3-3 2001年1月に発生した暖水塊
2001年1月に遠州灘沖に発生した暖水塊は,2000年3月発生の場合と同様の過程を経て形成された。2001年1月4日の海況速報(Fig.13a)に見られるように,黒潮流路に現れたくびれが伊豆半島沖で接岸し,1月11日にはくびれは真西に向かう形になり,その先さらに西方熊野灘沖まで暖水舌が延びていた(Fig.13b)。黒潮の流路は,その後東方に去り,伊豆諸島の沿岸水位から判断して1月18日には伊豆海嶺の東側を北上していた。これに伴い,Fig.13cに見られるように,東方に延びた暖水舌から孤立暖水塊が遠州灘沖に発生したと考えられる。しかし,2000年3月の黒潮流路の接近は,東西幅が比較的狭い暖水の北方への侵入によって生じ,黒潮はくびれの東で再び沖に向かって流れていたのに対し, 2001年1月では,黒潮は伊豆半島で岸近くに接近した後,そのまま本州南岸に沿う形で房総半島沖まで流れていた。
Fig.13の海況速報図のそれぞれ対応する海面高度分布をFig.14a,b,cに示す。2000年3月の場合には,すでに見たように,黒潮の伊豆半島接近が狭い幅であったのに対応して,3-1章で論じた北緯32度から33度の間を東西に延びる構造的な低高度帯が,東経139度付近で途切れた形を取ったのに対し,2000年3月の場合には東西に延びる構造的な低高度帯が目立ち,黒潮の北上部を示すような海面高度分布は認め難い。
黒潮の北上部を挟んで,西側が低高度(低温),東側が高高度(高温)であったはずであるが,この遷移が比較的ゆっくりとしていたため,衛星による海面高度分布に明確に現れなかったのであろう。しかし,Fig.14の各図で,北緯34度付近の海面高度分布に注目すると,海況の変化に対応した変化が認められる。すなわち,1月4日のFig.14aで駿河湾の沖合で非常に明確な形で高高度部が生じており,少なくともこの部分に厚い黒潮系暖水の侵入があったことが示されている。1月10日(Fig.14b)になっても高高度部中心の高さは同じであるが,高高度部を取り巻く等水位線の間隔は特に東西方向に広がっている。西方で伊勢湾沖から熊野灘沖まで高高度部が広がっているのは,Fig.13bの西に延びる暖水舌に対応していると考えられるし,東側への広がりは,黒潮北上部の東進が始まっていることを示しているのであろう。1月18日の海況速報(Fig.13c)で,遠州灘沖で孤立暖水塊が発生したことを推定しているが,1月19日の海面高度分布図(Fig.14c)でもこれに対応して高高度部がふたつに分かれる傾向を示している。暖水塊に対応する西側の高高度部の位置がやや東よりであるが,基準のジオイド面の精度からは,その差は議論できないように思われる。しかし,西側の等高線間隔が再び混んだ形になっているのは,暖水舌の暖水が集められて,孤立暖水塊が形成されたことを示すのであろう。東側の高高度部については,黒潮北上部の東進と関係していると考えられるが,3-1章に述べた東西に延びる衛星海面高度分布に現れる構造的な高高度部(岸沿い)および低高度部(北緯33度沿い)の存在から,その特性の議論をするのは難しい。
a
b
c
Fig.13 Oceanographic condition in Sagami bay and around Izu islands, when a warm eddy was observed in January 2001 in Enshu-nada sea along the pacific coast of central Japan.
(from prompt report of MIRC)
a: on January 4,2001, b: on January 11,2001,
c: on January 18,2001.
TOPEX/ERS-2 Analysis Jan 4 2001
a
TOPEX/ERS-2 Analysis Jan 10 2001
b
TOPEX/ERS-2 Analysis Jan 19 2001
c
Fig.14 Distribution of SSDH in Sagami bay and around Izu islands when a warm eddy was observed in January 2001
a: on January 4,2001, b: on January 10,2001,
c: on January 19,2001. (from CCAR's WWW)