漢詩初学者講座 伊藤竹外
吟詠家に漢詩のすすめ―(四十四)
伊藤竹外
伊藤竹外先生プロフィール
愛媛漢詩連盟会長
(18吟社、会員200名、毎月指導、添削)
六六庵吟詠会総本部会長(吟歴60年)
財団公認愛媛県吟剣詩舞道総連盟会長
財団法人日本吟剣詩舞振興会理事
平成5年 文部大臣地域文化功労賞
平成8年 財団吟剣詩舞大賞功労賞
著書 豫州漢詩集(編著)
南海風雅集(編著)(2版)
漢詩入門の手引き(10版)他。
一、一朝にして成らず
作詩が上手になるためにはむつかしい法則を学び幾度か呻吟して出来た漢詩を更にきびしい添削を受けて追々と上達するものであります。これは作詩に限らず何事も努力の積み重ねがなくては物の発展が成り立たないということであります。
さて去る十一月六日は群馬国民文化祭漢詩大会が全国から同好の士多数の参加を得て盛大に開催されました。一、一〇五篇から選ばれた特別賞十一、秀作十九、入選作六十八の授賞式典の後、特別賞の詩はスライドに寫し、伴奏の下、吟詠家による披露と、書道吟を以って興趣を盛り上げました。
本大会がかくの如く会場満席の有終の美を収めたのも、文化庁、県、市実行委員会の方々の入念、綿密なる準備、企画、推進に献身的なご努力を賜りましたことに感謝すると共に、正に一朝にして物は成就しないことを痛感した次第であります。
それにつけても吟界の発展は(財)日本吟剣詩舞振興会他、全国的な組織と推進力によって今日の発展がありますが、漢詩界においてもこの組織作りが肝要であります。先般愛媛漢詩連盟結成十五年後、香川、高知、徳島各県に呼びかけて四国漢詩連盟を結成しました。更に全国漢詩連盟への飛躍が期待されるところであります。
来年は鳥取において全国漢詩大会が開催されますが、全国各地よりの投稿と参加を切望し共に漢詩文学の昂揚のためご尽力を賜りますようお願いしておきます。
二、佳作と凡作の違い
右大会当日、審査委員長の石川忠久先生は「漢詩のこころ」と題され入賞作品にふれながら次の如き講演をされました(抜萃)
○佳い作品とは
(イ)詩心のあふれた作品であること。
(ロ)千年以上の伝統をふまえた詩語が洗練され美しい表現であること。
○良くない作品について
(イ)全体が散漫で焦点が定まっていないもの。
(ロ)内容の詩文が重複しているもの。
(ハ)理屈の合わないもの。
(ニ)生の言葉を使った俗な表現。
(ホ)固有名詞を多用しないこと。
右は本稿でもこれまで例を挙げて何度も述べてきたものですが、よくよく玩味して下さい。
三、課題詩「秋日遊○○」について
秋日は初秋、仲秋、晩秋の内の仲秋に当る秋晴れの背景が前提となります。
(結)「九州秘境夜沈沈」というのがありましたが夜景では不適です。又、
「遊○○」の○○は名勝地の固有名詞を可としています。どこにでもある風景では詩が活きません。獨得の名勝地の表現が必要です。
四、平仄を誤らないこと
五、一行の脈絡をよくよく考えること
絶句の起、承、転、結の構成脈絡が大切ですが、それ以前に一行の脈絡が先ず大切です。
など五通りの脈絡を漢詩入門の手引きに書いてありますが、添削するのはこの脈絡が悪いためです。
日本文に読み直して意の通らないものはすべて駄目です。