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2.9 過給装置
1) 過給機
(1) 過給の目的
 燃料油が燃焼するためには一定量の空気が必要である。したがって小さなシリンダでは吸入する空気量が少ないために燃焼できる燃料油の量が少なく出力も小さい。
 圧縮機(コンプレッサ)により大気圧以上に加圧した空気をシリンダ内に送り込めば、同容積のシリンダでも多量の空気を押し込むことになり、無過給の場合よりも多くの燃料油を燃焼させて出力を高めることができる。これが過給の目的である。この目的のためにエンジンに取付けられるものが過給機であり、現在実用化されている過給機は下記に大別される。また一般に多く使われている排気タービン過給機の概念図を2・146図に示す。
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2・146図 排気タービン過給機概念図
(2) 排気タービン過給機
(イ) 排気ガス中のエネルギの回収
 排気タービン過給機は機関との間に機械的な連絡がなく、機関の排気ガスにより駆動されている。
 排気弁の開く際のシリンダ内のガス圧力は0.4〜0.8MPa(4〜8kgf/cm2)である。これをシリンダ内でさらに低圧膨張させるためには、機関のストロークを余程長くせねばならず、機関構造上の制限より不可能である。従来の無過給機関では排気はシリンダから無駄に大気に放出されているが、排気ガス中には2・147図および2・148図に示すように、燃料の全エネルギの約40%にもおよぶエネルギが含まれており、その中の1/4はさらに大気圧までガスを有効に膨張させることにより機械的に利用できるエネルギである。他の1/4は排気ボイラ等の熱交換器を用いれば、熱源として利用できるエネルギであるが、残りはいかにしても利用不可能なエネルギである。排気ガスを有効に膨張させれば上述のごとく理論上の持つ全エネルギの約10%、すなわち機関出力の約25〜30%が機械的仕事に回収できる可能性がある。この回収可能なエネルギの機関出力に対する割合は一般的には機関出力の増加とともに増加する。過給機はこの回収したエネルギにより給気圧力を上昇させ機関出力の増大を図っている。
(ロ) 過給方式
 ディーゼル機関の過給方法には吸排気管の慣性効果を利用したものもあるが、大半は排気タービン過給機によるものである。
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2・147図 燃料の全「エネルギ」の交換
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2・148図 排気ガスタービン過給機関熱平衝図
 これは排気行程でシリンダから排出される高温度の排気ガスを利用して排気タービンを廻し、これに直結した圧縮機で加圧空気を作って吸入行程のシリンダ内に押し込むようにしたものである。過給の方式としては次の2つの方法がある。
(a) 静圧過給方式
 各シリンダの排気を脈動エネルギが殆んど消失する位の比較的容積の大きい1本の排気集合管に集め、排気の脈動圧力をほぼ均整にして過給機の排気タービンの駆動力とする方式で大形機関に多く採用されている。
(b) 動圧過給方式(ビュッヒ式)
 機関からサイクル毎に激しく排出される排気を、そのままの勢いで排気タービンに作用させる方式であって、主として排気始めの吹出しエネルギを直接タービンの駆動力とする方式で、中高速舶用機関に現在最も多く採用されている過給方式である。その名の示すように排気行程の排気ガスブローダウン時のガスの動圧エネルギを利用することを特長としており、ピストン頂部間隙容積内に残留する排気ガスを掃気し、吸入効率を改善するビュッヒ式掃気方式と併用することにより、十分な空気量を機関に供給でき、機関の性能は大幅に改善される。
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2・149図 ビュッヒ式掃気排気管配列
ビュッヒ式掃気方式では排気管をシリンダ数により2・149図のように2〜4群に分け、たとえば4シリンダ機関で着火順序が1−3−4−2の場合は第1および第4シリンダを1本の排気管、第2および第3シリンダを他の排気管に流入させるようにし、各排気管にはあるシリンダから排気が流入した後、つぎの排気が流入するまでの間にクランク軸が240度以上回転するようにする。排気管群を過給機のタービン入口ケースに導き、それぞれ分割された排気ガスをそのままタービンノズルよりタービンに噴出させる。各排気管内の圧力脈動は排気弁の開いた後約90度の間は高圧となっているが、それから後つぎの排気が始まるまでの間は2・150図に示すように低圧となる。すなわちピストンが上死点付近にあるとき低圧となる。このとき吸排気弁がともに開いていれば過給機のコンプレッサにより圧縮された吸気管内の空気は、排気管内より高圧であるので吸気弁、ピストン頂部間隙および排気弁を通り抜けて排気管内に流入する。この際完全な掃気と、燃焼室周辺の冷却が行われる。この後で排気弁が閉じシリンダ内は加圧された空気で充満される。
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2・150図 排気タービン過給機関、排気管内圧力脈動線図
 このように、動圧過給方式では、排気管内を流れる排気の慣性を利用して掃気し、そのあと排気タービン過給機で加圧空気を押し込むものであるから、吸排気弁のオーバラップを2・151図に示すように大きくしている。
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2・151図 排気タービン過給機関と無過給機関の弁とリフトの関係
(ハ) 排気タービン過給機の特徴
(a) 特長
[1] 機関の小形軽量化ができる
 同一出力の無過給機関に比べて過給機関は、軽量小形となり機関室が小さくでき、船の積載量が増加できる。同重量の機関では過給により出力が増加し船速が増す。
[2] 馬力あたりの製作費が安い
 機関が小形軽量化できるため、製作費も安くなる。
[3] 機械効率の向上ができる
 機関の摩擦損失馬力は、機関の大きさ、回転数による影響が強く、また回転数が一定の場合、平均有効圧力の大小によってはまったく変らない。従って過給機付の場合は、平均有効圧力が上昇し、有効仕事量も増加するが摩擦損失は余り変化しないので機械効率が向上する。
[4] 馬力あたりの燃料消費量が少ない
 機械効率の向上に伴い、燃料消費率を無過給機関に比較して2〜10%向上することができる。
[5] 過給機の駆動に軸出力を使用しない
 機関と直結か、または単独で送風機を駆動する過給機は、出力の5〜10%が送風機駆動に消費されるが、排気タービン過給機は、送風機駆動のための損失がない。
[6] 過給機と機関に機械的な連絡がない
 機関と機械的な連絡がないので、機関の回転数に関係なくクランク軸の所要出力が大きくなると、排気の持つエネルギも大きくなり、自動的に過給機軸の回転が上昇して、吸入空気圧力も高まり、機関の使用状態に適した運転ができる。このため機関の正回転、逆回転にも関係ない。
[7] 消音作用がある
 排気ガスタービン過給機は、排気の爆音を少なくする作用が強いので、排気サイレンサは簡単なもので充分である。
(b) 欠点
[1] 燃焼室周辺の温度が無過給機関に比べて少し高温になる
 排気温度は吸気温度の変化に対して、2・152図のように変る。吸気温度10℃の上昇に対し、排気温度はシリンダ出口で18〜23℃位上るが、この傾向は高速エンジン程大きく、吸気温度上昇分の約2〜3倍位高くなる。
2・152図 吸気温度と排気温度の関係
[2] 最高爆発圧力が上昇するので、機関の振動が大きくなる。またシリンダヘッド締付けトルクも高くする必要がある。
[3] 排気タービンが故障したときは、機関出力が減少する
 無過給機関に比べて圧縮比が低く、又オーバラップが大きいので、排気タービンが故障して給気圧が上らなくなると、上死点で排気ガスがシリンダ内へ逆流し、そのために同一形式の無過給エンジンより出力が低下する。
 普通、舶用エンジンの場合は過給機が故障した場合でも、タービン軸を固定または応急短絡管を用いれば規定回転数の50〜70%の回転数で使用する事ができる。
[4] 低負荷において燃焼が悪くなる。
[5] 過給機の取扱いや、保守に注意しなければならない。








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