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漢詩初学者講座   伊藤竹外
吟詠家に漢詩のすすめ―(四十二)
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伊藤竹外
 
伊藤竹外先生プロフィール
愛媛漢詩連盟会長
(16吟社、会員200名、毎月指導、添削)
六六庵吟詠会総本部会長(吟歴60年)
財団公認愛媛県吟剣詩舞道総連盟会長
財団法人日本吟剣詩舞振興会理事
平成5年文部大臣地域文化功労賞
平成8年財団吟剣詩舞大賞功労賞
著書 豫州漢詩集(編著)
   南海風雅集(編著)(2版)
   漢詩入門の手引き(10版)他。
 
一、よい詩の条件
 前月号で群馬全国漢詩大会の投稿詩一、一〇五篇を選考する基準として、先ず「よくない詩」を眞っ先に選外に落す要領を述べましたが、ではよい詩とは何かと言うとこれが案外むつかしいようです。
 高橋藍川先生曰く「よい詩という条件」はいろいろあって一概には言えないが少なくとも
 (一)意脈の貫通
 (ニ)句の風調
 (三)適理の造句(以上「作詞入門の手引き」参照)
 右の三ヶ条が出来ていれば好詩といえようと述べていますが、この基準も簡潔すぎて一般には恐らく理解しがたいでしょう。
 右を付則して解説すれば次の如くになりましょう。
 (一)意脈の貫通
 題意に沿うて起句から結句までの脈絡が一貫していること。特に転句は起承から一転して意想外の表現となり結句でぴたっと決まり起承とよく脈絡してくることが肝要です。
 (ニ)句の風調
 二字二字三字の詩語が適格でよくひびきあい歯切れよく調子が整っていること。句中対や前対格の先人の佳句をくり返し味わい自らも応用する中に漢詩独得のリズム感が理解されますがこの格調の高さを知るのはむつかしい。
 (三)適理の造句
 適理とは句法、章法、措辞の組み合わせが自然で理にかなっていること。造句とは自ら考え作り出す創作の意ですが、何万、何十万の詩語や先賢の詩を踏まえながら独自の表現を創り出すことは至難です。「選んでならない詩語」(76頁)の如きありきたりの常套語を乗り超えるには相当の修練と添削指導を受けて始めてこの意が理解されるものです。
 要は先賢の格調高いよい詩をくり返し味わい自らも応用する内に漢詩独得の良さが追々と理解されるものと思います。
二、課題詩「原爆地書感」について
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 或る投稿者より「本欄の課題は吟詠愛好者にとっては常に現実性を帯びたものが多く、実用的で平成の現代を詠むには過去の古い詩語をいかに現実とマッチさせるかが非常にむつかしいところですが一層勉強したいと思います。」とありました。
 今回の課題は全く過去に経験なく詩語集に見当らずこの悲惨な事実を詠むことは正に至難中の至難ですが、土屋竹雨先生は戦後、長文の「原爆行」の古詩を発表して多くの人に感動を与えました。
 むつかしくとも現代漢詩家は挑戦し努力を傾けるべきものと思います。
三、新語か俗語か
 さて先に挙げた藍川先生の造句ですが、今回の如き原爆の内容で新しく作った次の如き詩語が通用するか、俗語に堕ちるかが問題です。
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 辞書にも出て来ない造語はやはり無理があり異和感があって到底詩語とはなり得ないでしょう。
四、結句がよい詩の条件
 よい詩は必ず結句がよく据っています。常識や観念語や理窟を以って締めくくるものはすべて駄目です。これまでも毎月述べてきましたが、次の如き結句では全体を支えることはできません。
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五、添削実例
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