「低高度ロストポジション」 奥貫 博
空の上で、飛行機同志の122.6MHzの交信を聞いていますと、時代の変化を感じることがあります。その最たるものは、現在ポジションの把握でしょう。「こちらJA4XXX現在位置△△場外から330度距離21.3NM、6500FTオントップ。そちらの位置はどこですか。「こちらJA3XXX現在地△△場外から318度22.8NM、雲の下です。予定到着時刻は、○○分です」と言った具合です。他人の無線を傍受して、その内容を、と言った批判はさておき、航法援助施設の無い場所を目的地としてこれだけの情報を即座にやり取りするには、完壁な航法が出来ていなければなりません。とはいえ地図、プロッター、コンピュータ、鉛筆を片手に操縦しながらのアナログ作業は容易なことではありません。地図を広げてプロッターを当てることすら、狭い機内では大変困難な作業になります。
では「一体どうして」と言うまでもなく、答えはGPSによるデジタル航法です。目的とする離着陸場の北緯、東経のデータを登録しておけば、そこにVOR/DME局があるのと同じです。実に便利なものです。
目的地からまだ距離のあるところを高い高度で飛んでいる間はそれで良いのですが、いざ目的地に近づき、視程障害が存在するような場合は、厄介なことになります。高度は下げなければ着陸できませんし、GPSのデジタル情報は、障害物の存在は知らぬ顔です。土地勘があればまだしも、初めての場所で、GPSには目的地のみインプットと言った状況では、いくら何でも、GPSの情報に素直に従う訳には行きません。
GPSは、目的の離着陸場との関係方位、距離、所要時間といった情報を表示し続けますから、この時、場所を聞かれれば、即座に、正確に答えることが出来るでしょう。しかし、計器飛行ではないのですから、地図上で現在地を示すことが出来なければ、この状態はロストポジションと同じようなものです。信頼できる助っ人が同乗していれば、ホールディング等の操縦をお願いして、その間に、地図を調べ、安全な航法計画を立てることができるのですが、そうでない場合は、地図を広げてGPSの示す位置情報を地図上にプロットする作業などは、至難のことです。ましてや、視程障害が伴うとなれば不安感も助成して、空間識失調や、バーティゴといった罠に陥る危険性も高くなるでしょう。
また、1000FT程度の低山は、地図上での識別も極めて困難です。まさか、障害物を全く気にせず、運を天に任せてのGPS進入とはならないでしょうから、大変な苦労を強いられることになります。実際、そのような状況に追いこまれてしまいましたら、それはもう、事故の半歩手前であろうかと思います。
結局のところVFRである限り、地文/推測航法を常に維持し、GPSはあくまでも参考用に利用すると言った基本に戻ることが身のためなのでしょう。そのことは十分わかっているのですが、GPSは、あまりにも便利であるが故に、気が付いてみたら思わぬ落とし穴にはまっていたということになりかねません。くれぐれも注意したいと思います。
このような低山も時には思わぬ障害物となる