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〈付録〉
 夏季吟道大学必修
とり舟体操のすすめ
夏季大学ととり舟
 財団の夏季吟道大学は昭和四十四年に始まり、平成十三年度で三十一年目(第二十九期生)を迎えることになり、大学修了者も今年度で三千五百名を越えることになる。
 この大学の修了者が終始一貫して経験している課業が、朝の「点呼」と「とり舟体操」である。そのほかの課業は、三十一年という歳月の流れに従って、講師陣の顔ぶれとともに移り変わってきた。
 「点呼」は、会場として借用する本栖研修所がモーターボート競走選手の養成訓練施設であるところから、訓練生の日課にあわせて、見様見まねで行なうものであるが、「とり舟体操」は夏季吟道大学参加者独自の日課であり、大学修了者全員が経験した、朝の一時のすがすがしい思い出となっている。
とり舟とは
 「とり舟体操」は、和歌を朗詠しながら舟の櫓を漕ぐかたちを繰り返すという運動である。これは、発声練習の点からも健康増進の点からも吟詠家にとって最適であるとして推奨されてきている。
 とり舟に朗詠される和歌には次の五首があげられるが、これらは、覚えやすいことや、ラジオ体操のように早朝に行なわれるところから新鮮であること、日本精神を鼓舞するものであることなどから選ばれたものと思われる。富士山を詠った歌が,二首あるが、本栖湖での夏季大学には、うってつけの和歌である。これ以外の和歌もいろいろうたわれて良いのである。
とり舟和歌
 
 しきしまの 大和心を人問はば
   朝口に匂う山桜花
 
 さしのぼる 朝日のごとくさわやかに
   もたまほしきは心なりけり
 
 浅みどり 澄みわたりたる大空の
   広きを己が心ともがな
 
 晴れてよし 曇りてもよし富士の山
   もとの姿は変らざりけり
 
 何事も 変りはてたる世の中に
   むかしながらの富士の神山
とり舟の音階
 とり舟和歌朗詠の音階は、使用する音域が吟詠の場合、下の「ラ」から、上の「ド」までの十五本を標準とすると、とり舟和歌の場合は、別項の「とり舟和歌朗詠譜」に示すように下の「ラ」から「ラ」までの一オクターブ、すなわち十二本でできているので、三本分低くてすむことになる。
 このことから、とり舟朗詠の音階は、六本で吟じても、吟詠の場合に三本が出る人ならば普通に発声できることになる。女性の六本の音域と、男性の三本の音域が、上下で重なるところでドッキングできたわけであり、男女が同じ音階で無理なく合吟できる好例と言える。
 六本に限らず、五本(男性は二本の音域に入る。)でも、七本(男性は四本の音域に入る。)でも、合吟するグループに合った音階を選べば良いのである。
とり舟の動作
 「とり舟体操の動作と朗詠は、別項に、さし絵と朗詠譜によって示すが、概略を説明すると次のとおりである。
[1]軽く柔軟運動をして深呼吸をしたのち、呼吸を整えて起立します。
[2]指揮者(先導者)の「ヨーイ」の合図で、まず、左足を肩幅ぐらい斜め前に出して開始の体勢をとり、指を軽く握って、「エイッ」のかけ声とともに身体を前に倒しなから腕をそろえて前に出します。
[3]再び、「エイッ」のかけ声とともに身体を後に倒します。このとき前に出していた腕は、櫓を漕ぐように胸元に引き付けます。
[4]続いて、「エイッ」のかけ声とともに身体を前に倒す運動に入ります。この動作を前後四回(かけ声の数で八回)繰り返します。
 また、かけ声には、「ヨイショ」もありますが、腹筋運動や精神集中の点から「エイッ」のかけ声の方が良いと思われます。
[5]ここで和歌の朗詠に入ります。
 和歌を朗詠しながら、これまでと同じ舟漕ぎ運動をします。ですから、いわゆる通常の朗詠というわけにはいきません。自然と、簡潔でリズミカルな朗詠になります。
 まず、舟漕ぎの前後運動に朗詠のリズムをあわすことが大切で、「エイッ」のかけ声の場合も、朗詠のうたい出しにしても、前に身体を出す時に発声を始めることがポイントです。
[6]和歌の三十一個の音節は、五、七、五、七、七の五句に配列されていますが、これを「五」と「七・五」と「七・七」の三つの小節に分けて朗詠します。はじめの一小節を指揮者が朗詠したら、これに続いて全員が同じように朗詠します。また、和歌の最後の二音節(和歌・しきしまのでは、「ばな」)を早く、言い切るように発声します。これはとり舟の和歌朗詠の特徴となっています。一つの和歌が終りましたら、最初のように、「エイッ」のかけ声を前後四回繰り返してから次の和歌の朗詠に入ります。
[7]和歌を三首ほど朗詠しましたら今度は足をかえます。右足を斜め前に出して、同じように最初からかけ声、続いて朗詠にと入ります。なれたら、指揮者は一首ずつ交代で行なうとまた面白いと思います。一首の朗詠には、かけ声も入れて約一分を要します。
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(注)音譜は「[1]しきしまの」によっていますので、ほかの和歌の場合にはアクセントにより多少の変化があります。
とり舟の注意点
 とり舟体操は、主に腰並びに背筋を使い、かけ声や朗詠にあたっては腹筋を大変使う運動なので、慣れるまでにはかなりきつい運動になる。よって、朗詠の回数などで調節をはかり、過度にならないよう、十分注意をしなくてはならない。
とり舟の独習
 とり舟体操は当然、一人でもできる。この場合、和歌を繰り返さずに通して朗詠するよりも、最初の小節「五」と最後の小節「七・七」のみ繰り返し詠うと良いと思われる。
とり舟の効用
 とり舟体操は、健康増進に良いことは当然であるが、身体を動かしながらの発声であるところから、自然に腹筋を使う発声(腹式)になる。また、正確な音程で発声するための腹筋の鍛練には、最適の方法であるといえる。
 
◆とり舟和歌朗詠のテープ(試聴用)を希望する方は、カセットテープに返信用封筒(返信先を記入して切手をはったもの)を添えて財団事務局までお申し込み下さい。録音(ダビング)した上で、ご返送いたします。








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