日本財団 図書館


【要 旨】
辻 守康、下田健治
 
 本年度は11ヵ月に及ぶ給料未払いのため、5月に反政府軍の反乱があり、特にバンギー市内での治安が悪いとの情報を高倍大使より戴いたので、8月に出かける予定であったが、延期していたところ11月中旬になって大使から政情がやや落ち着いているので現地調査に来ては如何かと云う連絡を戴いたので、12月に期間も短縮して辻、下田の二人が出かけて調査を行った。中央アフリカ共和国では政治情勢が如何に変わろうとも笹川記念保健協力財団による調査が期待されているとのことで、今回も空港には高倍大使ご自身が迎えに来て下さり、また大島派遣員とカウンターパートであるバンギー大学医学部眼科学教室主任兼バンギー中央病院眼科部長のヤヤ医師も保健省の車とともに迎えに来ており、保健省の第一地方医務局長のヤシポ医師は日曜なのに出勤し、局長室で我々を待っていた。
 今回は治安が余り良くないと云うことでウワンゴ診療所の検診を中止し、ケラ・セルジャン村およびバンザ村での血液検査、糞便検査と治療を行った。
 本年度の受診者はケラ・セルジャン村157名、バンザ村131名の計288名である。厚層塗抹法とMGL法による検便の結果、ケラ・セルジャン村では蠕虫卵の陽性率は25.7%と昨年度の60.8%より低く、鉤虫卵陽性も21.3%、住血吸虫卵陽性は5.1%と低下していた。原虫嚢子陽性は64.1%と昨年度の63.3%と殆ど変わらず、その中赤痢アメーバ陽性が17.6%、ランブル鞭毛虫陽性が14.5%であった。バンザ村でも蠕虫卵の陽性率は18.7%と昨年度の50.8%に比して減少しており、鉤虫卵陽性が16.3%、住血吸虫卵陽性が1.5%であった。また原虫嚢子陽性は85.1%と昨年度の42.9%よりは高く、その中赤痢アメーバ陽性が25.4%、ランブル鞭毛虫陽性が17.5%であった。一方血液検査によるミクロフィラリア陽性率はケラ・セルジャン村では7.3%で、陽性者中常在糸状虫陽性とロア糸状虫陽性がそれぞれ45.5%と63.6%であり、バンザ村では42.3%がミクロフィラリア陽性で昨年度の24.7%よりは高く、陽性者中常在糸状虫が92.7%、ロア糸状虫が25.5%検出されている。またマラリア原虫の陽性率はケラ・セルジャン村では58.3%、バンザ村では64.6%であり、両村とも四日熱マラリア原虫の方が高率であった。
 また今年度全検査を受診した人はケラ・セルジャン村で126名、バンザ村で114名であり、その陽性率はそれぞれ88.1%と98.2%であった。またケラ・セルジャン村での1人平均感染寄生虫の種類は2.81種類と昨年度の2.98種類および一昨年度の3.00種類よりは少なくなっていたが、バンザ村での1人平均感染寄生虫種類は3.35種類と昨年度の2.87種類よりは多かった。
 寄生虫対策に関しては、前記のごとくケラ・セルジャン村では新しい受診者が増加しているにも拘わらず、寄生虫の陽性率が減少しているのは長年にわたる住民に対する衛生教育により村民の一人一人が自分の健康は自分で守ると云う意識を持つようになった故ではないかと自負している。一方バンザ村で陽性率が増加しているのはジャングル内の村なので媒介蚊対策が困難であることと例年と異なり乾季に検診を行ったこと、および首都バンギーに約100kmと比較的近く人の交流が多いためではないかと思われる。しかし両村とも看護士や衛生士が我々の調査に従事しているお陰で、調査団の帰国後もその対策に努力をしてくれているなどと、毎年継続されている笹川記念保健協力財団の寄生虫対策調査に村民から感謝された。
 今回の調査でも例年のごとく遠心器、顕微鏡、注射器、スライドグラスなどの検査器材やコンバントリンなど日本から持参した21品目および現地で購入した薬剤12品目の供与を行った。今回は現地に着いてからバンギー大学の医学部長から突然学位審査を辻が頼まれ、一週間の滞在の間にその審査に従事した。学位授与式の折りに出席されたパタセ大統領から挨拶の中で笹川記念保健協力財団に対する謝辞が述べられ、レセプションの時に辻に教育功労勲章オフィシエ章が授与された。その際にも国務大臣より長年にわたる笹川記念保健協力財団の仕事が紹介され、謝意が述べられた。直接話合いをした保健省幹部や現地住民の人々からも笹川記念保健協力財団に対し、深い感謝の意が伝えられた.また高倍大使を始め日本大使館の青山医務官などからも感謝されたことをご報告したい。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION