2 事例研究:ICカードを活用した地域情報サービスヘの展開(つれてってカード協同組合)
(1) つれてってカード協同組合の概要
つれてってカード協同組合(以下「組合」という)は、長野県駒ヶ根市を中心に、飯島町、中川村の1市1町1村を活動地域として中小小売店が商業活性化を目指してICカードでポイントサービスと、プリペイド事業を運営する自主運営組織である。駒ヶ根市郊外に大型店舗の出店により空洞化した駒ヶ根市中心商店街の活性化を図るために、組合、赤穂信用金庫、駒ヶ根商工会議所、駒ヶ根市役所など地域密着型企業・団体と連携し、平成8(1996)年10月から接触式のICカードの導入による多機能コミュニティカード事業を展開している(図表 資-8)。
図表 資-8 つれてってカード利用地域
図表 資-8 つれてってカードの概要
名称 |
「つれってって」 ※由来は地元で古来から農作業の目安として親しまれている春先の中央アルプス駒ヶ岳の雪型「島田娘」をデザインし、地元色を強調した。 |
種類と保有状況 |
発行枚数 総計24,810枚(2001年1月現在) ※域内人口(51,379人)の約半数がカードを保有(駒ヶ根市34,462人、飯島町11,257人、中川村5,660人) |
[1] 「つれってってカード」組合発行(計11,394枚) ※高校生以上が対象の「一般カード」と、小学生から中学生対象の「子供カード」がある |
[2] しんきん「つれてってカード」赤穂信用金庫発行(計13,416枚) ※高校生以上対象「個人カード」と法人対象の「法人カード」。共にキャッシュカード併用 |
機能 |
[1] ポイント機能(100円の買い物で1ポイント付加、1ポイント1円で換算で買い物やサービス提供を受けることができる。 ※公共施設、医療機関の支払いにはポイント付加無し) |
[2] プリペイド機能(カードに金額をチャージし、買い物等の支払いに利用できる) |
[3] キャッシュカード機能(赤穂信用金庫のキャッシュカードとして利用できる) |
※1 キャッシュカード機能は、しんきん「つれってってカード」のみ |
※2 ポイント、プリペイド、現金との併合支払いが可能 |
※3 カードでのプリペイド、ポイント移動が可能 |
加盟店 |
対象(域内)小売店舗加入率54.6%(2000年1月現在) ※組合員数208名、カード参加店数213店(対象小売店舗数390店) 協力機関6ヵ所(公共機関、市役所等) |
利用場所 |
小売店、料芸飲食店、ガソリンスタンド、理美容院、ゴルフ場、伊那バス、昭和伊南総合病院(医療費支払い)、こまくさの湯・望遠荘(三セク温泉入場料)、文化会館(映画等の催し物)、駒ヶ根市役所(手数料支払)、高速バスターミナル(バス料金)等 |
経費負担 |
<加盟店> [1]店舗端末機リース料(月額3,500円)、[2]組合賦課金(月額1,000円)、[3]新規加盟時の入会金30,00円、出資金5,000円、[4]ポイント発行時手数料(1ポイントにつき0.5ポイント) |
<組合> [1]ホストコンピューター、[2]プログラム開発費、[3]カード代金(1,000円/1枚)、[4]その他(広告宣伝費等) |
<赤穂信用金庫> [1]ATM(16台)、[2]プログラム開発費、[3]カード発行機、[4]カード・バランスリーダー代金、[5]その他(広告宣伝費等) |
<顧客>負担なし(再発行時を除く) |
資料 : つれてってカード協同組合
(2) ICカード導入のねらいとメリット
○ 情報媒体をICカードとした理由は、顧客情報を商店街のマーケティングデータとして活用にするため(磁気カードではカード利用者の情報収集が不可能)。
○ 組合では、店舗毎に利用者名簿や購入記録等を提供し、店舗ではデータを商品構成や、特売の際のダイレクトメール発送等の販売促進に活用している(顧客情報は当該店舗以外には提供しない規則がある)(図表 資-9)。
図表 資-9 ICカード導入のメリツト
組合 |
赤穂信用金庫 |
顧客 |
[1] 顧客の大型店・他地区への流出防止(顧客の囲い込み) |
[1] 普通預金口座開設による取引件数・先数の増加 |
[1] 現金、小銭の持ち歩き不要 |
[2] 売り上げ増し・商店街活性化 |
[2] 競合他行との差別化による取引のメインバンク化 |
[2] スタンプ紛失防止・台紙へのスタンプ貼り不要 |
[3] 顧客情報の管理 |
[3] 顧客・組合・加盟店の資金の長期滞留 |
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[4] 子どもカード利用による次世代利用者への啓蒙 |
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資料 : つれてってカード協同組合
(3) 今後の課題と展望
○顧客への魅力あるアプリケーションサービスの提供、加盟店の業種と数の増加が課題。
○今後一層の定着を図るためには地域振興が不可欠という認識から、カードを商業べースでの単なる決済手段から行政サービス機能等を付加し、地域内価値を創造する地域情報媒体(コミュニテイカード)としてコンテンツを拡充していく。
○近隣市町村で約8割の世帯普及しているCATVにカードホームターミナルを設置し、インフラとして活用することを検討中。
<展開例>: |
オンラインショッピング、家計簿機能、行政情報の閲覧(回覧板機能)、有線文字情報のオンデマンド化、家庭から赤穂信金ATMへの入金・口座振替・残高照会、緊急連絡、カード保有者間のメールサービス 等
※既存回線のチャンネル数の増設や、双方向通信環境の確保が課題 |
○平成14年3月から、経済産業省の「IT装備都市研究事業/実証事業」の指定を受け、非接触式のICカードを導入し、CATVの双方向化およびネットワークを活用し、将来の住民基本台帳カード、健康保険カード等を含めたICカードの多目的利用を推進するための次世代住民サービスを実施予定(図表 資-10)。
図表 資-10 次世代住民サービス概要
アプリケーション名 |
サービス概要 |
行政 |
電子福祉チケットシステム |
電子認証による本人確認を行い、福祉チケット配布対象者にはICカードに福祉サービスの電子チケットを転送する |
子育て支援システム |
子育て相談、施設利用予約等の利用者毎に利用可能なサービス情報を提供する |
行政文書管理サービス |
市職員が行政文書の登録、閲覧、引用、削除等の作業を行う際に、職員毎に許された範囲の情報を提供する |
民間 |
地域電子マネー関連サービス |
店舗サービスのプレミアムポイントに加え、商店街が行うイベント、奉仕活動参加者にエコポイントの発行・管理 |
カード発行・管理 |
伊南コンソーシアムICカード発行・管理システム |
ICカードの発行・運用管理。個人情報保護やサービス情報,地域認証機能を持つ |
資料:伊南コミュニティーカード・コンソシアム
(4) 事例から得られた示唆
ア 地域密着型組織・団体間の連携の必要性
つれてってカード協同組合によるICカード事業は、地元の商工会議所、金融機関、市役所などまさに地域で生きる当事者達の危機意識によって生まれ、それぞれが出資や勤務時間外の研究・検討を積極的に行い、実施現場でさまざまな試行錯誤を重ねていくなかで成果を示し、その現実に国をはじめ行政が推進の後押しをするというスタイルになっている。その成功の秘訣はなんといっても、地域に根差した組織・団体がそれぞれの役割を認識し、行動し、連携・協力関係を築いていることにあり、地域密着型組織・団体の一体的な協力関係の構築が望まれる(図表 資-11)。
図表 資-11 カードの関係団体と組織
イ 住民生活や地域の経済社会との結びつきが普及のポイント
地元商店街での買い物ポイントや、地域のボランティア活動が公共施設や交通機関の利用に使えるといった利用意欲を喚起させる仕掛けを提供し、住民の実生活や地域の実体経済とつながるIT装備をしているのが利用促進および普及の鍵となる。IT装備はあくまで住民生活の満足度や利便性向上のためのツールであるという位置づけを明確し、利用者本位のサービスのあり方を常に追求していく発想が求められる。
ウ 地域振興への貢献というビジョンの必要性
地域住民および地域に根差した組織・団体の究極の利益、目標はまちが活力や賑わいを取り戻す地域振興にある。一口に地域住民や地域密着型組織・団体といっても、それぞれの利益や目標は主体によってさまざまであり、各々が目先の利益追求に終始していたら、「つれてってカード」の今日の姿はなかったことだろう。「住民が何を要求し、何をつくりあげていくかを知る手段として、カードは地域貢献できる。地域内の価値を創造し、カードにおけるサスティナブル(持続的な)なシステムを構築すればその利用は循環し、地域振興につながる」(つれてってカード協同組合資料)という使命感と明確なビジョンが、地域にかかわるさまざまな主体の共感・共鳴を呼び、連携・協力関係や地域連帯の再生(あるいは創生)を喚起する。
地域振興に貢献するIT装備であるというビジョンを持ち、そのメッセージが利用者、関係者にわかりやすく伝わり、共通目標とされる展開が望まれる。