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5 施策体系と展開の方向
 本市における、若者定着促進の施策展開の基本的な考え方をふまえた施策体系と展開方向を以下に示す。
(1) 施策の体系
 若者定着を推進する具体的施策の展開方向としては、それぞれの対象区分に応じて、次の3つに大別できる。
 
I 地域在住者のさらなる定着を促進する施策 (市内在住者) 
II 域外交流による若者往来(連携・交流)を促進する施策 (市外在住者) 
III UJIターン者の来住を促進する施策 (UJIターン者)
 
 この3つの対象別施策をふまえた若者定着の施策体系を次のように設定する。
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(2) 展開の方向
 短期、中・長期を含む若者定着の施策展開の方向(メニュー)を次のように想定する。
 これらはメニューであり、この中で政策課題やタイミングなどに即して具体的な重点施策化を行う。
 
A. 「働く場」の整備
 
1 大都市圏などへの通勤就業の強化 〜大阪大都市圏などの就業機会の開拓〜
 大阪・和歌山市方面への通勤を定着・促進させるには、鉄道及び車、バスなどの利便性の向上が必要不可欠である。
 具体的には、通勤時間帯を中心にした運行頻度の改善向上はもとより、JR阪和線の海南駅までの延伸や運賃の負担軽減などが最終的な目標となるが、当面は、その第一歩として乗降客の増加、そのための利用促進策を進める。
 
(1) 通勤就業機会の開拓と雇用ニーズに対応できる人材の育成
 ○大阪大都市圏や和歌山都市圏での就業状況などに関する調査の実施などを検討し、雇用ニーズに即した人材の育成を行うための研修・講座などを充実・強化し、通勤就業の可能性を高める。
 
(2) 大阪大都市圏、和歌山市への鉄道通勤の促進
 ○鉄道を利用した通勤の利便性を高めるには、通勤・通学の時間帯を中心とした運行頻度の改善・向上が必要であることは言うまでもないが、JR阪和線の海南駅までの延伸が何よりも望まれる。その当面の対応策として、観光・交流などによる鉄道利用を促進するなど、乗降客増加のための利用促進策を検討する。
 ○これと関連して、交通費の低廉化も有効であり、その対応策の一つとして若者定着住宅施策と併せた、一定期間の通勤支援なども考えられる。
 
(3) パーク&ライド方式の促進のために駅周辺の低廉な駐車場・駐輪場の拡充
 ○鉄道通勤を促進するためにはキス&ライド、パーク&ライドシステムの定着が期待される。とくに後者に対応するために、商業地区の振興と絡めて駅周辺での低廉な駐車場・駐輪場の整備を促進する。
 
(4) 主に市内東西幹線道路の改良、混雑緩和のための道路交通運用対策の推進
 ○主に海南駅へのアクセス道路、市内外の交通確保、市域の東西幹線道路の混雑緩和、そのための道路改良や道路混雑情報の提供などによる道路交通運用対策を強化する。
 
2 内発による就業機会の強化と創出
 市内での就業機会の拡充を図るためには、次の3つの側面からの施策の展開が必要となってくる。
 
I. 誘致企業の経営向上 
II. とくに競争力のある日用家庭用品産業をはじめ、紀州漆器など地場産業の雇用吸収力の強化 
III. 新規ビジネス(コミュニティビジネスなど)の起業化や産業誘導の促進
 
(1) 地場産業の活性化と産業特性に適合する若手人材の育成
 ○紀州漆器は、輸入品に押されて低迷しているが、一方で若者就業者が営業販売に偏るため、「創り手(技術継承者)」が少ないのが問題である。この産業を伝統的な地場産業として活かす観点から、手業の文化性を再評価し、「創り手」を育成して工芸文化産業としての展開を図る。
 ○日用家庭用品産業は、400億円産業として競争力があり、若者就業、子育て世代の女性パート就労などの面で地域を大きく支えている。産業の特性として、商品は多様なアイテムに分類されており、その取り扱いにはコンピューター操作技術の習得などが必須といわれている。したがって、このような就労条件に対応できる人材育成を強化して、市内の有力な就業先を活かした若者定着を促進する。
 ○若者の地域就業や技術修得を促進する意味から、若者に地元企業や地場産業を理解してもらうことが重要であり、その対応として商工会議所や行政が連携して若者に対して定期的に地場産業や企業PRを実施する。
 
(2) 地域資源や立地の優位性を活かしたコミュニティビジネスの起業化
ア 若者好みの“情報市場(インテリジェントモール)”の展開
 ○SOH0機能の導入、「楽しむ場」、「暮らす場」などとの絡みで低廉でおしやれな衣料品、レジャーグッズ、文化商品、AV・コンピューター機器、リサイクルショップ、カリスマショップ、100円ショップなどの専門ショップ(一坪ショップなど)を複合的に導入する。
 ○また、後述する「海南インテリジェントサロン」との関連で、若者のたまり場としてのネットカフェ、ワイン・地ビールブルワリー、カフェバーなどを併設し、魅力凝縮型の“若者交流の場”を創出する。独自のエコマネー(地域通貨)の導入についても検討の余地がある。
 ○具体的な整備については、中心市街地活性化との関連で空き地、空き店舗などを利用したパティオ風ビレッジ化の可能性なども検討する。
イ 海南市仮想商店街(バーチャルモール)の事業化
 ○海南市の工芸品、福祉商品、地酒、菓子などの特産品・風土食などを主力商品とし、商工会議所などが主導して仮想商店街(バーチャルモール)を立ち上げ、電子取引、通信販売などによる海南市内外の顧客開拓やイメージアップを図る。
 ○バーチャルモールの立ち上げの際には、県主導で行っているバーチャル和歌山との連携についての検討も必要である。
ウ 漆器産業・造り酒屋・古い町並みなどを複合した地域文化産業集積の育成
 ○日本四大漆器である紀州漆器や、黒江地区の「のこぎり歯」状の稀少な町並みの修景保存、紀州漆器伝統産業会館、酒造り資料館、町家・町屋をはじめ、古い町並み・空き家などを一体的に連携させて文化・観光・交流拠点を形成し、この町並み環境を活かして若者や高齢者・女性の参加による観光産業やコミュニティビジネスを育成する。
 ○具体的には、黒江の町並みや空き家などを活かした街角ミュージアム、健康食・薬膳茶店、カフェ・エスニックレストラン、国際観光民宿、各種工房、骨董市場、ギャラリーなどの経営を若者や元気高齢者などが協働して企業化する。アーティスト・イン・レジデンス方式でアーティストの来住を促進するのも一案である(ヒアリングによると、空き家が賃借できれば芸術家などの来住ニーズはあるといわれている)。
 ○その一環として販売や賃貸し意向を含めて「空き家調査」を早急に実施する。
 ○また、地区住民・漆器業界・行政による協議会を結成し、町並み文化・交流環境整備のマスタープラン、及びアクションプログラムを策定し、計画的、段階的に推進する。
 ○このような再生によって、若者に地域の歴史と伝統の認識を喚起するとともに、市民アイデンティティの確立・PRなどの情報発信を促進する。
 ○併せてマリーナシティの年間200万人の観光入込客の呼び込み、ワンデイトリップの取組を活かして“小さな旅”のガイド付き体験観光プログラムを開発する。一方、広域観光ルートの開発も進め、マリーナシティ、温山荘園、県立自然博物館などを含めた共通利用券(パスポート)の導入なども検討する。
エ 市街地の風呂屋と古い町家・町屋を活かしたエルダーホステルの事業化
 ○高齢者の歴史文化学習ニーズの台頭、とくに熊野古道の探訪や地域とのふれあいを求める歴史観光(ヘリテージ・ツーリズム)やグリーン・ツーリズムが注目される中、本市においても、地域の文化人・農林漁業者・各層の生活者などと、ふれあい学習のできる高齢者生涯学習旅行の受け皿づくりについて検討する必要がある。その具体的な展開としては、低廉な温浴機能付きの滞在学習基地・エルダーホステルの事業化を検討する。温浴機能は、閉鎖中の冷泉を搬送して温泉付きとして展開すると、より魅力が増す。温泉には、地域の高齢者なども入れる仕組みとすれば、高齢者間・住民間の交流も促進され、市街地や商店街にも活気が戻る可能性がある。
 ○市街地に10の風呂屋があるので、それに滞在機能を複合する方向も考えられる。別途エルダーホステルを整備するとしても、個々の風呂屋の特色付けを図って(「楽しむ場」の整備参照)エルダーホステルと結びつけ、歩行圏での「湯巡り散策コース」などを設定するのも一案である。
 ○この事業化には、若手の企画・営業、高齢者のサービスやガイド参加など、老若連携での経営方式を検討することが期待される。
オ 個性的な観光食芸工房「(仮称)海南・旬の里」の事業化
 ○和傘などの復活や革、ガラス、ステンドグラスなど国際色のある手業の新たな導入で若者・女性・高齢者による工芸文化産業興しを企画し、紀州漆器、家具などと連携して手作り体験工房を整備する。
 ○また、鯖のなれ寿司、ジャコ飯などのシラス料理、鈴木さん弁当、活き魚料理、その他海山の自然食材などを活かした風土食、エスニック料理などや固有の特産品を開発し、観光飲食土産品など複合拠点施設として開業する。
カ 市民病院の建て替えと連携した医療・福祉支援ビジネスの経営
 ○海南市の日用家庭用品業界が生産したユニバーサルデザイン仕様の福祉グッズの展示・販売、高齢者などの需要に見合った栄養コントロールスタイルのケータリング(仕出し)、ホームヘルパー派遣業など、医療福祉支援ビジネスの起業化を検討する。
 ○市民病院は「建て替え」が答申されたが、仮に、中心市街地周辺での建て替えということになれば、これを中心市街地商店街と連携できる形での建て替えを行い、福祉コアの形成とともに商業活性化に繋げることも考慮に入れる。さらに、名医の来診を取り付けられれば、メディカルツーリズム的な意味で、広域からの患者の来訪も促すことができ、健康・医療・福祉関連ビジネスの起業・振興並びに就業機会の拡大、ひいては商店街の活性化への波及効果も期待できるものであるので、名医の来診に向けた要望活動などの展開も考えられる。
キ 冷水漁港でのプレジャーボート係留の事業化とマリンレジャー基地の育成
 ○冷水漁協は、40人程度の漁協で、組合員のほとんどは高齢化している。主にシラス漁が盛んであるが、インタビュー調査によると、港湾内における不法係留のヨットやボートを漁港の静水域で係留して管理(有料)したいという意向がうかがえた。これらのニーズを活かして港湾内での係留桟橋の整備などを検討する必要がある。 ○これは、漁業者の高齢化対策とともに、大規模にはならないが海南市にマリンレジャーの基地的な機能を整備することにも繋がり、若者交流や定着などの要因として育成できる可能性をもつ。
 ○冷水漁協には、刺網、底引網があるので、これらを活用した観光漁業への取組も検討する必要がある。
ク 市場立地を狙った農産物直売所・直売市の展開
 ○現在、農業地区では、近接する団地住民をターゲットに農産物直売所・直売市がすでに事業化されているが、このような機能の拡充を図り、観光との連携を検討する必要がある。
 ○その展開として、既設の農産物直売所などとは別に、マリーナシティと連絡した広域観光流動軸上で中心市街地(駅前、工場跡地、黒江など)にある適地などを配置候補地として検討する。機能的には、先の「食芸工房」も含めて「道の駅」との複合も視野に入れ、商店街の活性化に繋げるのも一案である。
 ○例えば、高齢者などが遊休農地で農産物の生産・加工を行い、若者や女性などが経営マネージメントや販売促進活動などを担当するといった老若男女の新しい連携方策についての検討を行う。
 ○これは、高齢者の生きがいビジネス及び若者の就労の場の確保を同時に実現できるということからも、大変意義深いものと思われる。
ケ 遊休農地を活かした「貸し農園(クラインガルテン)」・「観光農園」などの事業化
 ○現在、遊休農地が増加しているので、大阪都市圏からの日帰り観光圏としての本市の優れた立地を活かして、大都市住民を対象とした観光農園や貸し農園の整備を検討し、都市住民との連携・交流を図る。
 ○市民農園の市域外住民への開放も検討する。
 
B. 「楽しむ場」の整備
 
1 大阪大都市圏や和歌山市などの「楽しむ場」の活用
 大阪大都市圏などの有するアミューズメント、ショッピング、都市文化及び国際交流機能や、南紀・熊野地域などの自然体験型の観光レクリエーション機能などを視野に入れ、これらの「楽しみ機能」を自在に活用する。
 
(1) 大都市などの「楽しみ情報」の受発信と市民・若者への情報提供の強化
 ○インターネットなどを中心として急速に進展するIT(情報技術)を活用して、従来の市の広報に加え、大阪・和歌山都市圏及び南紀・熊野地域などの海南市民の生活圏にある芸術文化・観光・イベント・スポーツ・買物・生涯学習・子育てなど日常生活の利便性や質を向上させる周辺都市・地域の「楽しみ情報」の提供方策の検討を行う。
 ○例えば、これらの「楽しみ情報」の収集が、手軽に各家庭のパソコンからできるように、ホームページ「(仮称)海南地域ポータルサイト(注)」を構築する。ホームページの制作に際しては、費用対効果とコンテンツ(内容)の質を重視し、本市及び周辺都市・地域の市民・企業(地場産業)・行政の効果的かつ効率的な連携・協力体制の検討を行う。
 (注)地域ポータルサイト : インターネット利用者が最初にアクセスするホームページで、地域住民などが必要とする地域情報が統合され、利用者に使いやすい形で提供されている。
 
(2) 大都市などへのアクセスの利便性向上とコストの軽減
 ○大都市で行われている各種イベントなどの機会をとらえ、大都市などへの一日観光割引券や交通割引券などの発行について、交通事業者などとの連携を検討する。
 
2 内発による「楽しむ場」の強化、創出
 紀州漆器や黒江の町並み、熊野古道など地域の固有性・優位性を活かした海南市ならではのアミューズメント機能の強化、地域文化の継承・発信・交流のための文化機能の強化及び生きがい・自己実現に関わる活動の場・機会・情報の充実などを図るなど、市民はもとより、観光客、来訪者などのニーズに即した形での「楽しむ場」の整備を促進する。
 
(1) 地域資源と市内及び周辺の若者ニーズを捉えた「楽しむ場」の整備
ア 若者広場“海南インテリジェントサロン”の整備
 ○先に述べた「若者好みの“情報市場(インテリジェントモール)”」の展開と連携して、若者の溜まり場・憩いの場として、託児所・ネットカフェ・ミニギャラリーなどを併設した個性的・文化的なサロンを併設する。
 ○「海南市物産観光センター」の活用を含め、市民の交流のプラットホームとして「まちの駅・情報ステーション」の展開も検討する。
イ 海南文化スクエアの整備
 ○吹奏楽・人形劇・演劇サークルなどのグループ活動が盛んに行われているものの、音響・照明設備などが備わった「文化活動の発表や交流のホームグラウンド(活動拠点)」ともいうべき文化ホール的機能が弱いことが、本市における文化・芸術活動の停滞を招いている面がうかがえる。
 ○海南市の都市力に見合った、小規模ではあるが、海南ならではの質の高い「エデュテインメントコンプレックス(遊びながら学べる複合施設)」の整備について検討する必要がある。
 ○具体的な展開としては、中心市街地活性化基本計画との連携の上で、例えば、JR海南駅前の旧国鉄清算事業団用地や、空き地・空き店舗、小街区などに次のような機能を複合整備する。
 ○このような現状をふまえ、海南市の都市力に見合った、小規模だが質が高く海南らしい「エデュテインメントコンプレックス(遊びながら学べる複合施設)」の整備について検討する。
 
■小規模だが高感度のライブホールの整備 
■託児機能付き情報ライブラリー(ネットワーク図書館) 
■熊野古道ハイビジョンミュージアム(バーチャルミュージアム) 
■文化インキュベーターラボ 
■企画展示ホール 
■学習室 
■イベント広場 
■ネットカフェ
 
(2) “黒江のあがえ”など多様な町並み文化交流環境の整備と多彩な企画・運営
 ○最近、黒江地区の町家を活用して、市民主導でさまざまなイベントが活発に行われているが、このように若者が主体となって、地域の特性やエスニックな魅力を融合させたイベントの実施などを通じて、多彩な文化・交流環境の創出を図り、市民文化の発信と交流を促進する。
 
(3) 熊野古道の交流・体験学習の拠点形成
 ○全国200万の鈴木さんのルーツである鈴木屋敷などを活かし、シンボリックな熊野古道・歴史文化の交流の場・体験学習の拠点としての整備について検討を行う。
 ○現在、市民主導により、楽市楽座(骨董市など)などのイベントが開催され、また、地域住民を中心に鈴木屋敷を復元する気運も醸成されつつあるので、これらの市民活動の萌芽を育て、発展させ、市民主導による文化環境の再整備を促進する必要がある。
 ○展開としては、例えば、全国の鈴木さんを軸とした縁者や熊野古道ファンの大集合イベント、藤白神社の人物往来史の顕在化、史実に基づく歌舞音曲などを再現し、熊野古道を活かした海南市のイメージアップと市民の誇り意識の醸成を図る。
 
(4) 10の公衆浴場を活かしたコミュニティ銭湯「海南浮き世風呂」の整備
 ○海南市街地の10の風呂屋に「一湯一健康魅力」を付加し、「海南浮き世風呂」としての魅力増進を進め、各風呂屋間のネットワークの整備を図り、「まち歩き」コースにも組み入れるなどの検討を行う必要がある。
 
(5) レンタサイクルの整備とサイクルツーリングイベントの定期開催
 ○平坦地が多い市街地や健康ロードなどを活かし、観光客などが自転車で本市の誇る歴史文化や田園・中山間地などの豊かな自然などを楽しむことができるよう、レンタサイクルシステム(サイクルターミナル、トイレ、ルート指定やサインシステムなど)についての整備の検討を行う。
 ○また、市民の健康づくりや「我が町を楽しむ」仕組みづくり、並びに市外向けに海南の歴史文化や観光資源のPRの一環として、オープン参加の「(仮称)海南のまち歩きサイクルツーリングイベント」の定期開催などについても検討を行う。
 
(6) ボランティアガイド・インストラクターの育成
 ○高齢者・女性などの生きがい活動として体験観光のボランティアガイド、インストラクターシステムなどを拡充する。
 ○例えば、生涯学習や既存のボランティアグループなどとの連携のもと、海南市観光協会にガイドボランティア協会「(仮称)海南古道塾」を設置して人材育成を行い、ガイド依頼者の希望に即して自在に動けるシステムを工夫する。
 ○このようなシステムの構築にあたっては、ボランティアガイドに対して必要経費などの支給を行う、いわゆる有償ボランティア制の導入についての検討も行う必要がある。
 ○このことについては、一方では「ボランティア精神に反する」という否定的な意見や指摘もあるが、“コミュニティビジネス”の視点からは大変意義深いものであるといえる。
 
(7) 固有資源の再発見を促す地域性と国際性の出会うイベントなどの展開
 ○我が国のこれまでの歴史教育や地域学習の脆弱さもあって、一般的に、若者は地域の歴史文化に疎いといわれている。
 ○そこで、市民(とくに若者)主導により地域の歴史や文化資源の再発見や見直しを企図した、例えば、「海南まちワーク」、「熊野古道ウォーク」、「海南まち歩き・山歩き・海歩き」、「小説家と歩く人物往来」などのオリジナルイベントやインパクトの大きい市民の手づくりによる「海南まるごと生活体験博」などのイベントの企画・開催を検討する。
 ○また、本市には和歌山マリーナシティなどに勤める外国の人々が多く住んでいるので、それぞれのお国自慢の手作り料理や民族文化などをテーマとしたイベントを開催するなど、文化の異なる生活者レベルで地域性と国際性の出会いを演出し、“小さな世界都市”の形成を念頭に置いた国際混住文化の創出を進める。
 
(8) 市民の自主的・主体的な活動の場づくりの支援
 ○本市には、サッカーのJリーグ出身者が代表を務める“総合スポーツクラブ”や燦燦公園などで定期的に演奏活動を展開し、市民や来訪者に好評を博している“音楽サークル”などがあり、既に行政からは機材の貸与や助成などの支援が行われている。
 ○こうした、市民自らの手により市民が主役となる、地域に根ざした文化・スポーツ活動は、市民の憩いや地域への愛着、まちのにぎわいや誇り意識の醸成など、地域活力の向上にもつながっていくものであり、本市の「民主導官支援」の実践モデルとして、今後も、このような自主的・主体的な楽しむ場づくりの実践活動を行う市民団体との協力・連携関係を保ち、活動を支援するとともに、新たな活動団体の発掘・育成を図る必要がある。
 
 
C. 「暮らす場」の整備
 
1 若者にも魅力ある住宅の整備(若者・子育て機能・高齢者福祉機能・交流機能などを複合したコンプレックスとする)
 
(1) 駅前での中高層若者定着賃貸住宅などの供給
 ○海南市土地開発公社の保有するJR海南駅前用地などを活かし、賃貸・分譲を含めて若者世帯が快適に居住できる中高層集合住宅などの整備を促進する。このような集合住宅の整備にあたっては、保育所機能などの併設も検討する必要がある。
 ○このJR海南駅前用地は、大手開発業者からの引き合いが多く(宅地開発事業者のインタビュー調査より)開発ポテンシャルも高いので、一案として、当該土地を民間資本に売却し、民間によって建てられた中高層集合住宅の一部を若い夫婦世帯や子どものいるファミリー世帯などが入居できるよう、行政が借り上げるということも考えられる。
 ○いずれにせよ、現在、駐車場として活用している、この公社保有の駅前用地を住宅開発に活かすと、駐車場が不足することになるので、別途、駅近接地区での駐車場の確保についても、併せて検討する必要がある。
 
(2) 中心市街地、商店街での企業跡地などを活かした若者世帯が快適に居住できる賃貸住宅などの供給
 ○若者世帯が快適に居住できる住宅や単身で元気な高齢者のためのケア付きグループハウジング、これらを複合した“老若複合住宅”の整備についての検討を行う。
 ○これらの住宅供給を促進するためには、旧市街地を含めた土地利用構想を樹立し、これに基づいて、住宅マスタープランやシルバーハウジング計画などを策定して、用地の集約や流動化などの具体化を図る必要がある。
 
(3) 古い空き家、空き地を活かした“町並み再生型”多世代住宅の供給
 ○黒江・船尾・日方・内海などの旧市街地には、老朽家屋が多く、また、空き家や空き地が目立ち始めている。加えて、これらの地区では、道路が狭く、救急車両や消防車両などが通行できないような所も多く、防災上からも危険視されている。
 ○この旧市街地の再整備については、現在、市において検討が進められているが、若者定着の観点からは、まずは、これらの地区の骨格となる自動車進入道路の確保を行い、続いて古い持ち家や空き家・空き地を有効活用し、歴史文化の香り漂う風情ある町並みを今日的に活かした住宅の整備を進めていく必要がある。
 ○そのためには、まだ現段階では、空き家の実態把握や地権者・居住者などの意向調査が十分に行われていない状況であるので、これらを早急に実施して人々が住みたくなるような居住空間の創出についての可能性を分析・検討し、地権者・居住者などが一体となって、歴史街道地域としての特色を活かした趣のある「古くて新しい住宅まちづくり」について検討する必要がある。
 
 
2 若者定着宅地の整備
 
(1) 低廉で質の良い宅地の供給
 ○現在、本市における宅地開発としては、駅東地区土地区画整理事業(市施行)並び
に重根地区土地区画整理事業(組合施行)が進められているところであるが、これ
らの事業の実施にあたっては、若者定着という観点からの検討も行う必要がある。
 ○これらの土地区画整理事業の進捗状況からみると、現時点における事業地区内での
新たな戸建て住宅用の宅地供給が困難な状況にあるので、一案として、現在、土地
開発公社所有の販売宅地・北赤坂台の残区画(62区画:平成14年2月末現在)の一
部を市が買い上げ、低廉化して分譲する、あるいは賃貸する(定期借地権の導入も
含む)といったことも考えられる。
 ○しかし、「市が買い上げ、低廉化して分譲あるいは賃貸する」といっても、既に北
赤坂台で販売している宅地価格との関係や、賃料の競合問題など、検討すべき課題
は多い。
 
(2) 都市計画法の改正(規制緩和)に伴う新たな宅地供給の検討
 ○右肩上がり時代に設定された都市計画の線引きは、大都市部を除いては、全体的に見直しの傾向にある。このような状況の中、本市においても、低廉な宅地の供給を促すという観点から、この線引きの見直しについて、早急に検討する必要がある。
 ○都市計画法及び農地法の一部改正を受け、優良田園住宅建設促進法(平成10年度法律化)では、三階建て以下・300m2以上・建蔽率30%以下・容積率50%以下の戸建て住宅であれば、市街化調整区域における農地・山林の宅地への転用を可能としており、これによると、市町村が定める「地区計画」で宅地として売却したり、定期借地権の導入などによる住宅の供給なども考えられる。
 ○このことから、現在増えつつある遊休農地を活用し、若者やリタイア層のUJIターン者、大都市住民向けの“菜園付き住宅”の供給についての検討を行う必要もある。
 
D. 「子育て環境」の整備
 
1 安心して楽しく育てられる環境づくり
(1) 保育所・幼稚園・集会所など、コミュニティ機能の再編
 ○保育所・幼稚園などの効果的かつ効率的な配置及び運営の観点から子育てニーズに即した施設配置や専門人材の再配置などを促進する。そのためには「(仮称)子育て環境に関するニーズ調査」を早急に実施する必要がある。
 ○また、とくに共稼ぎ世帯やひとり親家庭でニーズが高い保育所での低年齢児保育、延長保育、幼稚園での3歳児保育などに配慮し、民間施設との連携を図りながら、施設運営システムを拡充・強化する。
 
(2) 「身近な遊び場」の整備
 ○保育所及び幼稚園や公民館・集会所などのコミュニティ施設との複合再編に際しては、子育て世代のアンケートやグループインタビューなどの調査から「身近な子どもの遊び場」に対する要望が顕在化していることを踏まえ、「遊び場」の設置要望箇所に関する調査を早急に実施し、子育て世代の参加で整備計画を立案する。
 ○その際、施設の管理運営については、利用者が利用しやすいように子育てグループなどに委託する案なども検討し、市民参加による管理運営を目指す。
 
(3) 市民病院を含む小児科医などの充実
 ○市民病院の建て替えが答申されたので、現在、新市民病院の医療システム・運営管理などについて院内で検討を行っているところであるが、今後は、とくに、夜間救急医療体制(小児科医の当直頻度の向上など)の改善などについても検討を加えることにより、子育て世代に要望の多い小児科医の充実などに対応する。
 ○また、民間の小児科医の充足の方策についても検討する必要がある。
 
(4) リフレッシュ保育の拡充
 ○例えば、JR海南駅前の旧国鉄清算事業団用地や中心市街地の空き店舗などを活用し、ファミリーサポートセンターや一時保育の受入システムなどを充実し、子育て世代のリフレッシュや自己実現のための社会参加の促進を図る。
○子育て世代の悩みや不安の解消、子育てを通しての楽しみの共有や協力を促進するための、子育て中の親の交流・情報ネットワーク「(仮称)わいわいネット」の構築などを図る。
 
2 地域が協働して育てる環境づくり
 
(1) 地域の手業や生活文化を伝える地域学習ボランティアの育成
 ○平成14年4月から始まる“総合的な学習の時間”にあわせて、“元気高齢者”を地域学習ボランティアとして養成し、小学校低学年などの地域学習の指導者として活用するなど、地域ぐるみの子育て環境の整備・充実と同時に“元気高齢者”の生きがい対策を図る仕組みづくりについて検討する。
 
(2) 子育て世代など相互扶助の推進
 ○子育て世代へのグループインタビュー調査では、核家族化の進行や地域の人間関係が薄くなり、隣近所で育児について気軽に相談できる相手が少なくなる中、地域とのつながりや交流に対するニーズがうかがえた。
 ○一方、本市では、地域のコミュニティ活動において相互扶助の伝統も残されていることから、昨今、普及途上にあるエコマネー(地域通貨)の導入などを機に子育て世代と地域とのつながりや関わり合いを深め、地域ぐるみでの子育て支援の環境づくりを進める必要がある。
 
E. 「基盤的環境」の整備
 
1 若者定着を支える生活インフラの充実
 
(1) 交通インフラの安全性、利便性の向上
 ○若者定着の支援システムの対策として、まず第一に挙げられるのは、市内各所の道路環境の整備といえる。とくに旧市街地では、道路の幅員が狭く、現代の車社会に対応できていないこと、さらにこのことが居住環境の整備の立ち遅れ、防災上や救急医療などの対応への不安となり、若者を中心とする人口流出の大きな原因になっていると考えられるので、市民生活の利便性を高める上で、地区内の道路整備を進める必要がある。
 ○また、市域の東西幹線道路である国道370号の改良がまだまだ不十分で、通勤通学の安全問題や交通混雑が発生しているので、この改善を進める。
 ○鉄道では、既述のように、JRの運行頻度の改善、さらにはJR阪和線の海南駅までの延伸が通勤や通学、大都市依存のショッピング、娯楽、文化享受などに大きく影響するものであるが、これらの実現に向けて、まずは鉄道事業者とのタイアップによる大阪近郊フリー切符などの運賃割引の導入への働きかけや、観光客誘致事業の充実・強化などを行い、鉄道利用者の増加を図る。
 ○鉄道利用促進に向けた環境整備の一環として、JR海南駅周辺やJR黒江駅周辺でのパーク&ライドを進める上で、駅周辺での駐車場の確保が重要であるが、JR海南駅周辺においては、商店街の駐車場対策と一体的に整備を進める必要がある。
 ○少子高齢化対策の観点から、高齢者の生活利便性の向上や市内の幼稚園・保育園への通園手段を確保するために、既設の“コミュニティバス”の拡充を図る。
 ○車社会からの脱却、歩いて楽しいまちづくりの視点をふまえ、市街地散策をはじめ市内散策、健康ロード(ヘルスレーン)などのフットパスの充実・強化を図る。
 ○子どもや高齢化社会の生活行動への対応から、マイカー中心の総合交通体系を見直すこと、具体的には公共交通手段や歩行システムの充実が必要となる。その対応として駅への通勤アクセス、商店街のショッピング、育児施設への利便性の向上などを進める上で現コミュニティバスを含むバスシステムの利便性の向上をはじめ、自転車、歩行システムの一層の充実を図る。
 
(2) 供給処理インフラ、とくに水の確保
 ○生活水準の向上や生活意識の変化に伴うライフスタイルの多様化・高度化により水の需要が増大する中、安全でおいしい水の確保とその安定的供給が本市にとって重要な課題となっている。
 ○「若者世帯が快適に居住できる宅地の供給」という観点からは、国・県との緊密な連携・調整を図りながら、水源の確保や未給水地域の解消に努め、また、地域住民や行政、事業者などが一体となって地域の実情に応じた下水処理を早期に推進する必要がある。
 ○とくに、多くの優良な宅地供給が見込まれる重根土地区画整理区域(現在、事業実施中)では、地区内での上水配管計画の促進や日方川などの改修による排水機能の向上が、事業推進上の大きな課題となっているが、快適な生活環境を確保するためには、これらの積極的な推進が望まれる。
 
(3) 情報リテラシーの向上と地域の情報化の促進
 ○本市には、海南インテリジェントパーク(地域の情報化拠点)が立地しているものの、現段階では地域の情報化との関連は薄い。
 ○今後は、地域インターネット導入事業などの活用などにより、本格的に地域コミュニティの情報化に取り組んでいく必要がある。
 ○地域コミュニティの情報化の一環として、若者同士の交流をはじめ、高齢者と子どもとの交流を促すことができるような仕組みづくりを促進する必要がある。
 ○このためには、例えば、市内全公民館へのパソコンの配備及びパソコン教室の開催などにより、全市民のパソコンをはじめとする情報機器の利用能力の向上を図る。
 ○また、既述した子育て世代による「わいわいネット」(67頁)の立ち上げなども考えられる。
 
2 若者の地域参加を高める仕組みづくり
 
(1) 公共施設の有効利用のための運用見直し
 ○今回実施した各世代へのグループインタビューにおいても、「公共施設の利用方法が市民ニーズに即しておらず、有効に活用されていない」という指摘があるので、このような声を真摯に受け止め、若者や市民(ユーザー)志向に対応した管理運営のあり方について検討する。
 
(2) 若者の地域活動が行政システム、地域経営システムと連動できる仕組みの整備
 ○いわゆるインフラではないが、若者の定着には彼らの自主的・主体的な地域参加が必要不可欠となるが、その支援システムとしての「市民主導・官民協働」の地域経営システムづくりがポイントである。
 ○このような問題意識からみると、海南青年会議所が、現在、孟子(もうこ)地区でビオトープ活動を行っている市民団体と連携して取り組んでいるグラウンドワークや熊野古道キャンピングウォークなどは、大変有意義なものといえるが、現段階では行政との連携体制、関連する専門人材の連携システム、関係者や市民との情報流通などが十分とはいえず、市内全域へと広がりにくい状況である。
 ○これは、若者の意向や活動を市民全般や行政に伝達する仕組に不備があることを意味するといえる。したがって、若者定着まちづくりを進めるためには、若者との日常的な接点である意見交換会や意見具申の窓口の設置、官民相互連携によるイベントの取組、さらに若者への主体的な事業委託などを模索していく必要がある。
 ○これと関連して、若者や女性の活動を暖かく見守り、地域のメリットとしていく文化や政策がまだ弱いため、実践的な若者参加のまちづくりモデル事業や多様なグループ活動の育成、組織づくりの支援なども地域社会全般の検討課題であるといえる。
 
(3) 行政支援の方向
○若者定着への公的支援は、これまでも実施されてきているが、若者の生活ニーズの多様化の中で自主的な領域と公的に関与する領域を仕分けして、より新しい視点で各種の自立支援を拡充する。
○具体的な支援策は、今後の検討を要するが、概ね次の方向が期待される。
I. 伝統的町並みやその他の地域資源活用型のコミュニティビジネスの起業化をはじめ、それらを進めるための先導的な計画支援などを拡充する(働く場)。
II. 文化活動の場、情報提供の拡充とともに、市民の利用ニーズをふまえた公共施設の利用促進及び管理運営システムの見直しを図る(楽しむ場)。
III. 若者への低廉な賃貸住宅や宅地の供給、並びに家賃や住宅・宅地取得への各種支援を拡充する(暮らす場)。
IV. 子育て世代のニーズを反映し、各種公的施設の再編・充実とともに、専門人材の有効活用、NPOやボランティアの立ち上げなどの相談、情報提供など各種支援策を拡充する(子育て環境)。
V. 若者定着を促進するために、庁内横断型の連携組織化など行政側の推進体制を整備するとともに、官民協働で全市的に対応できる組織づくりやまちおこしモデル事業などを創設し、その各種支援を拡充する(基盤的環境)。








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