刊行に寄せて
冷戦終了後の世界において、日米二国とその同盟は大きな存在だった。日米合計の軍事力と経済力は世界の中心に位置するパワーであり、さらに両国には大きな知的創造力と文化創造力があった。また、世界秩序について考え、責任を負う姿勢もあった。ところで、おもしろいことに両国のパワーの内訳を見ると、両国は非対称で、中でも軍事力には圧倒的な差があった。今回はその軍事力を巡って、日本と米国のそれぞれの国益と相互関係、および世界のパワーバランスとの関係について考えてみようというのが趣旨である。
ブッシュ政権誕生、あるいは中国の台頭、あるいは地域紛争の増大、あるいは宗教紛争・テロ激化、あるいは日本の経済力の頓挫等、いろいろな新しい要請が次から次へと出てくる中で、日本も米国もそれぞれの軍事力をいかなる原理に基づいて行使すべきか、米国の国益と日本の国益がどこまで合致するかが大きな検討課題になってきた。こうした問題に関する新しい研究に最初に取り組んだのは米国で、チームB、アーミテージ報告書等々がまとまった形で発表された。そこへ同時多発テロがあって、にわかに日本でも関心が高まっている。ようやく日本にもこの問題について発言する準備がかなり進んだようだ。この機をとらえて、双方の対話は急を要することであると思って、このような討論の機会を設けることとした。幸いモース氏はこの方面の権威であり、事情通であり、また私とはウイルソン大統領記念研究所以来長い付き合いがあって、双方の深い理解と信頼の元にこうしたプロジェクトが実現に向けて円滑に進んでいる。とりあえず先ず両方のぺーパーが揃い、翻訳も完了したので、ここで日本の読者にお目に掛ける次第である。なお、モース氏は全体を企画し、さらに素晴らしい序文を頂戴した。厚く御礼申し上げる。この本を土台にして実り多き討論会が開かれることを期待する。
なお、タイトルについて、モース氏は「日本が軍事力を世界へ前向きの目的に使う」ことが日本にとって「無条件勝利」に到達することが出来る、という意味でこの書名を提案された。私見を言えば、日本のためを思っての配慮ではあるが、米国はそのように「無条件勝利」を目指すが、日本は相違する。日本の考える着地点は現実的な共存共栄で、「無条件勝利」は日本人には新鮮な視点と思われるのであえて書名とした。
日下公人