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漢詩初学者講座   伊藤竹外
吟詠家に漢詩のすすめ―(四十三)
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伊藤竹外
 
伊藤竹外先生プロフィール
愛媛漢詩連盟会長
(16吟社、会員200名、毎月指導、添削)
六六庵吟詠会総本部会長(吟歴60年)
財団公認愛媛県吟剣詩舞道総連盟会長
財団法人日本吟剣詩舞振興会理事
平成5年文部大臣地域文化功労賞
平成8年財団吟剣詩舞大賞功労賞
著書 豫州漢詩集(編著)
   南海風雅集(編著)(2版)
   漢詩入門の手引き(10版)他。
 
一、よくない詩の基準
 九月号でぐんま国民文化祭漢詩大会投稿詩に対するよくない詩の条件を挙げ、選外に落す要領を述べ、前月号ではよい詩の条件を挙げました。作詩家たるもの何が良い詩か、何が良くない詩かを常に考え生涯にかけて追究すべき命題であります。
 従って右に附随して今月も先賢の言葉を挙げて参考に供します。
 南宋の詩人で評論家の嚴滄浪は次の如く述べています。(漢詩入門の手引き、参照)
○詩を習うには見識が第一、目標は高い所におく。目標を低くすればその中ばにも及ばない。
○方向を間違えて駈け出せばそれだけ目的地が遠くなる。
○古物をよせ集めないこと。
○言葉は露骨であってはならない。
○詩意が浅薄ではいけない。
○詩想の脈がむき出しでは困る。
○音韻はたるみすぎないこと。又こせつかないこと。
○生きた句に頼ること。死んだ句にすがってはならない。
○詩の練習に三段楷あり。始めは上手とも下手とも分らない。かなり数を作ってその内、恥しいと気がつくと今度はおじけづいて作詩が困難になる。それを通り越して勘所が分かってくると自在に作詩法にかなってくる。
 以上概念的で必ずしも充分理解できないかも知れませんが、これまで毎月よくない具体例を挙げています内容に照し合わせてみると分りましょう。
 
二、課題「古城觀月」について
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 表題の古城と観月の主語を省いて構成が成り立たないのは当然ですが、古城と観月が不離一体のもので、先ず先に古城を出してから観月を最後に据えるのが大切です。
 高橋藍川先生は「山寺初夏」と「初夏山寺」ではよく似た題ながらそこに表現の仕方が違うと言われました。
 起承句で城と月を出し、転結で蟲声や玉笛を、又自己の感慨を表現したのでは題意に添わないことは明らかです。
 
三、平仄は必ず檢韻のこと
 本稿は初学者講座ですから、初学者の投稿を歓迎しますが、漢詩は平灰誤用は致命傷になります。詩ができたらもう一度辞書を繙き檢韻して下さい。
 
イ、平仄誤用例
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ロ、下三連禁忌
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ハ、四字目の弧平をさける
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四、結句が据らない
 いつも結句の大切なことを述べ、安易な逃げ口上で締めくくらないように注意していますが、今回も構成がまずく凡そ課題にそぐわない結句が随所に見受けられました。
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 安岡瓠堂先生曰く、「結」句は起の完成であると共に新な起の準備である。だから詩の結句はポツンと糸の切れたようなものでなく、尤も餘韻の富んだ力の籠ったものでなければならぬ。取ってつけたようなものは更にわるい。と述べています。(入門の手引き参照)
五、添削実例
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