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第4章 ヨシの生育環境条件に係る分析
 本章では、前章の現地調査結果をもとにヨシの生育と環境条件との関わりについて解析を実施した。
 4.1節では実験計画法の解析手法である分散分析法に基づき、ヨシ茎個体数密度を目的変数とした繰り返しのある2元配置分散分析を行い、生育地区、地盤高の2因子の影響を検討した。次に1元配置分散分析により、地質・底質とヨシ茎個体数密度、草丈、茎径、1m2あたりのヨシの湿・乾重量、ヨシ1本あたりの湿・乾重量との関係を検定し、これにより統計的に有意な関係の得られた指標に関して、ヨシの生育との関係を検討した。
 4.2節では、上記のような統計的検定の手法とは別の視点から、各コドラートの環境要素データの分布傾向や頻度(特定の数値への集中の度合い)を、生育特性値に応じた分類群と対応させつつ定性的に分析し、ヨシの生育との関連の可能性及びその大まかなデータ範囲等について考察した。
4.1 分散分析によるヨシ生育環境条件解析
(1)多元配置分散分析による検討
[1]分散分析について
 分散分析は実験計画法に含まれるデータ解析手法である。実験計画法は、イギリスの遺伝学者・統計学者フィッシャー(R.A.Fisher,1890−1962)が創始した学問で、実験的な研究を効率よく進めるための共通技術である。つまり、実験のための計画に関する方法と、その計画に基づいて得られたデータの解析方法を合わせたものであり、その計画で得られたデータを分析し、推定や検定を行うのが分散分析である。
[2]多元配置への適用
 本調査では、実験計画法に基づき調査地点を選定し、加えて現地調査により詳細な調査地点を決定した。測線別、地盤高別の調査地点を表4.1.1に示す。
表4.1.1 測線別・地盤高別の調査地点
(拡大画面: 65 KB)
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地盤高を調査地点の設定基準とすることで、琵琶湖周辺のヨシ群落を同一の基準で比較できる。この全16測線の中からA−3を除く15測線を選択し、分散分析を行った。A−3は陸域でアレチウリが繁茂し、沖域では再びヨシが生育している不連続な特徴を持つ群落であったため、解析対象から除外した。表4.1.1に示すように、各測線には群落の種類(自生・植栽)、消波施設の有無などの特徴がある。
 調査地区(A〜E地区Pi:5水準)及び地盤高(B.S.L.20〜−130cm Gj:16水準)の2因子による、繰返しありの分散分析(繰返し回数3回)により、それぞれの因子の影響を検討した。目的変数には、当該地盤高ごとの平均ヨシ茎個体数密度(データ数240=5×16×3)を用いた。モデル式を以下に示す。
 
z1124_01.jpg
 ここで、xoは適用データの総平均値であり、pi、gjは因子Pi、Gjの主効果を、(pg)ijkは2因子交互作用を、eijkは残差を示す。このモデル式をもとに分散分析表を作成し、ヨシ茎個体数密度に及ぼす影響要因の検定を行い、さらにそれらの要因の寄与率を算出した。結果を分散分析表(表4.1.2)に示す。
表4.1.2 2元配置分散分析表
  分散和 自由度 分散 分散比 F値 修正分散和 寄与率(%)
0.05 0.01
全変動 401,198 239 1,679       425,668 100.0
P (地区) 155,164 4 38,791 95.1 2.4 3.4 153,533 36.1
G (地盤高) 88,275 15 5,885 14.4 1.7 2.2 82,157 19.3
P×G (側線) 92,505 60 1,542 3.8 1.4 1.6 92,505 21.7
E (残差) 65,254 160 408       97,473 22.9
 
 表より、主効果Pi(地区)、Gj(地盤高)、2因子交互作用(PG)ijkはF検定により1%有意を示した。
 寄与率では、地区の寄与が36.1%と最も大きく、ヨシは生育する地区により生育状況が異なる結果を反映した。次いで、2因子交互作用(PG)ijkが21.7%の寄与を示した。この交互作用は、地区内での測線の影響を示す。同地区においても、自生、植栽の違いや消波施設の有無などにより、生育状況が異なる結果を反映したと言える。また、地盤高も19.3%と高い寄与を示した。生育地盤高によりヨシの生育状況に違いが生じる結果を反映したと言える。残差変動は22.9%と小さく、全体の55.4%を主効果で、77.1%を2因子交互作用を含めた効果で説明することが可能であった。この結果、ヨシの生育には、地区の違い、さらに測線の違いが大きく影響し、加えて生育地盤高の影響も大きいことが示された。









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