3 バリアフリー化促進に向けた課題
[1]公的支援制度の拡充
旅客船事業者は、離島の人口減少等に伴う需要の低迷や需給調整規制の廃止に伴う経営環境の変化により厳しい経営環境にあること、バリアフリー化への対応は、需要の拡大につながる面もあるが、高齢者・身障者等の移動の円滑化という社会的な要請による部分が大きいことなどから、国・地方公共団体等が適切な費用負担を行うべきである。
現在、船舶・旅客船ターミナルに適用可能な公的支援制度を表4に示す。
表4 船舶・旅客船ターミナルのバリアフリー化に対する公的支援制度
船舶 |
・共有旅客船のバリアフリー化施設に係る運輸施設整備事業団の支援(旧運輸省) |
旅客船ターミナル |
・既存旅客船ターミナルの一体的なバリアフリー化事業(旧運輸省) |
・離島旅客船ターミナルのバリアフリー化事業に関する補助(旧運輸省) |
・旅客船ターミナル等の民活法特定施設におけるバリアフリー施設の整備に対する補助(旧運輸省)
|
・人にやさしい建築物(ハートフルビルディング)整備事業(旧建設省) |
・旅客船ターミナルのバリアフリー化設備の整備に対する日本政策投資銀行による融資(旧運輸省) |
船舶・旅客船ターミナル共通 |
・交通バリアフリー施設整備助成制度(交通エコロジー・モビリティ財団) |
・福祉のまちづくり整備資金貸付制度(長崎県) |
注)国土交通省については、省庁統合前の名称(旧運輸省、旧建設省)で表記した。
これらのうち、旅客船ターミナルについては、新設時に加え、既存施設のバリアフリー化に対する補助も含まれているが、船舶については、実際の適用例が新造船のみとなっている。こうしたことから、既存の船舶における改造投資(乗降タラップの更新、転落防止柵の設置、スロープ・手すり等の設置、トイレの改造、情報提供設備の設置等)を対象とした公的支援制度の拡充が期待される。
なお、国・地方公共団体からの航路損益の補助対象となっている航路においては、その補助を受けていることと、バリアフリー化公的支援の適用を受けることについては、別個のものとしての考え方の整理を行うなど、一定の配慮が求められる。
[2]関係主体の連携体制の構築
バリアフリー化への取り組みは、一連の移動経路が継ぎ目なくバリアフリー化されることによって本来の効果を発揮する。また、バリアフリー化にあたっては、高齢者・身障者等の利用者のニーズを適切に反映させていく必要がある。このため、旅客船事業者、バス等の交通事業者、関係行政機関、高齢者・身障者関係団体等が緊密な連携を図り、一体的に取り組んでいく必要がある。
既存の連携体制の例として、佐世保港を含む佐世保駅周辺地区の再開発においては、身障者の関係団体と関係行政機関によって構成される「佐世保駅周辺のバリアフリーに関する意見交換会」を開催し、利用者ニーズを施設整備に反映させる取り組みを行っている。
表5 佐世保駅周辺のバリアフリーに関する意見交換会・出席者所属団体・機関
関係団体 |
長崎県肢体障害者福祉協会佐世保支部、長崎県視覚障害者協会佐世保支部、長崎県ろうあ福祉協会佐世保支部、佐世保市手をつなぐ育成会、佐世保市内部障害者協議会、子育てサークルネットワークさせぼ、特定非営利活動法人ピアさせぼ、特定非営利活動法人チーム・フォー・バイ・フォー、長崎県作業療法士協会 |
行政機関 |
長崎県福祉保健部社会福祉課、佐世保警察署交通第一課、佐世保市(理事、企画調整部企画調整課、都市整備部まちづくり課、同佐世保駅周辺土地区画整理事務所、港湾部建設課、同計画課、福祉保健部総務企画課、同長寿社会課、同障害福祉課) |
海上旅客輸送のバリアフリー化にあたっては、こうした取り組みを参考に、高齢者・身障者関係団体(社会福祉協議会、身体障害者関係団体、高齢者関係団体、ボランティア団体等)、旅客船事業者、バス事業者、関係行政機関(県、市町村等の各関係部局)等からなる連携体制を構築していくことが期待される。
具体的な連携組織としては、県内の各地区毎に「海上旅客輸送バリアフリー化促進協議会(仮称)」を設置し、それぞれの地区において、船舶代替やターミナル整備の時期等を考慮しながら、当該地区の各航路を順次取り上げ、船舶・港湾・アクセス交通手段・周辺の街づくりを含む一連の移動経路全体のバリアフリー化のあり方を検討・調整していくことが考えられる。
また、これ以外の連携の形態として、複数の旅客船事業者が乗り入れる旅客船ターミナル等において、各事業者が共同で高齢者・身障者等の移動を支援するための係員を配置することも想定される。
[3]評価指標等を用いたバリアフリー化の進捗管理
本調査では、長崎県の海上旅客輸送におけるバリアフリー化の状況をアンケート調査等により把握・整理したが、最新情報を利用者等に提供するとともに、旅客船事業者等の取り組みのインセンティブ(動機付け)とするため、[2]で述べた「海上旅客輸送バリアフリー化促進協議会(仮称)」もしくは地方自治体等の関係主体においては、今後も継続的にバリアフリー化の状況を収集・公表していくことが望ましい。
その際、旅客船事業者等の取り組みを一層促進するため、何らかの評価指標を用いて点数化したり、ランクづけすることが想定される。鉄道駅については、「バリアフリー度評価基準作成のための調査研究事業報告書」(交通エコロジー・モビリティ財団、2000年2月)において、「公共交通ターミナルのやさしさ指標」が策定されているが、旅客船ターミナルや船舶を対象とした指標について、こうした全国レベルでの指標策定を待つか、場合によっては長崎県独自の指標を策定し、各船舶・港湾の評価を行っていくことが有効と考えられる。
[4]バリアフリー化に関する情報提供と意識啓発
[3]に関連して、長崎県の海上旅客輸送におけるバリアフリー化の状況に関する情報を利用者が必要に応じて入手できるようにするとともに、高齢者・身障者等によるバリアフリー化された航路の利用を促進するため、各関係主体においては、各船舶、港湾等のバリアフリー化の状況を冊子、ホームページ等の媒体を通じて高齢者・身障者をはじめとする利用者に提供していく必要がある。
また、同時に、バリアフリー化の重要性や高齢者・身障者等への支援(介助)のあり方に関する一般市民への意識啓発を行っていく必要がある。
[5]法制度の整備と技術開発の促進
船舶のバリアフリー化にあたっては、船舶の安全性確保のための法規制とバリアフリー化に対応した構造・設備が相容れない場合があること、バリアフリー化への対応に伴って、実質的な同型船であっても換算トン数の増加により建造費をはじめとする各種コストが割高となることなど、法制度に関係する課題が存在する。これに関して、国においては、必要に応じて適切な見直しが求められるとともに、長崎県の海上旅客輸送に関係する各主体においては、長崎県の特性を踏まえ、望ましい法制度のあり方について、さまざまな機会を通じて国への意見・要望をあげていく必要がある。
また、低コストで安全性確保とバリアフリー化の両立が図られるような船舶の設計や新技術の開発を促進していく必要がある。さらに、桟橋や接岸中の船舶全体を覆う構造を持ち、風雨にさらされずに乗下船が可能となる全天候型旅客船ターミナルの開発についても、貨物船向けには類似のものがすでに存在していることから、検討に値すると考えられる。