第2章 トラック運送事業におけるグリーン経営推進マニュアルの作成
1.「推進マニュアル」の基本的枠組み
推進マニュアルの検討にあたっては、まず、[1]グリーン経営の意義、[2]自主的な取組を進めるためどのような手法を採用するか、[3]取組結果の評価をどのように活用するかなどについて検討し、「推進マニュアル」の基本的な枠組みを明確にすることが必要である。
以下に、委員会における検討等を踏まえ、「推進マニュアル」の基本的枠組みについての考え方を示す。
(1)グリーン経営の意義
事業活動は基本的には営利活動であり、事業者は事業を進めるにあたってコストを削減し、利益をあげることが要求される。このため、公害対策が中心の時代には、企業にとっては、できるだけ少ない経費で規制を遵守し、公害による被害を生じさせないことが最大の関心事であったといえる。しかしながら、環境問題が深刻化するにつれて、企業が持続的な成長を図るためには、営利性の追求と同時に、環境保全を企業の社会的責任としてとらえ、自主的に事業活動における環境負荷の削減を図っていくことが不可欠となった。
この「推進マニュアル」では、事業活動のなかに環境保全への配慮を組み入れ、営利性の追求と環境配慮の両立を図っていくことを経営のグリーン化と呼ぶことにする。したがって、グリーン経営とは自主的・計画的に環境対策を進めながら、経営面での向上を図っていく経営をいう。具体的には、燃費向上によってコストの削減を図ることができる「エコドライブの推進」や「社用車を含めた低公害車の導入」等は、グリーン経営を推進する代表的な取組みといえる。今後は、事業活動を進めるうえでこうしたグリーン経営の考え方は不可欠である。
グリーン経営は、取組の方針や推進体制を整え、自主的な目標と計画の下での取組、結果の点検・評価、見直しという体系的な取組を進めることが基本となる。
本事業では、そうした観点からトラック輸送事業者の特性を踏まえたグリーン経営の推進マニュアルの検討を行った。
(2)自主的な取組を進めるための手法の選択
1)環境マネジメントシステム(EMS)と環境パフォーマンス評価(EPE)
今日、規模や業種を問わずあらゆる事業者が自主的、積極的に環境問題に取り組むことが社会的に求められている。また、企業が持続的な成長を図るためには事業経営のなかに、環境への配慮を積極的に取入れた仕組みが不可欠である。
環境への取組を事業経営の重要な要素としてマネジメントに取り入れた規格としてはISO14001(環境マネジメントシステム:以下、EMSという)がある。
EMSは、事業活動等による環境への影響を低減するため計画〜実施〜点検・是正〜見直しのシステム(PDCAシステム)を構築し、そのPDCAシステムを繰り返し行うことにより、結果的に環境への負荷の継続的な改善を目指しており、環境保全活動を進めるシステムとして優れたものである。一方、システム構築にはPDCAを進めるための体制や手順について、規格に沿ったシステムの構築、そのための文書の作成、システムの定期的な見直し等が要求され、中小企業にとっては経済的・人的負担が大きいなどの問題がある。
これに対し、ISO14031(環境パフォーマンス評価:以下、EPEという)は環境保全活動の結果である環境負荷(環境パフォーマンス)を把握・評価し、その結果をもとに取組の改善を図る仕組みである。
EPEは、自社の環境パフォーマンスに相応しい指標を選択し、その指標を用いて取組結果を把握・評価し、取組の改善を行うことを目的としている。
EMSに要求される厳格な仕組みや文書を必要としないなどの点でEMSの構築が困難な企業が活用するのに適している。
2)トラック運送事業者に適したシステムの作成
トラック運送業の特徴としては、中小規模の事業者が多いことが挙げられる。「推進マニュアル」は、こうしたトラック運送事業者の特徴をふまえて策定することが必要である。
このため、本事業においてはEPEの考え方を参考にしつつ、次の事項に留意して検討を行った。
・環境問題への取組に対する充分な経営資源の投下が難しい等の実態を考慮し、できるだけ簡易でコンパクトな枠組みとする。
・新たな資料の作成等の手間をできるだけ省き、運行日報等の既存資料を活用するなどによって事業者が取り組みやすい内容とする。
(3)取組状況の評価とその活用
「推進マニュアル」は、トラック運送事業者が環境保全に関する取組を自主的に進めるための仕組みである。
一方、トラック運送業界全体の環境保全に関する取組のレベルアップを進めるためには、目標や評価基準について一定の客観的なレベルを示すことが必要という考え方もある。また、「推進マニュアル」の普及を図っていくためには、事業者の取組の客観的評価や、他業者との比較、認証制度なども考えられ、そうした観点からも客観的な基準が必要との主張もある。
以上の考え方も踏まえ、本事業では、「推進マニュアル」は当面、自主的な取組を念頭において作成したが、定着化を図るための方策のひとつとして、将来的には「推進マニュアル」に基づく取組結果に対する何らかの客観的な評価の仕組みを導入することも考慮しつつ検討を行った。
このため、「推進マニュアル」は次の方針のもとに作成した。
・チェックリストの検討にあたっては、将来、客観的基準を取り入れることに配慮して、項目の選定を行う。
・チェックリストでは、「可能な限り」、「社会的ニーズを踏まえた」等の曖昧な表現は避ける。
・客観的な評価を行うために必要な情報については、「推進マニュアル」の普及を進める中で蓄積を図る。