7) ハンシン新LA34形機関 ―舶用4サイクル低速主機関―
阪神内燃機工業株式会社
1 はじめに
国内経済はバブル崩壊後すでに8年を経過しましたがまだまだ回復の兆しがみられません。過去数年好調であった近海船も東南アジアの経済危機により荷物の減少と竣工船の増加により船腹の過剰がみられるようになり、船価のダウン及び引合の減少で一時の勢いがなくなってきました。
この間、当社はS26MC、L及びS35MC形の2サイクル機関に重きをおき、1987年S26MC形の製造を開始以来すでに100台を越える2サイクル機関を提供してまいりました。さらに近海船の多くの船種に対応すべく、S42MC形機関を開発中です。
一方内航船については、内航海運業界の規制緩和の中で昨年船腹調整事業が廃止され、暫定事業に移行されました。当面の課題である船腹過剰の解消に向けて動きだし、ある程度の成果は見られるものの新規の建造にまでは至っておりません。このような状況の中で内航船の主流として今まで長い間ご愛顧をいただいてきました4サイクル低速機関について、どのような機関が求められているのか、今一度見直す良い機会が与えられました。
LU形を開発して以来、EL形、LH及びLH-L形と常にその時代のニーズにあった機関を開発してきましたが、新LA形機関はさらにきびしい状況の中に求められている現在のニーズを徹底追求し、LH及びLH-L形で1100台以上の製造実績を基に開発を進めてきました。
以下に新4サイクル低速機関LA34形について紹介をします。
2 開発の目的
新LA34形機関は内航船の主機関として現在問題となっている
・船員の高齢化
・船員、熟練技術者の不足
・船内環境の悪化
・地球環境に対する配慮
などを考慮し、開発コンセプトを次のように定めました。
1.低NOx、2000年NOx規制対応
2.メンテナンス容易、インターバルの延長
3.低振動、低騒音
4.信頼性、耐久性の向上
5.低燃費、潤滑油消費の削減
3 機関主要目
表1に本機関の主要目を示します。
比較として同一シリンダ径を持つ当社のLH34LA形機関の主要目も併記します。
この要目の中で特筆すべきはロングストローク化をはかり、ストロークとシリンダ径の比、すなわちS/D=2.12と大きくしたことです。
ストロークを長く、膨張工程を十分に長くし、サイクル効率をよくするとともに機関の回転数をできるだけ低くし、燃焼期間を長くして出力アップをはかりながら低燃費化を目標としています。また本機関は減速機を介さないプロペラ軸直結機関を標準とし、低回転の効果とプロペラ直径を大きくすることによって推進効率の向上もはかっています。
  |
単位 |
過給機、空気冷却器付
縦形単動、4サイクルディーゼル機関 |
形式 |
  |
LA34 |
LH34LA |
シリンダ数 |
  |
6 |
シリンダ径 D |
mm |
340 |
ストローク S |
mm |
720 |
640 |
S / D |
  |
2.12 |
1.88 |
出力 |
kW |
1838 |
1618 |
回転数 |
rpm |
265 |
280 |
爆発圧力 Pmax |
Mpa |
14.2 |
13.7 |
正味平均有効圧力 Pme |
Mpa |
2.123 |
1.989 |
平均ピストン速度 C |
m/s |
6.36 |
5.97 |
出力率 Pme・c |
  |
13.5 |
11.87 |
燃料消費率 g/kW・h |
  |
185 |
186 |
潤滑油消費率 g/kW・h |
  |
システム油 1.0
シリンダ油 0.7 |
システム油 1.1
シリンダ油 0.7 |
表1 機関主要目
4 機関の構造と特長
図1に機関全体の組立図、図2に機関横断面図を示します。本機関はロングストロークにするとともに、当社の過去の就航実績を見直し、信頼性、耐久性については特に各部品の強度に有限要素法を使用し、機械的及び熱的な両面から検討を行いました。新しい機構として油圧動弁、Lセーブリングの採用、また主管及び配管の簡素化、各主要ボルトのまわり止めの改善なども実施しています。構造物及び各部品の特長を図2に列記いたします。
図1 機関全体組立図
(拡大画面: 145 KB)
図2 機関横断面図
(1) 架構
架構はシリンダ、カム室を一体形とし、箱形構造により剛性をあげ、低振動、低騒音化をはかっています。また吸気管、冷却水主管及び潤滑油主管を一体構造にして外観のコンパクト化、簡素化及び構造物の部品の減少もはかっています。
(2) シリンダカバー
爆発圧力は実績のあるレベルに抑えていますが、シリンダカバーの高さを増し、剛性をあげ、肉厚の検討により側壁を補強するとともに燃焼面の変形を小さくするための斜め棚も導入しています。カバーボルトは吸・排気通路の確保、分解及び組立作業を容易とするため6本に減らしていますが、パッキン部からのガスもれに対し、充分考慮された構造になっています。
吸・排気弁は2弁式とし、保守・点検を容易にしています。
(3) クランク軸、軸受
強度的に優れたR-R鍛造のクランク軸を採用し、材質は従来どおり実績のあるSF640としています。ストロークの変更により新しい金型設計としています。
主軸受及びクランクピン軸受のメタルは耐圧性、耐久性のあるアルミメタルを用い、薄肉完成メタルとしています。
(4) ピストン、連接棒
鍛鋼製クラウンと鋳鉄製スカートの組立式ピストンでクラウンは頂部形状の変更、肉厚の検討を行い、ハイトップランドのクラウン及び特殊リングの採用により燃焼室部品の温度の均一化と低下をはかるとともにピストンリングの本数も減らしています。スカートはLH34L形と共通です。
クラウン取付ボルトは従来のまわり止め割ピン式からハードロック式ナットに変更し、メンテナンスを容易にしています。連接棒は長くするとともに座屈に対する強度を考慮し太くしています。
(5) シリンダライナ
ボアークーリングライナを採用するとともに本機には低速機関では初めてのLセーブリングを設けています。これにより潤滑油消費をコントロールするとともにシリンダライナ内面の摩耗の減少をはかっています。
ストロークの変更によりシリンダライナの長さも長くなりますが、中間支え方式を採用し、中央及び下部の2カ所でシリンダライナを支え、振動の軽減及び“O”リング部からの水もれに対する充分な対策を行っています。ライナ内面はタフトライド処理を標準とし、シリンダ注油を行っています。
(6) 動弁装置
衝棒駆動に代り油圧動弁を採用しています。これにより吸・排気弁の確実な作動のほか、部品及び配管の減少、低騒音化、さらに吸・排気弁バネからの油の飛散なども防ぐことができます。
(7) 燃料噴射ポンプ、カム軸
燃料ポンプは高圧形ポンプを使用し、プランジャスピードを上げて高圧噴射を行うとともに噴射管を短くして噴射特性を改善しています。
燃料カムは適正な噴射タイミングと最適なプロフィルを採用し、高圧噴射によるカム軸の揺れを少なくするため、カム軸径を太くしています。
5 試運転結果
新LA34形機関はマッチング試験も含め250hの運転を行い、各種試験項目の確認をいたしました。その結果は開発目的を充分に満足するものでした。図3に機関性能曲線を示します。100%負荷の性能は燃料消費率185g/kW・h、排気温度はシリンダカバー出口338℃、過給機入口458℃と非常に良好な値でした。
図4にNOx計測値を示します。IMOによるNOx排出規制が2000年1月より実施されます。当社では永年試験、研究してきた技術をこの機関にも取り入れ、燃費の悪化なしに規制値をクリアしました。
その他実施した試験内容
○機関構造物の応力計測
○機関振動、機関騒音計測
○シリンダカバーの応力、変形計測
○油圧動弁作動確認試験
○50時間耐久運転、潤滑油消費量計測
○機関単体ねじり振動計測
○燃焼室の温度計測
○ヒートバランス計測
○力率、摩擦損失計測
○潤滑油ポンプ容量、調圧弁性能確認試験
○シリンダカバー、ピストン開放
新しく採用された構造物の箱形構造、油圧動弁及びLセーブリングなとは特に機関振動、騒音及び潤滑油消費量の低減などで充分な効果がみられ、他の試験結果もほぼ計画どおりの値が得られました。
図3 性能曲線
図4 NOx計測値
6 あとがき
当社は昨年創業80周年を迎えましたが、長年ディーゼル機関を製造してきた経験と新しい視点からの見直しによる新LA34形機関が今まで以上にユーザ各位のご期待にそえるものと確信いたしております。