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(3)チェック項目の解説と関連情報
 「エコドライブ」とは、急発進・急加速・急ブレーキを控える、過積載をしない、経済速度で走る、タイヤの空気圧を適切にするなどによって、走行中の燃料消費量を抑える運転方法です。
 こうした取組は、環境対策の基本となる重要な取組であり、NOXやPMの排出量削減や、燃料費の節減、安全管理や事故防止という面でも効果があります。
 エコドライブを会社として実施し、燃費の改善を図ることによって、CO2を削減することは地球環境保全の観点から重要です。また、エコドライブにより排出ガスや騒音による影響も低減が可能です。
 
■エコドライブの効果
 エコドライブの各取組の効果は、概ね次のとおりです。
 
○荷物の積み降ろしの際には、アイドリング・ストップに心がける
 アイドリング状態(大型車の場合450〜550r.p.m.)にある時の時間あたりの燃料消費量は、そのエンジン排気量の約10%程度です。つまり、排気量10リットルのエンジンならば、1時間のアイドリングで1リットルを消費することになります。
 
○急発進、急加速を控える
 急発進・急加速をすると、必要以上にエンジンの高回転域を使うことになり、通常の加速に比べて著しく燃費が悪化します。
 
○急ブレーキを控える
 ディーゼル車は、走行中にアクセルペダルの踏み込みをやめてエンジンブレーキの状態にすると、エンジンの燃料供給がカットされ無噴霧状態となるので、この状態を多用すると燃費向上につながります。
 フットブレーキのみの使用に比べて、エンジンブレーキを使用して停止した場合、一般的に大型車で1回当たり20〜25ccの燃料を節減できます。
 これを、1日のブレーキ回数を600回としてさらに、年間に換算すると延べ18万回となり、燃料消費量としては3,600〜4,500リットル、金額として23.4〜29.3万円(65円/リットル)の節約となります。
 
○シフトアップは早めに行う
 大型車が5速でなく4速、中・小型車が4速でなく3速というように、一段下のギアで走行したとすると、燃費はそれぞれ20〜40%も悪くなります。
 
○経済速度で走る
 例えば、交通の状況から経済速度が50km/hの時、60km/hに速度を上げた場合、燃料消費量は約10%多くなります。
 
○タイヤの空気圧を適正にする
 空気圧が100kPa(=1.0kgf/cm2)低いと燃費は約1.5%悪化するといわれます。
実験データから得られた空気圧と燃費の関係
空気圧 500kPa
5.0kgf/cm2
700kPa
7.0kgf/cm2
900kPa
9.0kgf/cm2
燃費(指数) 97 100 102
車両:前2軸大型車、荷重:100%積載、速度:80km/h
タイヤ:11R22.5/14PR、平坦路直進定速走行(出典:ブリヂストン)
 
○空ぶかしをしない
 空ぶかし1回あたりの燃料消費量は、

大型車 中型車 小型車
10〜12cc 5〜7cc 3〜5cc

 例えば、燃料1リットルで大型トラックが約3km走行(1ccで3m走行)できると仮定すれば、大型トラックが1回空ぶかしすると、30〜36m走行分の燃料を無駄にしていることになります。
 
出典:(社)全日本トラック協会発行「エコドライブ推進マニュアル」「環境基本行動計画推進マニュアル」
 
■エコドライブによるコスト削減効果
 エコドライブヘの取組の成果は、燃費の向上として表われます。トラックの場合、エコドライブを実施した場合としていない場合とでは、燃費が10%も違うという報告があります。
 仮に、年間の走行距離を10万km、軽油価格を65円/リットル、エコドライブによる燃費向上率を5%、10%、20%と想定し試算してみました。これによって、次のようなコスト削減が見込まれます。
  通常運転 エコドライブによる燃費向上率
5%向上 10%向上 20%向上
リッター当たり走行距離 3.0Km/リットル 3.15Km/リットル 3.3Km/リットル 3.6Km/リットル
年間の燃料消費量 約33キロリットル 約31キロリットル 約30キロリットル 約27キロリットル
年間の燃料費 約217万円 約206万円 約197万円 約181万円
コスト削減額 約11万円 約20万円 約36万円
(注)年間走行距離:10万km、軽油価格:65円/リットルとして算出した。
 
■燃費の向上が国レベルの二酸化炭素削減に寄与する割合(試算例)
 1999年度の日本全体のCO2排出量は、12億2,498万トンで、そのうちの運輸部門の割合は日本全体の排出量の21.2%に相当する2億5,991万トンでした(地球環境保全に関する関係閣僚会議)。
 営業用貨物車のCO2排出量は、運輸部門の約16.7%に相当する4,344万トンとなっています。
 仮に、営業用貨物車の燃費が10%向上した場合、日本全体のCO2排出量の0.36%に相当する434万トンの排出削減が可能となります。
 
【燃費等に関する定量的な目標の設定等】
 会社としてエコドライブを体系的に進めるためには、運転日報等により燃費を把握した上で、会社として燃料使用量の総量を削減するような目標を設定することが望まれます。具体的には、車種別や用途別、ドライバー別などのより小さな単位で、効率を高める目標として、燃費(燃料1リットルあたりの走行距離)について設定するとよいでしょう。
 定量的な目標値を設定するには、燃料使用量の総量や燃費を経年で把握し、その絶対量や増減量、変化率などを、前年比、前年同期比といった形で捉えると良いでしょう。
 ただし、燃費(効率)が向上していても、会社として業務量や総走行距離が伸びれば、会社の燃料使用量全体の削減にはならない場合もありますので、留意が必要です。
 
 定量的な目標として、次のようなものが挙げられます。
 
・燃料使用量の削減:対前年比**%削減、対前年同期比**%削減など
 
 燃料使用量による把握では、効率を把握することが出来ません。仮に比較の対象となる期間(前年など)と比べて、業務量や総走行距離がほぼ一定ならば、エコドライブの結果をあらわすものと見なすこともできます。
 
・燃費改善率の向上:大型車**%改善、小型車**%改善など
・目標燃費:大型車**km/リットル、小型車**km/リットルなど
 
 燃費による把握では、燃料使用量の総量の変化はわかりませんが、業務量や総走行距離の変動に関係なく、効率を把握することができます。
 
■燃費の把握事例
 燃費を継続的に把握し、燃費管理へ活用することが、環境保全と経営改善につながります。次の例に示す運転日報では、燃費の把握に必要な走行距離、軽油及びオイルの給油量の他にも、業務の状況や独自に設定したエコドライブ活動を推進させるための項目に関する記入欄が設けられています。
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■実施計画の策定
 エコドライブヘの取組を継続的に進めるためには、担当、責任、手段、スケジュール等を盛込んだ実施計画を策定して取り組むことが必要です。
 また、エコドライブ推進月間等を設定し、エコドライブの必要性をドライバーに喚起したり、全社的な取組を進めることも重要です。
 
■目標達成状況等の確認・見直し
 目標が達成できなかった場合は、なぜ達成できなかったのかその原因を探り、次回の目標や計画の策定に活かします。
 取組の改善、見直しには、同じ資料をもとに経営層、エコドライブ責任者、ドライバー等がそれぞれの立場で意見を出し合い、工夫することが必要です。このため、エコドライブの結果のデータを次のように整理し、全ての関係者に周知しておきます。
 
○結果の確認
・営業所・支店単位等の実施状況の整理
・車両運行月報等でのデータの整理
・車両別走行距離および使用燃料の対前年比較表の管理
 
○結果の評価と管理
・目標達成状況の解析と評価
・グループ別の燃費管理の実施
 
【エコドライブのための実施体制】
 会社としてエコドライブを推進し、実績を把握するため、エコドライブについての管理者を設置し、管理者による様々な指導を行います。
 具体的な指導としては、次のような事項が考えられます。
 
○運転手・車両毎の実施状況の確認
・毎朝点呼時におけるドライバーごとのエコドライブ目標の確認
・安全エコドライブ運転確認表による確認(毎日)
・デジタコ活用による空ふかし・運行速度の点検
・点呼時のキー抜きロープの装着確認
 
○職場巡回時等におけるチェック
・アイドリング・ストップの添乗指導
・職場巡回時のアイドリング・ストップの指導
・運行管理者による抜き打ちチェック・指導
 
■エコドライブについての教育、指導
 エコドライブについては、ドライバーの日常的な実施を促すための教育や指導が必要です。
 エコドライブに関する従業員への教育・指導としては、研修の実施、情報の提供、従業員の意識を喚起するための各種イベントの実施、表彰制度など、次のような取組が考えられます。
 
○講習会等への参加
・省エネ運転研修受講計画の策定
・省エネ運転体験講習会への参加
・省エネ運転手法研修会の実施
 
○従業員への情報提供
・アイドリングによる燃費・経費の節減情報の伝達
・エコドライブ結果の社内報への掲載
・事業所別取組結果の公表
・省エネ資料・エコドライブ資料の配布
・営業所への啓発資料の提示
 
○従業員の取組への参加
・環境保護ステッカーの作成と車輌への貼付
・店所毎の独自のポスター、標語の作成
・ポスターコンクールの実施
・エコドライブヘの取組に関する提案制度の実施
・イベントやキャンペーンの実施
 
○従業員の取組意欲の向上
・表彰制度(事業所別、個人別表彰制度)
・エコドライブの取組結果を人事考課に算入
 
■従業員教育のための教材
 従業員教育のための教材としては、社団法人全日本トラック協会が作成した「エコドライブ推進マニュアル(トラック運送事業者向け)」や「省エネ運転マニュアル(トラックドライバー向け)」、交通エコロジー・モビリティ財団の「エコドライブ推進10項目」が役立ちます。いずれも各団体で作成、配布しています。
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エコドライブ推進10項目
 交通エコロジー・モビリティ財団では、「エコドライブ推進10項目」として、次の事項を推進しています。
 
車から排出される二酸化炭素の量を極力少なく抑えるために、次の10項目を念頭において運転するように心がけてください。これらは、安全運転にとってもきわめて重要な事柄です。
[1]無用なアイドリングをやめる。(アイドリング・ストップ)
[2]経済速度で走る。
[3]点検・整備をきちんとし、タイヤの空気圧を適正にする。
[4]無駄な荷物は積まない。
[5]無駄な空ぶかしをやめる。
[6]急発進、急加速、急ブレーキをやめ、適切な車間距離をとる。
[7]マニュアル車は早めにシフトアップする。
[8]渋滞などをまねくことから、違法駐車をしない。
[9]エアコンの使用を控えめにする。
[10]マイカーの利用者は、相乗りに努める。
また、公共交通機関が利用可能な場合には、できる限り公共交通機関を利用する。
 
 エコドライブ講習会は、各都道府県トラック協会、トラックメーカーやディーラー等により開催されている実技による講習会です。省エネルギー運転に効果があるといわれており、事業者が計画的にドライバーを参加させている例があります。
 
ステップ1:コース内にて実車(4トン・10トン車の積載車)を走行させ、10cc単位までの燃料消費量を計測し、現状の運転方法について把握します。
ステップ2:算出された燃費データをもとにして、ドライバー自身が省燃費運転についての目標を設定し、他のドライバーとの競争意識を持たせます。
ステップ3:ドライバー個々の測定データに基づき、インストラクターが同乗し現状にあった省燃費運転法を指導します。
ステップ4:研修受講者全員に目標を達成させるとともに、研修修了後も省燃費運転を継続・定着させるためのシステムづくりを目指します。
 
 研修修了者にはエコロジードライバー修了証カードを発行し、研修修了後も継続して省エネ運転をすることにより事故防止にも結びついていきます。
出典:財団法人中部トラック総合研修センター資料より作成
出典:(社)全日本トラック協会発行「環境基本行動計画策定調査報告書」(平成13年2月)
 
■ドライバー別の燃費管理
 ドライバー別の燃費管理の結果をもとに、燃費の悪いドライバーへの注意や実技講習会への参加、燃費の優れたドライバーへの表彰等を行うとよいでしょう。
 
【アイドリングストップの励行】
 アイドリングストップはエコドライブの取組のひとつですが、エコドライブの中でもとくに重要な取組であり、東京都をはじめとして、アイドリングストップの遵守が条例化されています。
 アイドリングストップに関する取組状況をデジタコや運転日報への記載等によって把握し、取り組み状況が改善するように、ドライバーの教育、優良ドライバーの表彰等を行うと良いでしょう。
<アイドリングストップによる1台あたりの燃料消費削減量>
排出ガス量、燃料消費量 10分間あたり
NOx CO2 燃料消費量
ガソリン乗用車 0.05g 90g 0.14リットル
小型トラック(2トン積ディーゼル車) 3.2g 58〜67g 0.08〜0.12リットル
中型トラック(4トン積ディーゼル車) 4.8g 94〜120g 0.13〜0.17リットル
大型トラック(10トン積ディーゼル車) 5.1g 160〜220g 0.22〜0.30リットル
出典資料 東京都 環境庁
出典:東京都、「自動車使用に関する東京ルール」
 
<大型車が毎日30分づつ1年間アイドリングを停止した場合のコスト効果>
大型車の年間消費削減量 約300リットル
年間の燃料削減費 約22,500円
出典:東京都、「自動車使用に関する東京ルール」
出典:(社)全日本トラック協会発行「環境基本行動計画策定調査報告書」(平成13年2月)
 
 エコドライブの実施率を向上するためには、ドライバーの努力とともに、会社として、エコドライブが容易になるような機器等を整備する必要があります。一例として、デジタルタコグラフや、蓄熱マット、エアヒーター、キー抜きロープ、アイドリング・ストップ・システム等があります。
 
デジタル式運行記録計(タコグラフ)
 
 デジタルタコグラフは、従来のタコグラフ(アナログ式)が円形のチャート紙にアナログで記録していた運行情報(時間、距離、速度の法定3要素)を、メモリーカードにデジタルで記録するものです。
 記録された情報は、事務所側機器(読取装置、パソコン、プリンター)で以下に示す項目等について迅速かつ容易に解析できるため、「タイムリーな運転指導による交通事故の防止」「経済走行管理による燃料費の削減」「運転日報や各種帳票の自動出力による業務の大幅合理化」を実現します。
 
○運行速度(時々刻々の車速、平均速度、最高速度など)
○回転数(時々刻々の回転数、オーバー回転数、オーバー回転時間)
○アイドリング時間
○急発進・急加速・急減速回数など
 
出典:(社)全日本トラック協会発行「環境基本行動計画策定調査報告書」(平成13年2月)
 
○蓄熱マット
 寒冷地においてもアイドリングを行わずに仮眠が取ることができる蓄熱式の仮眠用マットです。表面温度は摂氏約43度で、約6時間保温できます(製品例)。
 
○エアヒーター
 車両のエンジンとは別系統で独立して作動させる暖房器具。燃料タンクの軽油などを利用することにより、エンジンを止めた状態でキャビンを暖めることができるため、アイドリングによる燃費の節約や排出ガスや騒音の抑制に効果があります。
 
○キー抜きロープ
 荷物の積み下ろし時などに、確実にエンジンの回転を止めるために、ドライバーとエンジンキーを結ぶロープです。
 
○アイドリングストップ・システム
 アイドリングストップ・システムは、渋滞や信号待ちなどの停車時に、自動的にエンジンを停止し、排出ガスの低減や燃費改善を図り、発進操作時には自動的にエンジンを始動するシステムです。








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