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神戸光の村授産学園の概要
1. 目的
(1) 就職できなかった卒業生が就職を目指す教育施設
 昭和50年に入ると低落が始まる。養護学校卒業生の就職率は、昭和54年義務化されても歯止めがかからず21世紀に入った今では20%を割る学校が増えています。日本の知的障害教育と福祉とは重大な局面に立っているのです。
 原因はさまざまであるが、1番は過度の保護と依存の悪循環が、発達の遅滞・歪を生み、問題を重度化させるが、そのスピードが学校の対応よりも速かったところにあるのではないかと思います。
 光の村ではこれを「生活による崩壊現象」ととらえ、「依存生活が壊した者を自立する生活で改める」ことにしました。この24時間教育の全寮制の学校は強い。あわせて耐性の弱い依存体質を、ねばり強い独立者の体質に変える「体育」と、「仕事」への参加・集中・持続の指導を気長く続けて、就職率を徐々に向上させてきました。
 光の村はこの方式で、就職できなかった養護学校卒業生の再教育施設(千葉光の村授産園・昭和63年開所)を作り、平均40%の就職率をあげていますが、神戸光の村授産学園はその西日本版です。
(2) 重度障害の人たちを自活へと進める教育施設
 今までは生涯援護を受けるのが当たり前とさせていた知的・情緒的に重度の人たちも、持久力が伸びると、それにともなって集中力も持続力も育つことがわかりました。そこで平成8年度から「せんべい作り」の職能教室を開いて指導を続けていますが、歩き、走り、泳ぐという粗大運動に比べると、手先を細かく使う繊細な仕事がより難しいのです。それは素質の問題よりも「できなくて当たり前、しなくて当たり前、してやって当たり前」という過去の暮らしにあることもわかりました。教育次第で自活へと行き着くことも夢ではないのです。
 これから、神戸市からももっと子供を光の村の学校に受け入れて、中・高・専と基礎教育を行い、この施設で仕上げ教育をする、というようになればよいと考えています。
(3) 社会に生きる生活力の基礎を作る全寮制の教育
 昭和50年に男女の教師が親代わりになり、校内の難しい子供たちを10人選んで家庭的な寮を作り、集団化を目ざす、生活療法の実験を始めました。我慢することに慣れていた貧しい時代の子供たちは、暮らしの方も当たり前に近いので成長する程に群れに近くなり、群れに加わり、群れを作る存在に育っていきましたが、繁栄時代の子供たちには、群れに入れない者が多くなって行きます。
 問題も、自閉症、病的肥満症、心身症、癇癪、精神病質とまことに多様です。この子らを無理なく自然に溶け合い、支え合う暮らしへ持ち込むのは骨が折れますが、薪で風呂を沸かし、ままごとのような食事作り「なるべく助け合い、なるべく自力で」という暮らし、日曜日の山歩きを1年、2年と続けているうちに、次第に仲間や状況に合わせる暮らしがまとまってきました。
 こうして当たり前の暮らし方が身に付くと、見かた、考えかた、行いかたも自然と当たり前になり、そこから新しい自分の創造が始まります。繁栄時代の過保護にかぶれた子供たちも、障害は障害として持っていても、もう1人新しい人柄を出していくのです。当たり前に生きて、より善い自分を創っていくという生命本来の生き方を回復するのです。私たちは青年期の1時期こうした集団生活を持つことは意義があると考えています。特に知的障害者の仕事の教育は、生活指導がともなわなくては成功しないでしょう。
2. 開設するコースと定員
(1) 教育授産コース(15〜16名)
 養護学校卒業生で就職できなかった者を毎年3〜4名入所させて、4年間を原則とする指導を行い就職へと進める。
(2) 生活授産コース(14〜15名)
 重い障害を持つ養護学校卒業生で、「参加・集中・持続」の基礎指導を受けている者を毎年3〜4名受け入れて、自活に至る職能訓練を行う。期間は4年を原則とする。
3. 教育授産コースの職能訓練
 「木工」による作業療法・技能訓練
 知的障害者に広く通じる技能を、1つの職種で育てようとすれば「木工」が最適である。幼児の教具・遊具・家具、生活用具、民芸品、ガーデニング用具等を作る中で、先ず機能訓練、作業療法を行う。
 就職する能力がありながら、未就職で卒業する者はおしなべて不器用で指が固い。こうした子供には情緒不安定なものが多い。手の発達と情緒の発達は深く関係しているのである。
 木工みしん鋸、木工ろくろ等はこうした治療教育として効果がある。
 知的障害者の適職群に広く通用する技能を一職種で育てようとすれば、「木工」が最適である。幼児の教具・遊具を作る中で機能訓練・作業療法を行い、不器用さを日々の作業の自己評価から日当の計算も入所者も参加して行い、自己評価も確かにする。
 更に「正確で機敏な仕事への取り組み、まじめで素直で懸命な作業態度、職業を持つ者としての自覚(生活的・社会的)」を育てる等、教育と実益の一致を考える。
4. 生活授産コースの職能訓練
(1) せんべい製造における仕上げ作業の指導
 少ない工程ではあるが、指腹でのつまみ・指先でのつまみ・手のひらでの押し等手先の器用さの基本動作がこの中にある。この訓練が進めながら報酬が支給できるような生産を旺盛に行う。
(2) せんべいの量産体制に参加する基礎能力の指導
 せんべいの仕上げ作業が確かに身につけば、「量産体制への参加」の指導にはいる。実習場へ量産型の中級機を導入しているので、製造工程の要所要所を正確にこなす専門職に育てる。卒業後は上級機へと進み、その働きで自活する。
5. 生活教育・作業療法としての作業種目
(1) 竹炭製造
 地域の清流を守り、浄化するための竹炭を製造し、浄化装置を作って埋設する。地域の子供たちにも呼びかけて水棲動物を増やし、ホタル・メダカを養殖・放流し、神戸市の新名所にする。竹炭の材料は、地区が動物園のパンダの飼料をとった残りの幹の部分を使う。将来販売することを考えて商標登録の手続きを取った。「パンダの竹炭・たけずみ」である。
(2) 陶芸
 敷地内の粘土で自分の食器・寮の装置品・椀・皿・箸置きを焼く。
(第2期計画)
(3) 製パン(石窯クラブ)
 石がまを作ってパンを焼く、燻製食品も作る。目的は「主食を作る」という生活教育、「手の機能訓練」という作業療法、地域のご婦人といっしょにパンや燻製食品作りをするという交流教育、こうした多目的のパン作りをする。
(第2期計画)
6. 卒業後の進路
(1) 教育授産コースの者の進路
 極力100%就職を目指すが、不可能な場合は光の村の自活工房(神戸以外の場合もある)を中心に自活へと進める中で就職への指導を続ける。
(2) 生活授産コースの者の進路−4年後の受け皿
 「神戸光の村自活工房−当初は製菓部門。建物は既に神戸市内で用意しており、製品についても研究を続けている。紙器製造工場も作る計画がある。授産施設の分場として運営する。学校が続く限り就職できない卒業生は出る。このため京阪神山陽の工業地帯で適職を求め、下請けあるいは自主生産の工場を作る。綾部市に栗園を開いているが、黒豆・大納言等を栽培する。(石川県では紙箱工場が盛業中であり、土佐市では未利用資源の竹材で箸、竹炭、堆肥、緑肥を作り、牧場では乳菓子、乳製品を作るために工場整備を進めている。東京都江戸川区でも通所授産施設(パン・紙器製造)が平成16年から開所の予定。こうして適材適所の卒業生対策が進む)。
7. 地域交流スペースとその目的
(1) 地域の子供たちとの交流
 「淡河川をメダカ・ホタルの名所にする。」竹炭で浄化装置を作り、川の適所に埋設する仕事に参加する。水質を調べ、メダカ・ホタルの幼虫を交流スペースで養殖して放流する。施設で各自が養殖装置を作って持ち帰り、家族ぐるみで川を守り、新しい川を作る活動に参加する。
(2) 地域のご婦人との交流
 「石がま」で、地域のご婦人方といっしょに自家用のパンを焼く。食用廃油で石けんを作る。竹炭で浄水器を作る等の活動で交流を深める。
(3) 近隣都市の知的障害児の在宅時間の有効な活用を図る
 週休2日制が実施される。知的障害児の在宅時間が長くなり、在宅日が増えるのは教育的にマイナスになることがある。この時間を有効利用するために、学園内へ交流スペース「おもちゃ館」を開く。ここでは親子合宿あるいは日帰りで「物作り、運動、生活指導」等の活動をする。指導には大学の障害児教育サークルが参加する組織を作る。「おもちゃ館巡回バス」を用意し、工作器材・運動機器・玩具類等を積み、公園・公営施設を利用して「出前おもちゃ館」を開く。計画も進める。
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○日課
 
時間 日課 内容
6:00 起床 着替え、寝具始末、洗面
6:15 朝の運動 準備運動、ジョギング4〜5キロ
7:15 全身摩擦 着替え、全身まさつ、洗濯
7:30 朝食 食事、歯磨き、掃除
8:20 作業日課準備 朝礼、作業・生活日課開始
8:30 作業・生活訓練開始 作業開始、生活日課開始
10:00 行間体操 ストレッチ、柔軟体操、休憩
10:30 作業・生活訓練開始 作業開始、生活日課開始
12:00 昼食・役割活動 食事、役割活動、休憩
13:00 作業・生活訓練開始 作業開始、生活日課開始
15:00 行間体操 ストレッチ、柔軟体操、休憩
15:30 作業・生活訓練開始 作業開始、生活日課開始
17:00 作業・生活訓練終了 掃除
17:30 治療体育 課題運動
18:15 入浴・当番活動 温冷浴、当番活動、明日の準備
19:00 タ食 食事、歯磨き
20:00 評価・日記・余暇活動 1日の自己評価、余暇活動、治療
21:20 就寝 朝の準備、寝具準備
○年間行事予定
 
4月 入園式
六甲山縦走登山
10月 家庭学校
保護者会
六甲山縦走登山
5月 生活授産部親子合宿
教育授産部親子合宿
保護者会
11月 教育授産部親子合宿
家庭学校
体験入園
6月 運動会
家庭学校
12月 家庭学校
保護者会
冬期家庭学校
7月 保護者会
家庭学校
六甲山縦走登山
1月 家庭学校
保護者会
六甲山縦走登山
8月 保護者会
夏期家庭学校
土佐合宿
2月 家庭学校
保護者会
9月 授産部親子合宿
綾部合宿
家庭学校
3月 家庭学校
保護者会
発表会・終業式
春期家庭学校








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