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創立20周年記念講演会
サプライチェーンマネジメントと物流革命
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(株)野村総合研究所
社会システムコンサルティング一部
部長 早川康弘
 
 ただいまご紹介いただきました野村総合研究所の早川です。本日は財団法人九州運輸振興センター創立20周年、誠におめでとうございます。また、今回お招きいただきましたことを、この場をお借りしまして厚くお礼申し上げます。
 まず、若干自己紹介をさせていただきますと、1979年に大学卒業後、野村総合研究所に入りまして22年間、主に交通、物流あるいは港湾、空港、鉄道等のインフラの計画作りに携わっております。もともと経済学を勉強していたのですが、会社に入りましてから、インフラ関係の仕事が多くなりまして、土木学会、土木関係の企業の方々とも非常に懇意にしていただいておりまして、技術士という工学系の資格をとりました。技術士の資格も、実は「港湾計画」でとりましたので、今回この会場にお越しいただいている皆様とは、非常にご縁の深い分野で22年間ほど仕事をさせていただきました。
 今回、私がここでお話をさせていただくにあたりまして、サプライチェーンマネジメントを、「部門・拠点・国境を越えた情報流/物流/金流マネジメント」という形で定義させていただきたいと思います。どういうことかといいますと、サプライヤー、すなわち工場を例にとれば部品サービスの供給者、提供者、協力会社といった方々から工場、それから卸の配送センター、小売の配送センター、さらには小売店舗そして最後に顧客と、こういった供給側のサプライヤーから顧客に至るまでの一連の流れ、これが単にモノの流れだけではなく、情報の流れであり、あるいは決裁を含めたお金の流れであり、これら全体の経営管理をここではサプライチェーンマネジメントと定義させていただければと思っております。
 それでは「なぜ、今、サプライチェーンマネジメントなのか」ということでございます。この30年間をみてみますと、製品ライフサイクルの短縮化、あるいは製品そのものが非常に多品種化してきたということは、皆様、ご案内のとおりだと思います。さらに、単なる国内の同業他社間との競争ということだけではなく、まさしくボーダレス、国境を越えた世界レベルでの競争といったものが起きております。したがいまして、右肩上がりで製品の数、種類は増えていくということが起きたわけでございますが、その一方でひとつの製品の寿命、いわゆるライフサイクルは年を追うと共に短くなっていく。さらには顧客からのリピートオーダー、繰り返し同一製品を発注する、その注文も少なくなっていく。あるいは一回あたりの発注量も少量化していくといった動きがますます加速化してきております。すなわち市場の変化が早く、激しくなっていく中で、経営者の方にとってみれば機敏に対応することが非常に優先的に考えるべき経営課題になってきております。
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さて、このように非常に市場の変化が激しい中で、経営コンサルタントあるいは経営の指南書を紐解いて見ますと、いろいろな方がいろいろな事を言っているわけでございますが、例えばある人はこういう事を言います。このように非常に変化が激しい時代ですから、なるべく無駄な在庫を持ちたくない、在庫を削減すべきであるということで、徹底的に在庫を減らすということを優先的に考えるべきである。
 一方で、非常に変化が激しいということですから、お客様が欲しい時にその商品が手元にない。すなわち商品が切れることによって、販売の機会を失ってしまう。これは絶対に避けなければいけない。ということで、販売機会の損失のリスクを出来るだけ最小化するように経営をすべきである、ということを言うわけであります。
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会場入口
 それでは一体どちらのことを優先的に考えればいいのかということで、非常に多くの経営者の方々、あるいは管理職の方々が悩んでいらっしゃるという、まさにジレンマがおきているということでございます。
 さて、そうしますと、こういった相反する2つの概念、在庫削減、在庫保有、この2つを制約条件、すなわち資材、生産設備、労働力、こういった制約条件の中でいかに最適化していくかということがサプライチェーンマネジメントの本質でありまして、特に重要なことはダイナミックに維持することでございます。
 例えば昨年はその販売量に対してこの在庫量が適正であったとしても、はたして今年同じ事がいえるかと申しますと、市場は日々刻々と変化しているわけでございますから、実は昨年正しかったことが今年も同じように当てはまるとは断定できないわけでございます。このような変化にダイナミックに対応していくといったことが、サプライチェーンマネジメントの本質に係わってくる、とこのように考えております。
 このように、教科書的には、なるほどということで、皆さんから共感をいただけるのですが、実際には相当難しいということが、現場レベルでは起きております。ここではいくつかの事例をあげていますが、例えばあるパソコン関連の部品を製造しておりますA社の場合です。ご案内のとおりパソコン、半導体いずれにいたしましても非常に製品ライフサイクルが短い、代表的な商品でございまして、例えば半年で製品価格が5分の1に落ちてしまうといったことも、過去にアメリカ等で起こっております。そういった意味で、販売店側では、とても怖くて流通在庫を抱えられない、2週間前にならないと調達数量を確約できないというような事が、現にアメリカ等では起こっていたわけでございます。
 一方、作る側の論理からいえば、部品調達から製品の納入まで6ヶ月かかるというような状況にあるわけでございます。すなわち、作り手側では、この6ヶ月という期間をひとつの基準にして物事を判断するのに対して、クライアント側(お客様側)では2週間前にしか調達数量を確約してくれない、ということになります。そうしますと、通常はまさに力関係になるわけでございますが、販売店側が強い場合には、ある程度生産者側のリスクによって、見込みで生産をしておくということが通常のやり方ではないかと思います。そうしますと、このデッドストックの巨大なリスクといったものを生産者側がかぶらなければいけない、ということでございまして、ここでいろいろなトラブルがおきてしまうことになります。その処理の仕方いかんによっては、判断のミスによりまして、数十億円ベースの損失もいとも簡単に生じてしまう、というのが現状でございます。すなわち、A社の場合には最適化というのはわかるけれども、何をもって最適化とするのか、あるいはリスクを誰がかぶるのかといったところが、非常に難しいことを指摘されておりました。
 次はB社の場合です。これはあるアメリカの販社の例ですが、ここでは先端的なPOS情報を導入しまして、タイムリーにお客様の購買動向を把握している、そういった販売店でございます。ここではPOS情報をもとに、ある商品の販売ピークが過ぎたといったことが明らかになったわけでございます。当然、販社はそれをタイムリーに判断しまして、不良在庫が積みあがる前に、とにかくこの製品について抑えようと動くわけです。一方、アメリカの場合にはご案内のとおり、生産工程をどんどん海外に出しておりますので、今では多くの企業がメイドインチャイナなり、あるいはその他のアジア諸国で生産をしてアメリカに輸入するといったことが、一般的な仕組みになっております。注文を受けた中国側の工場では年間計画に従って生産を続けていることが多く、もちろん、ひとくちに中国といいましても、工場によって差異はありますが、要は計画経済から出発したご当地では、その年度のスタートにあたって、今年これをいくら作るというような形で、年間計画で生産に必要な調達をアサイン(割り当てる)するというところが、まだまだあります。そういった場合には、契約によって1年間作りつづけるというようなことも、過去には当然あったわけでございます。そうしますと、このケースでは日本の会社が仲介していたのですけれども、現場サイド、生産サイドからは約束した売上は何とか達成しろという形で檄が飛ぶ。売れないのは営業の努力が足りないからだというような檄が飛ぶわけです。一方、先ほど申しましたように需要側に最も近いところでは、すでにピーク、オフピークというのを判断しているわけでございますから、ここでも非常に大きな問題が生じてしまう。これはいったい誰が悪いんだ、というような話になってくる。責任の押し付け合いが生じているということでございます。
 今の2つの例に限らず、一般に言われるのか部分最適と全体最適ということであります。特にここで強調させていただきたいのは、部分最適の積み上げが必ずしも全体最適にはならないということでございます。
 例えばメーカー側の論理で申しますと、これは私どもにもよくコンサルティングの引き合いがまいりますが、設備を保有している工場の場合には、それぞれの工場ごとに生産目標等を設置することが多く、それぞれの工場ごとの採算ラインというのを持っているわけでございます。当然、固定費部分を越えて稼働率が高まらないと、工場の収益がプラスにならないわけですから、とにかく彼らの最適行動といたしましては、設備の稼働率をいかに最大化するか、といったことが行動原理になるわけです。ただ、これは工場側の論理からすればもっともなご議論なのですが、作りすぎによる余剰在庫の増大といったものを発生させる、そういったリスクが内在しております。
 一方、物流部門にとってみれば、これは物流の専業企業の場合もあれば、会社の中の物流部門ということでもよろしいのですが、とにかく倉庫における余剰在庫を、出来るだけ削減するとか、あるいは配送センターへの配達時に出来るだけコストを削減するように行動しろ。例えば大ロット輸送によって、長距離輸送のコスト削減を図るということも当然起こり得ます。それで、例えば昨年に比べまして商品当たりの輸送コストが何円何十銭削減できた、あるいは今年はさらに何十銭削減する、といったことを皆様方は目標に立てるわけでございます。確かに、物流部門についてはコストの削減によって目標を達成したとしても、例えば大ロット輸送を標榜したことによって、過剰に、その次の段階で流通在庫が膨らんでしまう、というようなこともありうるわけでございます。
 同様に小売部門につきましても、とにかく売上の最大化を目指すということで、いかにマーケティングを充実するか、あるいはいかに有能な営業マンの教育徹底を図るかといったことで、売上をあげていこうとされますが、販売機会のロスといったものを出来るだけ抑えることが売上の拡大につながるという行動をとりますと、それが結果として販売機会ロスを大幅に上回る過剰在庫になってしまうということもありうるわけでございます。
 そしてこれら3つを並べてみたときに、果たして個々の部分最適がトータルとしての最適になっているかと申しますと、先ほども申しましたようにイコールにはならないということが、大きなポイントであると考えております。
 このようにいろいろな問題を含んでいるわけでございますが、ただ少なくとも10年前、あるいは5年前と比べて全体最適が出来る環境が確実に整いつつあるというのが私どもの基本的な考え方でございます。それがIT革命です。
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 IT革命ということで政府も含めて、皆さん大合唱されておりますが、何がそんなにすごいのかということにつきまして、ここで大きく3つに分けて整理したいと思います。
 1つがIT革命はネットワークの革命であるということであります。ここでは、既存のネットワークとIT革命、サイバーネットワークという形で整理していますが、まずインターネットに代表されるIT革命といったものは、今までのクローズド、閉鎖的なシステムからオープンなシステムに移行しようとしている。あるいは情報の伝達も片方向だったものを双方向にアクセスできるようにしようとしている。あるいは、個々の単位が今までの組織、あるいは企業という単位から個人個人の単位でのネットワークが進もうとしている。それから今までは集中管理だったのが分散であるということで、概念上整理しますと、かなり今までの論理とは違った新しいものの考え方が、まさにこのIT革命によって非常にポピュラーなものになってきているといったことが、まず第1点であります。
 この情報技術とデジタル化については、これまでと違いまして、情報を提示する、情報を交換するといった方向に、いろいろな機器が出来てくるということでございます。先ほど申しましたように今までであれば、容量不足であり、大容量データを双方向でつなぐといったことは不可能であったわけですが、IT革命によって、こういった先端的な機器、システムが出来てまいりますと、これまで以上に膨大な情報のやり取りをネットワーク上で行うということが可能になるといったことが、IT革命の第1の特徴でございます。
 それから、第2の特徴としまして、IT革命とはデジタル化革命であるということでございます。すなわち今までのアナログからゼロと1に代表されますデジタルに代わっていくことによりまして、例えばブローシャア(企業パンフレット)ですとか、カタログ、社内文書、出版網、広告、こういった、今までは紙ベースでやり取りされていたものが、すべてデジタル情報に置き換わり、先ほどのネットワークにのせることによって、瞬時に多数の人々に配信することが出来る、といったことになるわけでございます。例えばこれまでであれば、文書をそれぞれ社内に回覧しなければいけないといったことが、もうすでに皆様方の企業内でも常識だと思いますが、電子メールによって瞬時に全員に情報を配信することが出来る。あるいは新しい商品情報をお客様に瞬時に配信することが出来る。これは今申しましたように、まさに紙ベースのものをデジタル情報に置き換えることによって、より効率的な情報伝達の方法が確立された、ということが大きな第2の要素であろうと、このように考えております。
 第3点としまして、IT革命はスピードの革命であるということでございます。
 このような形でIT革命が実はサプライチェーンマネジメントを考える上で、非常に重要なポイントになってくるということでございますが、実際に、サプライチェーンマネジメントの推進によって物流システムにどのような影響が起こりうるのかといったことにつきまして、ご説明をさせていただきます。
 繰り返しになりますが、製品の多品種化と製品ライフサイクルの短縮化、これは20年来一貫して起こってきているわけでございます。そして市場の変化が速い、価格競争が激しさを増す、すなわち半年前の価格ではもうモノが売れない、というのが当たり前の社会になってきております。先ほどのパソコン、半導体に限らず、価格対性能比は、ものすごく短期間に向上しております。
 このような変化の中で、先ほども申しましたように、市場の変化に機敏に対応するサプライチェーンマネジメントの高度化が求められております。
 では具体的にどのような話になっているのかということをお示しします。例えばお客様から「来週までに3万個余分に商品が必要なのだが、対応できますか」というようなお話がきたとします。そうしますと、今までの紙ベースでの在庫管理、製造計画では電話での引き合いにすぐに答えられないということで、通常であれば「在庫状況を確認してから、後日改めてご連絡します。」というような応対をして、至急社内で在庫状況あるいは本当に来週までに3万個というような追加注文に対応できるのかといったことを問い合わせるということで、現場では急な変化に対しましてあたふたしてしまうというようなことがこれまで、ごく当たり前だったと思われます。
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 ところが、先ほども申しましたように、それによって販売機会を失うかもしれないと皆さん思うわけでございますので、理想でいえば、お客様からお話がきた時点で、すぐに検索を開始し、計画の再調整、リスケジューリングをその商品のパーツを担当している工場に確認する。その中で工場Bであれば対応が出来る、ただし急な話なので単価が少し高くなりますよ、というような交渉が即決で出来る。これもある意味では少し教科書的な例ではございますが、いずれにいたしましても、自分の生産側の状況について、市場の変化、急な注文の変化に対してどれだけ迅速に、俊敏に回答できるかといったことが、特にこれからの社会では非常に大きな意味を持ってくる、ということであろうかと思われます。
 また、これはある例でございますが、先ほど申しましたようにアメリカの場合には、海外、アジアを中心とした国々に生産工程を移管する、あるいは協力会社に委託をするというのがごく当たり前の状況でございますが、あるオーダーの欠品がでた、遅れがでたといった時に、どこに問題があるのか、物流の部分なのか、あるいは販社側の対応なのか、工場側なのか、あるいは部品を提供しているサプライヤー側に問題があるのか。こういったことにつきましても、予定通りにものが進まない時に、トータルの生産工程、それも自社の範囲だけではなく国境を越えたサプライヤーまで含めた、トータルのチェーンの中で迅速に問題点の洗い出しが出来るといったことを社内イントラネットによって、進捗把握をするといったことが非常に重要になってきております。








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