I. 国際環境
A. 米国の置かれた立場
依然として唯一の軍事超大国
国際関係および、国際的システムにおける米国の立場は、ブッシュ、クリントン両大統領の就任時を隔てている八年の間に大きく変化した。一九九三年一月時点と同様、米国は今も、軍事的にも外交的にも世界で唯一の超大国である。純粋に軍事的な能力で言えば、米国と残りの世界との戦争遂行能力の格差は恐らく拡大した。例えば、バルカン半島での北大西洋条約機構(NATO)の軍事作戦は、一九九一年当時に比べ、欧州同盟国が米国の軍事施設・機材への依存度を増していることを白日の下にさらした。
イラクや朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)といった一部地域の厄介者を別にすれば、米国の軍事力にとって重大な挑戦となるような勢力は現れていない。ロシアは経済的に弱く、経済改革を進めるつもりもないように思える。二〇〇一年において、中国だけが一九九三年時点に比べ、米国の国益に重大かつ持続的な挑戦を仕掛ける決意をさらに強め、しかもそうできる力を増している国のようだ。ただ、中国は依然として、軍事的には米国に比べれば子供同然と言える。実際、米国防計画立案者は一九九〇年代を通じて絶えず、軍事支出水準の維持を正当化するため、ありもしない敵をつくり出そうとしていると、一部から批判されてきた。
一般的に言えば、米国は一九九〇年代、潜在的な敵対国家が何を意図しているかという点からではなく、大量破壊兵器の拡散やテロ組織などの非国家勢力による攻撃計画という点から、国家安全保障への脅威を考える傾向が強まってきた。新たなQDR報告が強調しているように、ニューヨークとワシントンを狙った九月一一日のテロ攻撃によって、こうした傾向は明らかに一段と強まるだろう。
経済的には振り出しに?
クリントン、ブッシュの両大統領が直面した経済状況も非常に違っていた。一九九三年一月、米国は二〇年間続いた不安定な経済成長、低い生産性の伸び、工業競争力の弱体化、金融管理の深刻な過ちという殻から、ようやく抜け出そうとしていた。多くの米国人は、米国は世界的な経済覇権を日本あるいは、恐らくは欧州連合(EU)に譲り渡しつつあると感じていた。EUは単一市場実現に向けて急速に歩みを進めていた。そのほかで世界の経済的原動力となるのは、主として開発途上のアジアの新興市場諸国だと思われていた。クリントン大統領が一九九五年に述べたように、「(米国の)経済成長には厳しい限界がある。われわれの経済は成熟しており、人口の伸びも緩慢だ」という状況だった。
一方、二〇〇一年一月には、米国は一〇年近くにわたった力強い経済成長、生産性の急上昇、急速な技術革新、工業競争力の劇的回復、財政黒字の増大という時代を終えようとしていた。二〇〇〇年末に始まった景気減速にもかかわらず、米国の経済見通しは依然として、世界のいかなる主要地域よりも明るいように見える。実際、ブッシュ政権の最初の数カ月、あるいは恐らくは数年の間、世界経済の最も重要な現実は、中国を別とすれば、先進国においても途上国においても、活発な経済成長はどこにも見られないということである。