2. 海水中POPの超微量分析例
現在、引用可能な日本近海海水中のPOP測定データは非常に限定される。PCBに限れば、1970年代に太平洋で総PCBの鉛直分布の測定を試みた例があるが、分析法が古いため現在のデータとの比較は難しい。1975年より毎年、環境省が毎年行っている「日本近海海洋汚染実態調査」(環境庁水質保全局,1991-1995)では、PCBについて近海表層海水で1984年度以降、内湾水で1989年度以降1998年まで全て検出限界(0.2ng/L)以下と報告をしている。また、環境省では水環境中の内分泌撹乱物質の実態調査として、「外因性内分泌撹乱物質問題への環境庁の対応方針について−環境ホルモン戦略計画SPEED'98−」(環境庁、平成10年5月)にリストアップされた項目のうち、農薬以外の22項目について、河川や湖沼に加え、海域の表層水および底質の調査を行っている。平成11年度の調査結果では、海水は17地点で調査され、PCBはそのうちの16地点で、トリブチルスズは12地点で検出された。また底質は12地点で調査され、PCB、トリブチルスズ、トリフェニルスズ、ノニルフェノール、ベンゾ[a]ピレン、スチレン、ビスフェノールA、フタル酸エステル類、17β−エストラジオール、17α−エストラジオールなどは、ほとんどの地点で検出されている。
深層水に関する数少ない分析例としては、1999年に室戸海洋深層水中の下痢原性細菌、ウイルスの検索および農薬、PCB等の環境汚染物質の測定により、深層水の環境汚染物質に関する清浄性の評価が行われた。その結果、微生物学的検査では、22種の下痢原性細菌および4種の下痢原性ウイルスを検索したが、深層水、表層水ともに検出されなかった。環境放射能測定では、15種のγ線核種分析を行ったが、深層水、表層水との差異はなかった。環境汚染化学物質の分析では、PCBおよびフェノール類は24種類の有機塩素化合物のうち、trans−クロルデンを除き、23物質は定量下限値以下であった。