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2. ディーゼルエンジンの主なる構成と整備
 ディーゼルエンジンはそれぞれの用途によって各種各様の構造を持っているが、その基本原理は何れも同じであり、その構成も大体似た部分から成り立っている。その主要構成を調べて見ると大体次の部分に分けることができる。
 [1] エンジン本体部
 [2] エンジン運動部
 [3] 動弁装置
 [4] 潤滑装置
 [5] 冷却装置
 [6] 燃料装置
 [7] 調速装置
 [8] 始動装置
 [9] 過給機
 [10] 減速逆転装置
 [11] リモートコントロール装置
2.1 エンジン本体部
 エンジン本体部はシリンダ、シリンダライナ、シリンダヘッド、燃焼室から成っている。
 
1) シリンダ
(1) 構造と機能
 一般にシリンダブロックをさしクランクケースと一体又はシリンダとクランクケースを別々に作り、内部にはシリンダライナ、クランク軸、カム軸を取付け、上部にシリンダヘッド、下部にはオイルパンまたは台板等が取付けられ機関の本体となる部分である。材質は鋳鉄が主となっている。なお、シリンダブロックに潤滑油主管、冷却水管を内蔵したもの、又吸気マニホールドを一体構造として剛性を上げているものもある。
 シリンダの構造は主として次の3つの種類があり、その概要を2・8図に示す。
a) 台板形:エンジンベッド(台板)の上に、クランク軸、主軸受が設けられるもの。
b) ハンガベアリング形:シリンダブロックに主軸受を吊り下げて取り付けたもので、下部にはオイルパン(油受)を取付ける。
c) メタル胴形:クランクケース部を長くし、クランク軸および主軸受を端面より挿入する形式のもので、別名トンネル形ともいい一般に小形単シリンダエンジンに多く用いられている。
(2) 点検と整備
 破損、亀裂のほか冷却水通路部やライナ嵌合部の腐蝕などを点検し、破損部分が軽度で大きな力が加わらぬ箇所であれば低温溶接やメタロックなどで補修する。亀裂の軽度なものは進行停止の孔をあけ低温溶接又はメタロックにて補修する。
2・8図 シリンダの構造
 水通路や冷却ジャケット部などの腐蝕や浸蝕は軽度なものは凹部をデブコン補修し、その原因を調査して対策を考える。海水による腐蝕は防蝕亜鉛の状態を点検し、必要ならば交換する。
 各軸受メタルのハウジングの変形や穴部からの亀裂ならびにブッシュやメタル焼付によるハウジングの損傷は殆んどの場合シリンダを交換することになる。その他、水、油、空気などの通路孔の盲栓からの洩れについても点検する。
 台板については破損亀裂のほかビルジによる腐蝕などを点検すると共に機関台への据付足つけ根および主軸受やバランサ軸受を起点とする亀裂の有無に留意する。主軸受ハウジング穴変形、メタル焼付による焼損、バランサ軸受ブッシュ焼付による変形焼損などは交換する。
 又オイルパンについては腐蝕と亀裂を点検すると共に板金製の場合は破損、凹みなどの変形を点検する。
 
2) シリンダライナ
(1)構造と機能
 気筒ともいい中空円筒形をしており、その内部でピストンが往復運動を行ない空気を圧縮し燃料を燃焼させて熱エネルギを発生させる部分である。材質は高温高圧に耐えうる特殊鋳鉄を使用し特別なものとして内面に硬質多孔性のクロームメッキ(海水直接冷却の場合)又はタフトライドなど特殊表面処理をしたものもある。
 構造による分類は大別すると次の3種類となる(2・9図参照)。
[1] 一体形:シリンダブロックとシリンダライナが一体に作られている(2・9図(a))。
[2] 乾式ライナ:スリーブをシリンダブロックに挿入し間接的に冷却水にて冷却するタイプである。スリーブとシリンダブロックとの嵌合はタイトとルーズの2種類がある(2・9図(b))。
[3] 湿式ライナ:ライナをシリンダブロックに挿入し直接ライナ外周面に冷却水が触れるタイプである(2・9図(c))。
2・9図 ライナの分類
(2) 点検と整備
 ピストン抜き出し後ライナ内面の摩耗、腐蝕、メッキ層の剥離腐蝕などを点検計測する。その後で必要ならばライナをシリンダから取外す。分解したライナは鍔下の亀裂の有無、外周冷却水ジャケット面の腐蝕、Oリング溝および周辺の腐蝕などを重点的に点検する。更にライナ上面のガス洩れや吹抜け跡の傷の有無についても点検する。
(イ) ライナ内径の摩耗量測定
 ライナ摩耗の激しい箇所は2・10図に示すように上死点におけるトップリング位置であり、計測は2・11図に示すように上死点および下死点におけるトップリング位置とその中間付近の3箇所の内径をクランク軸方向(A方向)およびその直角方向(B方向)をシリンダゲージで計測し、計測値は必ず記録しておく。
2・10図 ライナの一般的摩耗個所
 摩耗量が使用限度内であっても真円度や円筒度が限度を超えるものは交換する。ピストンとライナの組立基準スキマを超える場合もピストン又はライナのいずれかを交換して基準内に入るようにするが、それでも基準内スキマを得られない時は両方とも交換する。
2・11図 ライナ内径の摩耗量測定
(ロ) ライナ内面
 内周面に酷いスカッフや焼付きのある場合は交換するが軽微なものについては油砥石で平滑に仕上げて使用する。なお、内周面に深い縦傷のあるものは交換する。
 クロームメッキライナは内周面のメッキ層が摩耗して地肌が出ているものやメッキ層が剥離しているものは交換する。又メッキ層の表面に白斑模様が出ているものも交換した方が良い。ただし、比較的小さな白斑模様であれば油砥石で平滑に仕上げてそのまま使用することもできる。
(ハ) ライナ外周
 ライナをシリンダから取外した時は鍔下の付け根付近の亀裂をカラーチェックし亀裂のあるものは交換する。
 Oリング付近の水垢(スケール)を清掃してから腐蝕などを点検する。水ジャケット面に点々とした小さな孔ができているもの、特に冷却水浸入の裏側に2・12図に示すような小孔が集中している場合はキャビテーションの恐れがあるので、この様な場合にはメーカの指示により処置する。








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