐待を受けているかもしれない、と様子をくわしく語ってくれた人がいて、せっぱつまった話し方にこちらも感情が高まっていくのがわかる、静かに、落ちついて傾聴する。それにつれてかけ手の言葉もゆっくりとなり、自分で気づいたことがあったようで身近な相談機関を思いつき、近いうち出向くことを告げられたときはうれしかった。「こちらからも連絡しておきます」と言葉を添えたものだった。常に事務局のアドバイスがあってのことを改めて明記しておきます。
 電話相談員という限られた立場での関わりについて研修はもちろん、実際のケースでの対応により学んではおりますが、そのとき、私は、という思いがいつも心の中にあります。
 大阪池田小学校で起きた児童たちの殺傷事件は多くの人々の心に深い傷跡を残したと思います。もちろんいまは言葉にならない状態にあると思います。日にちの経過とともに悲しみや憎しみが言葉となってくるでしょう。
 四〇余年前私は二歳の誕生日を迎えた間もない娘を病気で亡くしました。時間の経過とともに遠ざかってはおりますが、今でも悲しみ、悔い、責めがおそってくるのです―。
 全く突然に起こったあの殺傷事件は、どんなにおそろしい事だったか、と悲しい気持でいっぱいです。
 電話の向こうに、悲しみや憎しみをかかえ、やっと声を出す気力が出て来た人が何とか言葉を発して来たとき、私はどう関わるのだろうか。「お気持わかります」なんて、とんでもない、なにがわかるっていうの。手をつくして失ってさえいつまでもつらいのに。
 そのとき私は、どのように対応するか常に心の中で自問自答しているこの頃です。
(F・Y)








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