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基調講演
地域で精神障害者を支える −保健・医療・福祉の垣根を越えて−
国立精神・神経センター
高橋 清久
 
 私の尊敬する先輩に内科の専門医がいる。彼がある有名病院の院長になった。彼は内科の外来が精神科の外来の隣にあることに腹をたてた。精神科の外来の隣では内科の患者さんに気の毒だと言うのだ。間もなく病院の改築計画が出た。彼は精神科は別棟にすると主張した。それから1年、精神科病棟の回診をするようになっていた彼は、外来の内科の場所にはこだわらなくなっていた。そして、改築する病院でも精神科の別棟案は忘れてしまったようであった。この事実はノーマライゼーションの実現には間近に障害者がいることが重要であることを物語っている。

 ノーマライゼーションを実現するためには保健、医療、福祉が、それぞれの役割を分担しながら、連携を保つことが重要であることはいうまでもない。
 今回の講演ではまず地域生活支援のために必要な医療について述べ、ついで地域生活支援のために必要な福祉のあり方を考えてみたい。そして、両者を統合して、ノーマライゼーションに向けて新たに国が構築しようとしているケアマネジメントシステムについて解説する。

 ケアマネジメントは「障害者の地域における生活を支援するために、ケアマネジメントを希望する者の意向を踏まえて、福祉・保健・医療のほか、教育・就労などの幅広いニ一ズと、公私にわたる様々な地域の社会資源の間に立って、複数のサービスを適切に結びつけ調整を図るとともに、総合的かつ継続的なサービスの供給を確保し、さらには社会資源の改善及び開発を推進する援助方法である。(平成12年度 障害者ケアマネジメント体制整備検討委員会)」と定義される。その基本な理念は、1. ノーマライゼーションの実現に向けた支援、2. 自立と社会参加の支援、3. 主体性、自己決定の尊重・支援、4. 地域に於ける生活の個別支援、5. エンパワメント(自己の持つ力を発揮し、伸ばしてゆく)の視点による支援、等である。また、ケアマネジメントには以下の原則が存在している。1. 利用者の人権への配慮、2. 総合的なニーズ把握とニーズに合致した社会資源の検討、3. ケアの目標設定と計画的実施、4. 福祉・保健・医療・教育・就労等の総合的なサービスの実現、5. プライバシーの尊重等々である。

 ケアマネジメントを真に有効なものとするためには、社会資源の充実、有能なケアマネジメント従事者の養成、財政的裏付け等々多くの問題があるが、これからの新しい障害者生活支援のシステムとして期待されるものである。
I. 精神障害者を地域で支えて行くための基本的な事柄
 これからの精神障害者の方々の地域生活支援をすすめる上で、まず大前提になるものがいくつかあります。
1. 偏見や差別を撒廃してノーマライゼーションを実現すること。
2. 障害者の人権を尊重し自己決定を重んじること。
3. 医療・保健・福祉が障害者中心に連携してゆくこと。
II. 地域生活支援のために必要な医療はなにか
 21世紀の新しい精神医療では、地域で精神障害者の方々を支えてゆくために、以下の3つの視点が必要だと思います。
1. 医療技術の向上
 より有効な薬物の開発と薬物治療に種々の治療法を加えた医療技術を標準化し、医療水準を高める事が重要です。特に急性期の適切な対応と、再発防止のための医療技術の向上を図らなければなりません。
2. 医療体制の充実
 医師中心のこれまでの医療を改め、多職種が連携したチーム医療体制を作り、効果的な治療プログラムを策定し、それに沿った治療を進めることが必要です。
3. 医療システムの整備
 365日、24時間対応の救急体制を作り、緊急受診者への対応可能な体制と相談機能を充実させなければなりません。また、受診の相談、応急処置に関するアドバイス、病状判断、診察の要否の判定、受診・受入れ可能な病院の紹介などを含む相談機能を充実する必要が有ります。
 その一方で、外来診療の充実、診療所の増加、病診連携等の地域医療システムを作る事が重要です。
III. 地域生活支援のために必要な福祉のあり方
 近年、我が国の精神障害者福祉は急速に変貌しています。平成5年に障害者基本法が制定され、障害者プランも作成されました。また、平成7年には精神保健福祉法が制定され、福祉がさらに前進しました。しかし、未だに解決すべき多くの問題が残されています。その中で主要なものを以下の7項目にまとめました。これらが21世紀に残された大きな宿題です。
1. 社会資源の充実
 障害者プラン(ノーマライゼーション7ケ年計画)は3万人の退院計画ですが、これは実際のニ一ズには不十分と思われます。第二次の障害者プランが必要です。
2. 支援サービス事業の拡大
 平成14年度からホームヘルプサービス、ショートステイ等のサービス事業がスタートします。しかし、それでもまだまだサービスは不足した状態です。
3. 地域支援システムの構築
 さらに平成15年度からはケアマネジメントが本格的にスタートします。精神障害者のこれからの地域支援の要となるものです。その発展が期待されます。
4. 3障害が同じレベルヘ
 障害者基本法、精神保健福祉法、社会福祉法の制定等が有りましたが、精神障害者の福祉のレベルが身体障害者や知的障害者のそれとはまだまだ較差があります。今後、更に努力を重ねて、精神障害者福祉のレベルが同じレベルに引き上げられる必要があります。
5. 永住型福祉的居住施設の創設
 通過型の居住施設から25-35%の方が再入院してしまうという報告があります。したがって、永住型の居住施設の創設が望まれます。
6. 働く場の拡大
 法定授産施設や福祉工場などの施設数は大きく不足しています。精神障害者の働く場を確保するためにも、保護雇用制度の制定や、外国で行われている短時間就労やペアジョブ制度等の導入も考慮されなくてはなりません。
7. 福祉スタッフの増加、臨床心理士の資格化
 精神障害者を地域で支えてゆくためには人的資源が必要です。平成11年度から精神保健福祉士の国家資格が認められ、これまで国家試験に合格したものの数は9628と1万人近い数になります。この他にも臨床心理の国家資格化も急がねばなりません。
IV 障害者ケアマネジメントについて
1. 障害者ケアマネジメントとは以下のように定義づけられます。
 障害者の地域における生活を支援するために、ケアマネジメントを希望する者の意向を踏まえて、福祉・保健・医療のほか、教育・就労などの幅広いニーズと、公私にわたる様々な地域の社会資源の間に立って、複数のサービスを適切に結びつけ調整を図るとともに、総合的かつ継続的なサービスの供給を確保し、さらには社会資源の改善及び開発を推進する援助方法である。(平成12年度 障害者ケアマネジメント体制整備検討委員会)
2. ケアマネジメントの流れ
 ケアマネジメントはまず利用者の申請から始まります。市町村などの窓口で申請すると、担当者がケアマネジメントが必要かどうかを判定します。必要となるとケアマネジメント従事者は利用者のニーズを評価します。そのニーズに合わせて、ケア計画を立てます。その過程で多種のサービス提供者の参加を得て、ケア会議を開催します。ケア計画が利用者の同意を得て決定された後、実施に移ります。ケアマネジメント従事者は定期的に適切なサービスが提供されているかモニターします。ニーズが満たされてケアマネジメントは終了します。
3. ケアマネジメントの意義
 意義に関して以下のようにまとめる事が出来ます。
1) 障害者の社会復帰をより円滑に行うことが出来る
2) ニーズにあった多面的な援助を提供出来ることと、その責任の所在を明確に出来る
3) サービスの質の向上と経費の削減が可能となり、効率的なサービスが提供出来る
4) 分散化あるいは分断化しているサービスを統合・調整することが出来る
5) 援助の漏れや重複を防ぐことが出来る
6) 支援の有効性を判断し、その判断の信頼性を増すことが出来る
7) フォーマルな支援とインフォーマルな支援の統合をすることが出来る
8) 新たなニーズを把握し、新しいサービスを開発することが出来る
9) 社会資源拡大のための行政への支援をすることが出来る
10) 利用者の権利意識を高めることが出来る
4. ケアマネジメント誕生の歴史
 ケアマネジメントはアメリカで誕生しました。1960年代の脱施設化政策や障害者福祉施策の改革により、地域に多くの障害者が戻りましたが、社会資源が不十分であったため、ホームレスの問題が発生しました。政府がその対策に長年にわたって検討した結果、有効なコミュニテイーサポート・システムとして1984年にケースマネージメントの方法が設定されました。一方、イギリスでも1970年代から精神病床数の削減が行われましたが、地域支援のために1990年に国民保健サービスおよびコミュニテイケア法が成立し、ケアマネジメントが正式の援助法として位置付けられました。
5. 我が国へのケアマネジメントの導入
 平成5年に障害者基本法が制定され、翌年から障害者に係わる介護サービス等に関する検討が始まりました。これと平行して社会福祉構造改革が検討され、福祉サービスを提供する主体が多様となり、福祉サービスの提供形態が措置から契約へ変化し、ケアマネジメント手法を採用するという方針が明確化されました。 平成8年から障害者ケアマネジメント体制整備検討委員会が発足し、平成10年に精神障害者ケアガイドラインが制定されました。平成11年からケアマネジメントの試行的事業が市町村で行われ、平成15年から本格的試行が予定されています。
6. 障害者ケアマネジメントの基本理念
 ケアマネジメントは以下の5項目を基本的な理念としています。すなわち、1) ノーマライゼーションの実現に向けた支援、2) 自立と社会参加の支援、3) 主体性、自己決定の尊重・支援、4) 地域に於ける生活の個別支援、5) エンパワメントの視点による支援です。
6. 障害者ケアマネジメントの原則
 ケアマネジメントは以下の5項目を原則としてサービスを提供します。すなわち、1) 利用者の人権への配慮、2) 総合的なニーズ把握とニーズに合致した社会資源の検討、3) ケアの目標設定と計画的実施、4) 福祉・保健・医療・教育・就労等の総合的なサービスの実現、5) プライパシーの尊重です。
7. 障害者ケアマネジメントの実施体制
 実施主体は一義的に市町村です。市町村は地域生活支援センターに委託することが出来ます。また、社会復帰施設や医療機関でも行うことが出来ます。
8. 今後の課題
 ケアマネジメントは1) 医療と福祉の連携、2) ホームヘルプサービスとの関連、3) 財政的裏付け、4) 社会資源の不足、5) 人材の養成といったような多くの課題を残しています。関係者の一層の努力が必要と思われます。








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