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運輸政策研究機構 2002.5NO.3
研究調査報告書要旨 
「都市交通と環境」国際共同研究プロジェクト 
1.事業の目的 
 地球温暖化問題の原因のひとつである温室効果ガス(二酸化炭素)の自動車からの排出量は、世界中で年々増加している。先進各国は様々な対策を試みているが、国際的な取り組みは未だ十分とは言えない状況にある。
 こうした中、平成14年1月には、「交通に関する大臣会合」が世界20ヵ国余の参加により東京で開催され、共同声明においては、「都市における交通と環境」を対象として「政策立案に資する情報、グッドプラクティス、知見を共有することの重要性の認識及び情報等の共有を容易にするための国際共同プロジェクトの実施」が位置づけられた。
 本プロジェクトは、研究者間の国際ネットワークを活用することによって、都市交通施策が環境改善に及ぼす影響の調査、及び、各国における効果的な政策形成を支援するシステムの構築について、平成13〜14年度の2年計画で実施することを目的としている。
 
2.CUTEプロジェクト
 CUTE (The Comparative study on Urban Transport and the Environment)プロジェクト=都市交通と環境に関わる比較研究 
(1)背景と目的
 1997年に開催された地球温暖化防止会議では「京都議定書」が採択され、主要国の各々について温室効果ガスの削減量が決められた。以後、地球温暖化問題に対して国際的な取り組みが徐々に行われ始めているが、交通に関しては世界的枠組みでの取り組みは未だ行われていない。
 温室効果ガスには様々な種類があるが、中でも二酸化炭素は大きな割合を占めており、一方で、交通部門の二酸化炭素排出量は年々増加している。
 こうした中、先進各国が互いに協力体制を築き、開発途上国も対象として実態分析及び削減対策に取り組むことは、地球環境問題に対し効率的なアプローチになり得る。先進国の交通に起因した局地環境改善の経験のレビューは、温室効果ガスの排出削減と途上国の局地環境改善に資するものである。
 以上より、下記を目的として本プロジェクトを実施した。
[1] 研究と政策開発のための交通と環境に関する、都市及び国レベルの関連データ収集・整理・比較
[2] 参加諸国における経験に基づく政策形成へのインプリケーションの整理
[3] 今後のさらなる研究・開発に向けた専門家ネットワークの形成
[4] 国際的レベルにおける政策調整の検討
[5] 世界の市民に向けて問題の深刻さを公表
[6] 研究と実践のための知識べ一スの構築
[7] 交通と環境のための資金の理論的根拠の支援 
(2)研究対象
 対象交通機関: 自動車を中心とした都市内交通機関
 対象環境   : 地球環境及び局地大気汚染
 対象国     : 先進国及び途上国
(3)比較対象都市
 フランス  リヨン
 ドイツ   カールスルーエ
 日本    名古屋、仙台
 イギリス  リーズ
 アメリカ  ロサンジェルス
 
3.国際比較分析のためのデータ収集
 本プロジェクトでは、交通に起因する環境問題に関する国際比較を進め、それらをまとめるためのデータ収集を目的に以下のアンケート調査を実施した。
[1] 各国が保有する基礎的データの整備状況
[2] 各国で実施された交通施策の状況とグッドプラクティス
[3] 交通に起因する環境問題の歴史的経緯
(1)質問票
 質問票は以下の4つに分かれ、順に質問内容が詳細になるような段階的な設計とした。
QI 〔全体把握〕 交通起源の排出汚染状況と問題全体の俯瞰
QII 〔状況把握〕 焦点を環境汚染の部分に絞って排出・汚染の現況と今後の動向の評価と比較
QIII 〔因果概括〕 排出・汚染の原因となる要素や対策実施状況の概括を行い、環境影響の発生メカニズムを明らかにする
QIV 〔詳細検討〕 原因・対策の詳細チェック及びクリティカルパスの把握を行う
 
 これらにより、膨大な数のジャンルに及ぶ環境対策の実施状況を網羅的に確認し、弱い部分を見つけ出すことで、各国・都市に必要な対策を提案することを目指した。 
(2)詳細項目
 質問票に記載された詳細な質問項目は以下のとおりである。
・交通部門からの二酸化炭素排出量の傾向
・交通量の傾向
・環境に関わる交通政策の傾向
・京都議定書に対する特別な対策
・環境改善のための交通施策評価手法
・各排出物質に対する環境悪化に関する評価
・GDPの何%が交通に関する環境保全に分配されているか
・交通部門からの二酸化炭素排出量の推定方法
・推定モデルに関連のある排出ガスの要素
・大気汚染ガスの計測方法
・ガソリン販売量の推移
・軽油販売量の推移
・ガソリン価格の推移
・軽油価格の推移
・ガソリン中に含む鉛削減施策
・燃料消費削減に関する規制や施策の概要
・燃費効率の改善施策
・大気基準の概要
・低公害自動車の利用を推進する施策
・車検制度
・環境改善のための道路改良施策
・環境改善のためのTDM
・ITSの実施状況
・環境改善のために導入されたバスシステム
・環境改善のために導入されたLRTシステム
・交通ターミナル機能の改善
・交通量制限等の施策
・自動車の取得制限や保有制限
・駐車制限
・効率的な自動車利用に関する施策
・都市拡大抑制施策
・自動車所有者数の推移
・自家用車台数の推移
・車両属性別の自動車保有台数
・自動車税制(取得段階、保有段階、利用段階)
ほか
 
4.都市環境診断システムの構築
 既存のエキスパートシステム(ECOTRA)を活用し、これを質問票に対応した形に再構築することにより、交通に起因する都市交通の調査・診断・対策立案のためのシステムを構築する。
(1)ECOTRAシステムの概要
〈経緯〉
 平成5〜10年度、旧運輸省が実施した「開発途上国交通公害対策協力計画」(エコ・トランスポート協力計画)をサポートするため、「日本における交通公害の経験を開発途上国にどのように適用するか」を調査目的として、プロジェクトが実施された。
 
〈目的〉
 対象都市における交通公害の現状を把握し、対策メニューをシステマティックに提示すること。
 
〈基本思想〉
 「人間ドック」の方法論を適用し、問診、検査、診断、処方、(治療)の流れとなるよう設計した。また、想定利用者は、交通公害対策に経験の浅い都市交通専門家の使用を前提とした。このため、形式は、GUI(Graphical User Interface)型エキスパートシステムとし、蓄積したデータをもとに対話型で進むシステムとした。
 
〈調査・診断プロセス〉
 本プロジェクトは、途上国大都市を対象としているため、交通公害の現状に関するモニタリングと現状分析の方法が重要である。そこで、現地調査による経験を踏まえ、簡便な標準測定方法を用いた。 
(2)システムの再構築
〈システム活用の考え方〉
 ECOTRAシステムのコンセプトである「人間ドック」の方法論などは本プロジェクトが扱う問題に対しても非常に有効である。このため、ECOTRAシステムの考え方をべ一スとした、先進国大都市の大気汚染・温暖化ガス排出状況調査と対策立案に関する国際的共通プラットフォーム(発展型ECOTRAシステム)を、インターネット上に構築する。
 
〈システム再構築の方針〉
 ECOTRAシステムは、途上国大都市の環境問題として大気汚染を扱い、都市内での政策実施優先度を明らかにして実施メニューを提案するものであった。このため、発展型の同システムでは地球規模環境問題への対応や、都市間での施策優先度比較といった用途に適用可能なように各項目を再構築する。
 
5.交通環境改善のための資金
 本プロジェクトでは、交通分野における地球環境問題の解決策の一つとして「交通環境改善基金」(Fund for Environmentally Sustainable Transportinitiative, FEST)という形で、環境と交通のために必要な資金について検討した。
(1)国際的合意の重要性
 環境資源は地球規模で共有される公共財の性格を有するため、市場や単独の国家の法律では、環境資源の価値を価格へ十分に反映することができない。環境資源の保護は、国際的な合意が成立した場合においてのみ可能となる。
(2)国際的システムの重要性
 一部の先進国では、低公害車等の技術開発などが進んでいるため、投入費用に対して環境負荷削減の大きな効果は期待できない。一方、途上国では環境改善の余地が多く残されていると共に、今後の都市交通需要の増大が確実である。このため、先進国に比較し、投入費用に対し多くの環境負荷抑制が期待される。
 また、途上国にとっては、地球規模の環境問題は自国の開発利益には直接結びつかないことから、環境負荷削減施策を促進するためには費用の支援が必要である。
 以上は、途上国の環境負荷削減対策に資金を使用する国際的なシステムを設立することによって実現が可能となる。
(3)基金の重要性
 国際的なシステムは、以下の点から基金のような形で運営することが適切である。
・地球規模で集めた資金の受け皿
・当該資金を交通環境改善のための特定財源として用いる必要性
・環境対策は長期にわたるため長期間の収支状況等を考慮に入れた運営
(4)資金の調達方法
 国際的な基金を新たに設立する場合、資金調達方法は、各国政府による義務的拠出金、各国政府による任意拠出金、寄付金の三案が考えられる。
 本基金を汚染者負担原則に基づき設立されたものとすると、各国政府による義務的拠出金とするのが適切である。しかし、義務的な資金提供の仕組みを構築するのは非常に困難であることを踏まえると、各国政府による任意拠出金とすることも考えられる。また、寄付金の場合は、集め方、各国への配分方法等の工夫によって、相当規模の資金を集めることが可能と思われる。加えて、既存資金の活用も考えられる。
 
6.今後の課題 
 平成14年度調査においては、国際委員の協力を得ながら、以下の課題を実施する予定である。
[1] 質問票の回答に基づいた、環境と交通に関する知識データベースの構築
[2] システムの再構築の実施
[3] グッドプラクティクスの提案 
 
報告書名:
「「都市交通と環境」国際共同研究プロジェクト」
(資料番号130043)
本文:A4版130頁
報告書目次:
1章  CUTEプロジェクトの概要
 1. 1  背景と目的
 1. 2  研究対象
 1. 3  研究グループと比較対象都市 
 
2章  国際比較分析のための調査プラットフォームの構築
2. 1  国際比較分析のためのデータ収集
2. 2  収集データに基づいた環境汚染状況の国際比較
 2. 2. 1  都市間比較(名古屋・仙台)
 2. 2. 2  国際比較(仏・独・日・英・米)
 
2. 3 データ収集結果の詳細
 2. 3. 1  質問票I(日本、名古屋、仙台)
 2. 3. 2  質問票II(日本、名古屋、仙台)
 2. 3. 3  質問票III(日本、名古屋、仙台)
 2. 3. 4  海外の結果
 
2. 4  交通に起因する都市環境の調査・診断・対策立案のためのシステム構築
 2. 4. 1  既存エキスパートシステム(ECOTRA)の概要
 2. 4. 2  システムの再構築の検討
 2. 4. 3  システムの再構築と質問票の関係
 
3章  交通環境改善のための資金の検討
 3. 1  環境と交通のための資金の重要性
 3. 2  具体的検討
 3. 3  活動実績(世界交通学会)
 3. 4  財源に関する一考察:環境税
 
4章  まとめ 
 
【担当者名:神子信之、市原道男】
【本調査は、日本財団の助成を受けて実施したものである。】








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